第八夜


 昨日あたしは雄一さんと結ばれた。それは今までに経験してきたこととは全く違う素晴らしい体験だった。会社から帰ってきて昨日のことを思い返しながらあたしは幸せな気分に浸っていた。

 今夜も彼は来てくれるんだろうか。

 そんなことを一人思い耽っていると、雄一さんは今夜も訪ねて来てくれた。

 そして真剣な顔で彼はあたしに言った。

「白倉さん、いや、小夜子、結婚しよう。必ず俺が君を幸せにするよ」

 プロポーズ……初めて彼に出会った時から、もしかしたらこんな日が来るんじゃないかと思っていた。

 電車で出会ってからずっと彼とデートを重ねていた。そして昨日、ここであたしは彼に身を任せた。

 こんなに早く……でも。

「……はい」

 こくりと頷いたあたしは幸せな気分で一杯だった。それは生まれて初めて味わう満たされた気持ちだった。

 雄一さん、あたしを幸せにして。

 嬉しさの余り雄一さんに抱きつきながら、あたしはこの一週間の雄一さんとの楽しい日々を思い出して……思い出し……アレ? 

 思い出せない……どうして……

 昨日は彼と初めてのセックスをした。その前は、その前は……どうして? どうしてこの一週間の記憶が何もないの。彼と毎日デートしていた、そうじゃなかったの?

 あたしは一生懸命考えた。

 あたしは……あたしは何をしていた……あたしは……あたし……いや、おれ……俺は……そうか、そうだった。

「どうしたんだい」

「ううん、なんでもない」

 抱きしめた雄一さんの顔を見上げながら、俺は全てを思い出していた。

 小夜子……でもいいよ、これからずっと一緒だ。ずっと……

 そして俺たちは口付けを交わした。



 あたしを幸せにして、雄一さん…… 



(続く)

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