第七夜


 あたしはいやだった。女の自分が、今までの女としての人生が。

 新しく生まれ変わりたい。生まれ変われるなら強い男になりたい。そう思い続けていた。

 あたしの人生は男に翻弄され続けていた。そんなのもういやだ。

 そしたら彼が現れた。やさしい彼、あたしの全てを知りたいと言ってくれた。
 
 彼ならきっと・・・あたしの望み・・・許してくれる。

 最後の夜、七日目の夜。彼は今日も来てくれた。

 ここに来るまでにいろいろ考えたのだろう。少し疲れているようだ。

 いつものように私たちはテーブルを挟んで向かい合った。

 彼のグラスに、最後に残ったゼリージュースを注ぐ。


「紫色か、今までのと違うものかい?」

「いいえ同じものよ。そしてこれが最後。これを飲み終えたら、その時は・・・」

 あたしはいつものように微笑みながら彼に告げた。

「これを飲んだらあなたはあたしになる。もうわかるでしょう。あなたが夢の中で経験した出来事は全て本当にあったこと。私が送ってきた人生なの。それをあなたはこの六日間体験してきたのよ。そしてそれも今日が最後。それを全部飲んだらもう戻れない。夢の中で体験してきた人生はもう全部あなたのもの、いえ私のすべてがあなたのものよ。全てを飲み終えた時からあなたが白倉小夜子になるの」

「君は」

「あたしもあなたと一緒に毎晩飲んだのよ。あなたの人生を夢の中で体験してきたわ。今からあたしがあなたに、黒木雄一になる」

「それが君の言っていた7日後に起きる良い事なのかい」

「今日まで黙っていてごめんなさい……でももう女はいや。けれどもあなたはどう。あたしの体はこれからずっとあなたのもの。私にとってはいやなことばかりだったけれど、夢の中であなたはどうだった。女って気持ち良いでしょう。あなたはその女の心地よさをこれからずっと感じることができるのよ。今日からはあたしがずっとそれを味合わせてあげる。あたしが一生あなたのことを愛してあげるわ」


「・・・・・・・・・・・・・・」



 彼は、ためらっているようだ。でもきっと飲んでくれる。だって昨日までずっと飲んでくれたもの。

 そう、彼は少しずつグラスを口に近づけていく。

 さあ、今夜はあたしが一番好きな歌を彼に聞かせてあげよう。

 あたしはオーディオのスイッチを入れた。

……Somewhere, over the rainbow, skies are blue. And the dreams that you dare to dream really do come true.……

 彼もどうやら知っているようだ。

「この曲は確か・・」

「オーバー・ザ・レインボー。ジュディ・ガーランドがオズの魔法使いで唄った『虹の彼方に』よ」

「そうか、『虹の彼方に』……か」

 彼は目を閉じると、静かにグラスを傾け始めた。

 こくっ、こくっ

 ああ、彼の飲み干す音が聞こえてくるようだ。

 さぁあたしも飲もう。最後のゼリージュース。

 目が醒めた時、あたしの新しい人生が始まる。

 これからはあたしはあなたの人生を、あなたはあたしの人生を送るの。

 目の前にあるグラスに注がれた紫色の飲み物。

 あたしはそれをぐっと飲み干した。






 飲み終えた瞬間、目の前がグラリと揺れた。頭の中がぐるぐると回っている。そして俺は、突然はっと我に帰った。

 俺はどうなったんだ。

 自分の格好を改めて見返してみる。俺は紫色のワンピースを着ていた。

 これはさっきまで小夜子が着ていたものじゃないか。

 そして俺の目の前には両手を見詰めている俺が立っていた。

「成功ね。これで今からあたしが黒木雄一、あなたは白倉小夜子よ」

 俺が女言葉でしゃべっている。

「君は小夜子か」

「ええ、そうよ。あたしはあなたになったの。これは夢じゃないのよ。そしてあなたはあたしになったの。これからは俺が雄一だ。俺のこと雄一さんって呼ぶんだよ、小夜子」

 俺は小夜子になってしまったのか。これはもう夢じゃないのか。

「小夜子、かわいいよ。さあ、抱いてあげるよ」

 小夜子が俺に近づいて、俺をギュっと抱き締めた。

 ああ、このほっとした感じ、俺はこれを望んでいたのか。

「あぁ、力が抜ける」

 キスされる。唇から心地よさが広がっていく。俺は俺にワンピースを、スリップを、ストッキングを脱がされていった。

「かわいいよ、小夜子。もう君は俺の物だ。永遠にね」

 ブラジャーの上から胸を揉まれる。ショーツに手を差し込まれ、アソコをまさぐられる。キュンとした気持が何度も何度も湧き上がってくる。ブラジャーを外され、ショーツを脱がされると何も身に付けない生まれたままの姿になった。

「これが今までのあたし、さようなら今までのあたし。そしてこれからは俺がいっぱい愛してあげる」

 俺になった小夜子は、俺を再び抱き締めると、もう一度キスしてきた。今度は舌を激しくからめ合う。胸をグニュグニュを揉まれ脚を、腰を弄られ、アソコをグチュグチュとかき回される。

 ああ、ああ、ああ、もう・・・

「さあ、行くよ」

 小夜子が自分のものになったペニスを俺のアソコにゆっくりと差し入れてくる。グッ、グッーと入り込んで行く度に俺の快感はどんどん高まっていった。

 あん、う、うん、いい・・

 すっかりペニスを自分のアソコに咥え込むと、俺は両腕を、両脚をぎゅっと目の前の俺に絡めた。腰を自分で動かしてアソコに入り込んだペニスが体の芯でうごめく感触を味わう。アソコの中から全身に熱い心地良さが広がっていく。

 あ、あぁ〜、いいよぉ〜

 もう一人の俺も懸命に腰を動かす。それは俺たち二人の初めてのセックス。それもお互いの体を味わい合うセックスだった。

「ああん、いい、いく、いく、だめ、もうだめ、何も考えられない、このまま・・あーーー」

 絶頂の中で俺はぼんやりと考えていた。

 俺は、誰だ、俺は黒木雄一? 違う、雄一は俺をいかせてくれたひと。じゃあ俺は、あたしは誰。ああ、あたしは小夜子、そうだ白倉小夜子じゃない、何ぼんやりしてるんだろう・・・」







……あたしは全部飲まなかった。一口だけ残した。自分が自分でいるために。
……でも彼は……



(続く)

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