第零夜 俺の名前は黒木雄一。とある食品会社に勤めている。入社以来営業一筋の俺は仕事に関しては他の誰よりもがんばってきたつもりだが、女性にはどうにも縁が無い。おかげで30を過ぎても未だに付き合っている彼女もいない。 でも、そんな俺にも今密かに想いを寄せている女性がいた。彼女の名前は白倉小夜子、同じ会社の総務課に勤めている女子社員だ。 彼女は美人でスタイルも抜群なんだが、どうも他の女子社員とも距離を置いているようで、付き合いが悪い、暗いなどと同僚からは陰口を叩かれているみたいだった。けれども俺は社内で彼女の姿を目にする度に、どこか陰のあるその表情に、どきどきするような魅力を感じていた。 ある日のこと、会社帰りの電車の中で偶然俺と彼女はバッタリ一緒になった。 このチャンスを逃がしたら・・・ 俺は思い切って彼女に話し掛けた。 「きみ、確か総務課の白倉さんだよね。俺、営業の黒木だけど夕食まだなんだろ。良かったら一緒に食事に付き合わないか」 「え、えっと確か一課の黒木さんですよね、私…… うーん、そうね、いいですよ」 駄目元で誘ってみたんだけれども、じっと俺のことを見詰めていた彼女は以外や二つ返事でOKしてくれた。これには誘った俺自身がかえってびっくりしてしまった。やっぱりこういう時は思い切って聞いてみるもんだな。 それからすぐに何度か使ったことのあるリストランテにケータイで予約を入れると、俺たちは連れ立ってその店に向かった。 食事は楽しかった。二人っきりで話すると彼女は決して暗いと言われるようなことはない。 「どうして会社ではいつも思い詰めたようにしているんだい。みんなが君のことを何て言っているのか知っているのかい。白倉さんは美人だけど暗いって陰口叩いているんだよ」 「いいの、言いたい人には言わせておけば。ところであなたはあたしのこと、どう思う?」 「ちっともそんなことないと思うよ。君の笑顔って素敵だと思うしね」 「ふふ、ありがとう」 普段ほとんど笑わない彼女がちょっとだけ微笑んだ。 その後も会社でのこと、休みの日のこと、趣味のことと話は弾んだ。初めてのデート、俺は楽しかった。 その日をきっかけに、俺たちは付き合うようになった。会社帰りに食事を誘い合ったり、休みの日には映画を見に行ったり彼女のショッピングに付き合ったり。メールも頻繁に交わすようになった。 俺は彼女と一緒にいるだけで幸せな気分だった。そして彼女のことがもっともっと知りたくなっていった。 (続く) |