異国にて
(その4)

 
漫画&小説原案:SKNさん
小説  :toshi9


  



初めて履くかかとの高いパンプスに、よろめきながらも何とか歩道を歩き始めると、誰かが後ろから声をかけてきた。振り向くと、さっきのパトカーから降りてきた警察官らしい男女が俺を後から追いかけていた。

男の服に着替えてから警察に相談しようと思っていたのだが、この姿のままではちょっと早すぎる。

それにしても何で俺を追いかけてくるのだろう。

だが俺のそんな不安をよそに、きりっとした顔立ちの女性警官が俺に向かって話しかけてきた。だが彼女が何と言っているのかさっぱりわからない。言葉を理解できない俺は、しどろもどろに答えるしかなかった。

「あ……あの……その……」

だが二人とも日本語はわからないようだ。
女性警官は両手を広げて首を振るばかりだった。
その時、隣の男性警官がコツコツと彼女をこずき、手に持ったファイルを指さす。

女性の警官は、”ああそうか”といった表情を見せると、ファイルから一枚の書類を抜き出し、俺に向かってそれを見せた。

「・・・えっ!?」

そこには俺のかぶっているマスク……いや今の俺にそっくりな女性の写真が貼られていた。
驚く俺に向かって、今度は英語を交じえながら懸命に俺に向かって紙に書かれている内容を説明する女性警官。

どうやら写真の女性は日本人旅行者らしいのだが、数日前から行方不明で捜索願いが出されているらしい。

差し出した書類はその手配書らしく、俺を見て写真の女性と勘違いして保護しようとしたらしいのだ。しかも二人の俺に対する慎重かつ丁寧な態度は、どうも単に誘拐された女性旅行者だからというだけではなさそうだ。

さて、どうする。

もしここで真実を伝えたら……多分、俺もその誘拐事件に関わっていると思われるのがオチだろう。キャスターバッグの中には彼女の身分証明書が入っている。その上、俺は彼女そっくりの怪しげなボディスーツとマスクを着ているのだ。どうしてそんな事をしているのか追及されたら、とてもまともな説明なんかできやしない。
それだけじゃない。仮に彼女が既に殺害されていたとしたら、その彼女に何で化けているのか追及されたら……ダメだダメだ、ヤバすぎる!

立ちすくんだままの俺は、パトカーの後部座席に丁寧かつ強引に乗せられると、警察署に連れて行かれた。


応接室らしい部屋に通されると、二人は俺を残して出て行ってしまった。俺はそれからしばらくの間一人だけで待たされた。

「こんな姿のままで警察に連れてこられるなんて……どうなるんだ、俺」

そんな不安を胸にじっと待っていると、しばらくしてドアが開いた。
入ってきたのはさっきの警官ではなく、若い男だった。
そして男の後から見知らぬ警官が入ってくる。

「沙耶奈!!無事だったんだな!!」

男は俺を見るなり駆け寄ってくると、ぎゅっと抱きしめた。
日本語だ。この男、日本人なのか?

「いえ……あの……その……俺は……」
「しっ!」

男は俺に顔を寄せると俺の言葉を制し、警官に見えないようにそっと目の下を引っ張った。
すると、皮が異様に伸びてその下に別の色の皮膚が覗く。
……この男もマスクをかぶってる!?
俺が表情を変えるのを見て、男はそっと伸びた皮を戻す。

「沙耶奈、本当によかった。ずっと心配してたんだ」

そう言って俺を抱きしめ続ける男の肩に、警官が手をかける。

「さて、そろそろ事情を聞かせてもらえませんか?」
「はい、実は……」

その警官は日本語が話せるらしい。男は警官に向かって「二人で食事した後で公園を散歩していると、不意に数人のグループに襲われた。薬のようなものを嗅がされ、気がつくと婚約者がいなかった。」と説明している。

警察は男の説明を一通り調書にとり終えると、やっと俺たちを解放してくれた。
俺は男に連れて行かれるままに、超高級ホテルの一室に入った。その部屋は俺の泊まっている安ホテルとは大違いの豪華な調度品が飾られている。

「さてと、うまくいったね。後はこの二人になり切って日本に行けばオッケーだ」
「お前は何者なんだ。二人になり切ってだって? まさかこの二人を殺したのか?」
「殺したりしないよ。二人は昨夜、不幸な事故で亡くなっただけさ。俺はその後、この男をもらっただけさ」
「もらった? 人の遺体を!?」
「もらったのは遺体なんかじゃないよ。それは今、沙耶奈を着ている君にだってわかるだろう。事故に遭った彼らは、遺体ではなく素敵なものを残してくれたんだよ。あ、君はそれを大金払って買ったんだったね」
「なぜそれを知っているんだ。お前、あの店のおやじの仲間なのか」
「ふふふ、さてね。ところでその声としゃべり方、君はまだ馴染んでないようだね。そうか、着たばかりで感覚の刺激する余裕も無かったんだね。それじゃ俺が今から馴染ませてあげようか。そしたらもっと君も沙耶奈に成りきることができるよ、この男になったあたしみたいにね」

そう言うと、男はいきなり自分の顔の皮を捲り上げた。

「ほら、これがあたしの本当の顔。この国の17歳の女の子で日本語なんんて全くできないんだ。でもこのボディスーツとマスクのおかげで、こうやってこいつと同じように行動できるの。もちろん、ふふふ、この身体で女性を満足させることもできるよ」
「ふっ……ふざけるな。俺はごめんだ。こんなもの脱いで警察に戻る」
「どうやって?」
「えっ?」

俺はマスクを脱ごうと、あごの下の継ぎ目に指をすべり込ませようとした。しかしそこはすべすべと滑らかで継ぎ目などどこにもなく、指を入れることはできなかった。

「ど、どうやって脱ぐんだ、教えろ、教えてくれ」
「だ~め、知っているけど教えない」
「そ、そんな」
「ふふふ、あたしが脱がすまでは決して脱げないというわけだね。つまり日本に帰るまではあなたはずっと沙耶奈のまま。さ~て、それじゃたっぷり女の悦びを教えてあげる」


(続く)






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