異国にて
(その3)

 
漫画&小説原案:SKNさん
小説  :toshi9


  



首筋を指でなぞってみるが、マスクとボディスーツのつなぎ目は全く見えない。俺の身体は完全に女性の姿と化していた。

体を左右に捻ってポーズを取ると、鏡の中の気の強そうな女性も俺と同じポーズを取る。
動くたびに体に張り付いた柔らかい脂肪が揺れる。
胸、尻、太腿……まるで本当に女の肉体に変化してしまったようだ。

「あ、あん」

女になった自分の身体をまさぐる手が乳首を刺激すると、思わず嘆息の溜息が俺の口から洩れる。気が付くと声までも甲高い女性の声に変わっていた。

「この姿をもっとじっくり……そうだドレッサーの鏡」

部屋のドレッサーの大鏡でもっとじっくり観察してみようと思い立った俺は、裸のままバスルームを出た。すると誰もいないはずの部屋の中に人影が動いている。

「だ……誰だ!?」

見知らぬ若い男が、俺の荷物を漁っていた。

「まてっ!!あっ!!」

男は俺の姿を見るや、慌てて俺の荷物を抱えると、脱兎のごとく部屋を飛び出していった。

「待てぇ!」

慌てて男を追いかけようとするが、甲高いソプラノで叫んだ自分の声に、今の自分が女性の姿、しかも裸だということに気が付き、開いた部屋のドアを慌てて閉じた。

「くそっ、この姿じゃ外に出られないじゃないか。警察に届けるわけにもいかないし、どうすれば……」

途方に暮れた裸の俺に残されていた服はベッドの上に広げたままの、マスクのおまけについてきたキャスターバッグに入っていた女性の衣装だけだった。

「これを着るしかない……のか」

女物の服なんか着たことない。でもこれを着ないと部屋の外に出られないし、今の俺は女の姿しているし、どうやらこれはこの女の服みたいだし、そうだ、大丈夫、きっと大丈夫だ。うん。

俺は無理やり自分に言い聞かせながら、赤い派手なショーツを手に取った。

「こんなもん履かないといけないのか……いや、こんな小さなパンツ、ちゃんとはけるんだろうな」

だが、はいてみるとショーツは俺の大きな尻にぴったりフィットした。
多少頼りなさは感じるものの、何の問題もなかった。

それにしても、下腹部の柔らかい肉の奥にあるはずの俺自身の男のモノはどこにいったのだろう。まったく存在感がない。どう見ても、ごく普通の女の股間だ。

ショーツを同じ赤い色のブラを何とか胸につけると、大きな胸の肉をブラのカップの中に押し込む。胸を包み込むフィット感が、何となく心地よかった。

そして下着の上からワンピースをかぶるとなんとか外に出れそうな姿になった。

サイズの小さいパンプスも、履いてみるとすんなりと俺の足に納まった。だが立ち上がって一歩歩くと、高いかかとに全くバランスが取れない。
それでも俺は女のキャスターバッグに残った荷物を全て押し込むと、よろめきながらホテルを出た。

「とにかく男物の服を買ったら、この皮を脱いで警察か大使館に行かないと」

女の姿で街中に出るなんて恥ずかしかったが、そんな事も言ってられない。俺はよろよろと商店街に向かって歩き始めた。

だが、俺は大事な事を忘れていた。メモには皮を脱ぐ方法は一切書かれていなかった事を。

ホテルの前のタクシー溜りにはタクシーだけでなく現地のパトカーも停まっていた。それに気が付いた俺は、一瞬、中の警官に荷物を盗まれた事を告げようかとも思った。だが、この姿ではややこしくなりそうだったので。思い直してそのままパトカーの前を通り過ぎようとした。
だが……




パトカーの中では、助手席の女性警官がホテルから出てパトカーの横を歩いていくる日本人女性らしき姿を目にとめていた。

「ホテルから出てきたあの女性、緊急捜索手配中の、誘拐された日本人では?」

確認するように、運転手席に座る男性警官に向かって話しかける女性警察官。
彼女がファイルの中から取り出した手配書には、まさしく彼女らの目の前を歩く女性と全く同じ顔の女性の写真が貼られていた。



(続く)





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