『他人の妹を頂く方法』
 作:嵐山GO


第3章 物色(その2)

「う、うう…駄目だ、まだ身体を自由に動かせない…」
 一哉は腰を下ろしたままの姿勢で、懸命に四肢に「動け、
動け」と指令を送っている。
「た、頼む…早く、動いてくれよ…」
 なんとか指先を動かせるようになると、まずは紐を解き終え、
妹に入り込んだであろう圭介に視線を移した。

「お、おい。圭介。大丈夫か?」
 少女の身体は呼吸に合わせて僅かに上下しているものの、
声に対しては何の反応も感じられない…。
「おい、おい! 圭介!」
何とか身体を自分のモノにした一哉が、少女の肩を掴んで
揺すった。
「あ…ああ…お兄ちゃん? 私、どうしたのかな…?」
「お、おい。おまえ、圭介じゃないのか?」
「圭介? 何が?」
「何がって…おまえ」
(もしかして圭介は失敗した?)
 不安そうに顔を上げた少女の顔を、一哉はじっと見つめた。

「お兄ちゃん、私、怖いよっ!」
 少女が、兄である一哉の胸に飛び込んで両腕を背中に回した。
「だ、大丈夫だよ…お兄ちゃんが付いてるだろ。ほら、何が
怖いのか言ってごらん」
 一哉は動揺しながらも、ここは何とか兄を演じてみる事に
した。
「あのね、あのね…さっき急にね」
 少女が泣きそうな顔で兄を見上げ言う。
「う…うん」


「私ね、私…えへへー、女の子になっちゃったの」
「はあ?」
「ビックリしたか?脅かしてゴメン。だって俺の演技に一哉が
どんな顔するか見たかったんだよ」
 圭介は小さな舌をぺろりと出して、悪戯好きな少女の表情を
つくった。

「ふぅー、参った。完璧に騙されたよ。心臓止まりそうになったぜ。
 お前が演劇の勉強してるのを今、思い出したよ」
「そうよ。私、そのためにフリーターになったんだもん。
今日は、お兄ちゃんに喜んで貰える様にずっと可愛い妹を演じて
あげるよ」
「おおー、いいねー。その喋り方」
「でしょ? やっぱ、せっかく乗り移ったんだもの。この方が
いいと思って」
 少女は靴紐を解いてさらに言った。

「ねぇ、一緒にシャワー浴びよっか? お兄ちゃん、どう?」
「え、シャワー? 大丈夫かなー?」
「平気よぉ。きっと、この二人だって帰ったら、そうするはずよ。
だっていっぱい汗かいちゃったんだもの」
 言いながらタンクトップの襟を掴み、パタパタと仰いで風を
送り込む。
 一哉はその膨らみかけの胸を見ても、まだ躊躇してた。
「うーん…」

「ねぇ、駄目ぇー?」
 兄の方を見上げるようにして、甘えるように言った。
「そ、そうだな…ま、いっか」
「やったー!お兄ちゃん、大好きー。じゃ、時間もないし
早く行こっ!」
 たった今、兄妹になった二人はバトミントンの道具を玄関に
置いたまま、広い家の中でバスルームを目指して歩き始めた。


(続く)


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