『セーラー服と水鉄砲』
 作:嵐山GO


第6章 ヤクザな姉妹、ついに発動!?(その2)

「ここ俺…私たちが使っていた事務所だね。まだ死んでから数日しか
経ってないのに、なんだか懐かしい…」
 そこは2人が4階建ての小さなビルの一室を借りて、スタートを
切った場所だった。
「そうね。まさかまた来るとは思っていなかったけど」
「でも、なんでここに?中にあったものは全部持っていかれたと
思うけど」
「うん…おそらく鉛筆1本残ってないと思う」
 小さな建物なので管理人室という物も存在しない。美鈴と美月は
階段で3階へ向かった。
「ここよ。やはりテープが貼ってあるわ」
 警察がすでに調べた後だろう、立ち入り禁止の黄色いテープが入口に
張られている。

「美月、あなたのヘアピン貸して」
「うん、いいよ」
 美月は自分のサイドに差した髪留めのピンを抜いて姉に渡した。
「サンキュ。あんたは誰も来ないか周りを見てて」
「分かった」
 カチャ、カチ、カチャ
 鍵穴にピンを差し込み回す。テレビでよく見る開錠の手口だ。

 カチャリ
「うん。開(あ)いたわ」
「さすがは兄貴っ!あ、ごめんなさい。お姉ちゃんでした」
「あんた、ここで見張っててよ。もし誰かが来そうだったら離れても
いいからね」
「お姉ちゃんは?」
「ドアのガラスに美月の影が映ってなかったら警戒するようにするわ」
「はい…それじゃ気をつけて。でも中に何の用なんすか?」
「それは後で話す。じゃ頼むぞ」
 美鈴がテープを潜(くぐ)って室内に潜入した。
 美月は静かにドアを閉め言われた通りに、黙って辺りを窺った。

20分、あるいは30分。時間が経過した。
「美月…大丈夫?出るわよ」
 姉の囁く声がドア越しに妹の耳に届いた。
「お姉ちゃん…こっちは大丈夫。終わったの?」
「うん、上手くいったわ。さ、早くここを出よっ」
 姉妹は脱兎の如く、その場を離れ去った。

「上手くいったって言ったけど、何を探しに行ったの?」
「お金よ、お金。こんな事もあるだろうと天井裏に隠しておいたの。
良かったわ。要らぬ予感が的中して」
「そうなんだ。兄…ううん、お姉ちゃん、やっぱ凄いねー」
「まだ早いし、喫茶店にでもは入ろっか」
「うん。お姉ちゃんの奢りだね」
 2人は目に入った喫茶店へ飛び込んだ。

「ビール!」
「あ、じゃあ私も!」
 オーダーを取りに来た若いウェイトレスが驚いてポカンと口を開けて
いる。
 しばし間を置いて
「申し訳ございませんが未成年者にアルコールは、お出し出来ません」
 丁寧に頭を下げ詫びるウェイトレス。
「うるせーよ!金はあるんだから、グダグダ言ってねーで
ビール持って来いっ!」
「そうだ、そうだ。お姉ちゃん、カッコイイー」
 言われたウエイトレスは、こちらも後ろ足で砂をかけるように
店長の元へと逃げ去った。

「可愛い女の子が啖呵切ると迫力ありますね」
「それじゃ、あれか?この姿でヤクザをやり直すか?」
「ま、それは無理ですね。あ、店長が見てますよ」
「そうか、なら睨み返してやるか?おーい、早く持ってこーい」
 さすがに大声を出されてはまずいと思ったのか、先程の
ウェイトレスが慌ててビールの入ったタンブラーを持ってきた。

「飲んだらスグに出るぞ。まさかとは思うが警察を呼ばれたら堪らん」
「了解っす。じゃ、かんぱーい」
 人間に戻って2度目の祝杯である。それも未成年の少女として。
「それで、お金って幾らぐらいあったんすか?」
「100万ちょいだ。運営資金としては少ないぐらいだが、
今となっては十分すぎる程だな」
「それだけあれば何でも出来ますね。もう隠れて冷蔵庫のビールを
盗まなくてもいいし」
「馬鹿か。オレ達は悪事を働くために生き返らせて貰ったんじゃねえ。
少なくとも人様に迷惑をかけたり、法を犯すのは駄目だ」
「今、俺達、ビール飲んでますよ」
「今だけは許す」
「へへー、有難く頂きます」
 いまだ免疫の薄い2人はビールを飲んで、男丸出しで喋り続けた。

「あ、そうそう。お金が必要って言ってましたが何を買うんで?」
「それはだな…今、何時だ?5時か…そろそろだな」
「何がです?」
「ん?いや…あとでお前、母親に携帯で言ってくれないか?ちょっと、
遊んで帰るから遅れるって」
「いいですけど、兄貴も携帯持ってるでしょ?」
「オレがかけるよりお前がかけた方が喜ぶっつーの。それに姉と
一緒だって言えば安心するだろ?明日は学校休みだから、少し
くらいなら平気だろうさ」
「了解です。で、どこに行くんです?」
「付いて来れば分かる。出るぞ」
 無事支払いを済ませると、バスに乗って駅方面へと向かった。

(続く)



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