『セーラー服と水鉄砲』
 作:嵐山GO


第3章 部屋と制服と私?(その2)

「ここがオレの部屋か。不思議と何の目新しさも無いな…まぁ、毎日
見ているんだろうから当たり前といえば当たり前か。さてと本来なら
帰宅すると、すぐに着替えるわけだろうが…どうにも面倒だな。
安も待っているし、着替えは後にするか」
 女の身体を得たといっても、この男の持つズボラさは抜けては
いなかった。
 鞄を置き、室内をグルリと見回し机やチェストに軽く手を触れた後、
部屋を出た。
 
 コン、コンッ
「安っ、入るぞ」
「どうぞ。兄貴だったらノックなんかしなくても、いつでも好きな時に
入って下さい」
「そうもいかんだろうが。年頃の女達だ。少なくとも表向きは演じてみるさ。
これも試練の一つだ」
「そおっすね。了解です。散らかってますが適当な所に座って下さい」
「ああ、そうだな」
 制服姿の2人はカーペットの上に向かい合って、あぐらをかいた。 
 2人ともスカートの丈が短いので、少しでも視線を下げると下着が
見えてしまいそうだ。
 もっとも、今はお互いが相手を男だと認識しているので、そんなスケベ心
には至らない。
「ジュースで乾杯しましょう。菓子もあったんで頂いてきましたよ」
「祝杯か…こんな無様な姿ではあるが、まずは生き返れたことに
乾杯だな」
「乾ぱーい!」
 少女達の声に混じり2つのグラスの淵が当たって、室内に小さな音を
響かせた。

「それにしても…」
 今度は妹の部屋の中をグルリと見回す。
「兄貴、どうかしたんですか?」
「オレは自分の部屋に入っても何も感じなかったが、この部屋を見て
いると嬉しくなるというか、不思議に楽しい気分になるな」
「何だかんだ言っても妹思いだったんですかね」
「しかし…お前、人を殺すって言う割には可愛い趣味なんだな」
 室内に置かれた可愛いキャラクターのポスターやぬいぐるみを
指差して言う。
「俺じゃないですよ。この女ですから!」
 すぐさま安が手を上げ反論した。
「だから、それはお前だろ」
「そうですけど…俺は人なんか殺しません。ゴキブリも殺せないんです
から」
「そんな、お前がよくヤクザになんかなったもんだ」
「俺は兄貴に一生死ぬまで付いていくと決めたんです!ホントに
死んじまいましたが」
「しかし、こうやって2人とも生き返れたじゃねーか」
「あ、そうだ!兄貴。これから、どうするんです?今後の計画というか」

「計画って言ってもなー…」
 目の前に置かれた菓子を摘んで口中に放る。
「兄貴…」
 心配そうに姉の顔を窺う妹。
「まずは、その兄貴って呼び方は止めないとな。オレの名前は
美鈴だが、お前がオレを呼ぶ時はお姉ちゃん…か?」
「ちょっと恥ずかしいっすね」
「オレの方が、もっと恥ずかしいっつーの」
「兄…じゃなくって、お姉ちゃん。そのオレってのも駄目なのでは?」
「ああ、分かってる。私って言えばいいんだろ?問題ないさ。やろうと
思えば、いつでも切り替えられる。お前の前だから、ちょっと戸惑ってる
だけだ」
「でも、お姉ちゃん。私たち、これからずーっと一緒だよ。頑張らないと
いけないね」
「おお、やるじゃねーか。そうやって聞いてると誰も、お前が
男だったとは思わないだろうさ」
「やだ、もう。お姉ちゃんたら」

「安…実はな、ちょっと頼みがあるんだ」
 真剣な面持ちで顔を上げ言った。
「駄目!お姉ちゃん。美月って呼んでよ。玄関でも言えたんだから
大丈夫でしょ?」
「お前、立場が逆転してるぞ。それに、さっきはあんな状況だった
から…」
「それでも駄目。美月って呼んでくれないと頼みごと聞いて
あげないもん」
「分かったよ。み…美月…」
「なあに?お姉ちゃん」
 姉の美鈴は両手を合わせると、妹にこう言った。

続く



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