『セーラー服と水鉄砲』 作:嵐山GO 第2章 波乱の予感? [ほら、見えてきました。あの町です] 空中を漂いながら、物体の無い声の塊に付いてゆく2人。 「んん?ここは…オレ達のいた町と、さほど離れていないんじゃ ないか? 見覚えがあるが」 「ああ、そうですね。兄貴と事務所の物件を探していた時、 歩いた覚えがします」 見た事のある建物、歩いた記憶のある通りが次々と目に 飛び込む。 [自分達の住んでいた場所の方が何をやるにしても便利でしょう。 ああ、見えましたね。あの子がそうです] 言われた先に少女の後姿が見える。ブレザーの制服に 学生鞄を持って歩いていた。 顔は見えないが、その雰囲気や身なりから弾ける若々しさと 気品を感じる。 「しかし…よくよく見ると、あんなに若くて可憐な少女に化ける事に なるのか…今更ながら自信が無くなってきたな」 [もう後戻りは出来ませんよ。さあ、2人の内どちらが姉の方に 入るのですか?] 「うーーむー…」 「兄貴…大丈夫ですか?なんなら俺が姉の方に入りましょうか?」 「お前、馬鹿か!どっちが入っても同じだろ。残った方が妹に 入るんだから。いや、待てよ。妹の方が荷が重いのか…?」 [どちらも変わらないでしょう。自分達の意のままに行動出来るの ですから] 「成る程…それなら、ここはやはり年長のオレが姉に入るか。オレが 妹の方では、どうにも具合が悪いからな」 「俺は兄貴が妹に入っても、ちゃんと礼儀だけは忘れませんよ」 「だから、それがオカシイだろうって言ってんだ」 「ああ、そっか」 [言い忘れましたが一度、入り込んだら交替は出来ませんよ。 後は一方が抜け出た時点で2人の試練は終了です] 「そういえば抜け出す方法を聞いてませんが?」 [簡単です。目を閉じて抜けたいと懸命に念じれば良いのです] 「案外、簡単なんだ。兄貴、抜ける時も一緒ですよね」 「当然だ。では入るのも簡単なんですね?」 [私には分かりませんが、入った者に聞くと熱い風呂に我慢して 身体を沈めていくような感覚だったとか。おそらくは当の本人による 拒絶反応みたいなものが起こるのでしょうね] 「そうか…しかし熱かろうが痛かろうが、もう死んだ身だ。これ以上 どうなるものでもない」 [さぁ、では貴方が姉の方に入るのですね?急いで!玄関が見えて きました] 少女が門の前で鞄を開けて鍵を取り出した。 「よし、分かった!じゃあ、安っ!お前は妹の方を頼んだぞ」 「がってんです!」 [それじゃあ、お前達、後の事は任せましたよ。私は元の世界に 戻ります] 「最後にもう一つだけ聞かせて下さい。オレ達はずっと、 そちらの世界から監視されているのでしょうか?」 [私たちは、そんなに暇ではありません。世界中の命の火や魂を 管理しているのです。 貴方達がここで何をしようと自由です。町のボランティアを 手伝うのも良し、さらに成績を伸ばして高い進路を目指すも良しです。 抜け出て我々の元へ戻ってきた時、結果を判断し処遇を協議します。 ああっ、ほら!鍵を差し込みますよ。早くっ!] 「おっと、マズイ!安っ、オレは先に入ってるからな」 男は背後から少女に忍び寄り、しがみ付くように自らの身体を 埋没させていった。 続く |