『セーラー服と水鉄砲』 作:嵐山GO 第1章 始めの始まり 真っ白な空間… 上も下も無い、ただ延々と続いているであろう白いだけの世界。 何の境界線も無い。真っ白なだけで無の空間といってもよい。 そこに2つの人間が寝かされていた。 2人とも男で、しかも何も着てはいない。 仰向けになったまま、真っ直ぐに並んで横たわっている。 寝ているのか、死んでいるのか、あるいは気絶しているのか 分からない。 だが身体の至る所を見ても生を感じるような動きは無い。 やはり死んでいるのかもしれない… 明らかに年配に見える大男の方は髪や髭にも白髪が混じっている。 一方、痩せぎすで頼りなさげな体格の方は、まだ30歳にも なっていないだろう。肌にまだ艶が感じられる。 それでもピクリと動くことは無い。 [お前達…私の声が聞こえますか?] どこからともなく聞こえてきた声。男とも女ともいえない中性的な響き。 [声が届いたのなら返事をしなさい] 命令口調ではあるが、威圧的ではない。むしろ優しさを感じさせるほどだ。 「う…うーーん…ここは?」 どうやら年長の男が目覚めたようだ。だが身体は動いてはいない。 目も閉じたままだ。 「何だ?ここは…死の世界?まさか天国?お、隣にいるのは安じゃないか。 おい、起きろ。安っ」 実体から抜け出した魂のような状態なのか。先に目覚めた男は隣に 横たわる安と呼ばれた若い身体の男に声を掛けた。 「う、うーむ…兄貴?兄貴ですか?あ、あれ?ここは?」 「目覚めたか?どうやらオレたちは死後の世界にでも来てしまったらしい」 「死後?はっ!そうか…俺達、死んだんですね」 「ああ、そうだ…立ち上げたばかりの俺達の事務所に縄張りの件で イチャモンつけられその挙句、いきなり刺されたんだ。その後は、おそらく 東京湾にでも沈められたか…」 「でも、そこに俺達に身体がありますね」 「たぶん、この後、死後の世界にでもへ運ばれるんだろうよ。見てみろ。 身体のドコにも傷が無い」 「本当だ…ああ、もうこの身体には戻れないのかー。兄貴と一緒に やりたい事が一杯あったのに…」 「そうだったな」 [お話は終わりましたか?] 再び先程の声が脳内に響く。 「あ、この声…」 「誰だ?ここは何なんだ?」 「安っ、待て。オレはさっき、この声で目覚めたんだ」 [貴方達の処分をこれから説明します] 「処分だって?オレ達は何も悪いことはしていない。むしろオレ達の 住む町を住みやすく平和な町にしようと思っていたところなのだ」 「そうだぞ。俺達は人に好かれるヤクザを目指していたんだ。それなのに、 余所者に刺されてしまって…」 [それは分かっています。志、半ばでココへ来てしまいましたね] 「だったら2人とも天国に行けるんだろう?まさか地獄なんて事は ないよな?」 「安…お前…」 [天国や地獄などというものは人間である貴方達が勝手に作り上げたもの です] 「じゃあ、どうなるんだ?針の山とか血の池とか…はっ!まさか死ぬまで 過酷な重労働を強いるんじゃ」 「安、黙ってろ。それにオレ達はもう死んでるんだ。ジタバタしても仕方がない」 「そ、そういやー、そうですね」 [今は貴方達に、この世界の事を話しても無意味です。何故なら2人を 生き返らせる事に決めたからです] 「え!元の身体に戻して貰えるんですか?」 興奮したのか、今度は兄貴と呼ばれる年長の方が声を荒げ聞いた。 [いえ、残念ながら元の姿に戻すことは不可能です。その代わり2人には、 ある姉妹の身体に入って頂きます] 「姉妹…ですか?何故、女なんでしょう?」 [その姉妹は仲が悪く…特に妹の方は反抗期で現在、姉の殺害を企てて います] 「そ、それをオレ達に止めろと?」 [簡単に言えばそういう事です] 「だが、そんな話は世界中ドコにでもあることでしょう?何故、その姉を 助けるんです?」 [姉だけではありません。妹は姉を殺した後、室内で待機し仕事から 帰ってきた両親も殺害するつもりです。そして、おそらくは自分も 自殺するでしょう] 「一家全員ですか…で、その家族を救う理由はなんです?」 [これは貴方達への試練です。貴方たち2人の今後を見極めるテスト みたいなものです。無事、家族を救えたら貴方達の言う天国とやらに 導きましょう。その時にゆっくりと、この世界の事を話してあげます] 続く |