『魅力的なOLボディを頂く方法』
 作:嵐山GO


第9章  欲望の行き着く場所

玲子に化けた圭介と美咲に化けた一哉は、避暑地の夜風を
身体に受けながら、綺麗に舗装された通りをゆっくりと
歩いていた。
「風が気持ちいいね」
「うん。美咲も、もっと短いスカートにすれば良かったのに。
風が股の間を通り抜けて気持ちいいよ」
「でも捲れたら恥ずかしいよ」

 大きな橋を川の音を聞きながら進むと、涼しげな風が何度も
美咲の長い髪を撫で上げる。
 人も車も全くといっていい程見ないので、二人は歩く度に
揺れる胸を見下ろしたり、髪をかき上げたりしながら女の姿を
満喫していた。

「ほら、ここ」
 玲子が指差したホテルの大きな案内板の一つにラウンジにある、
お洒落なバーの写真が蛍光灯で映し出されていた。
「高そう…」
「たぶんね。だから、なるべくなら自分達で払いたくはないのよ」
「うふふ。玲子の魅力で男が釣れればいいね」
「しっ! 誰かに聞かれちゃう。さ、行こ」
 二人は数段の階段を慎重に歩いてロビーに足を踏み入れた。

「すごいシャンデリア。プリンスホテルみたい…」
 メインフロアーの高い天井には、眩いばかりに輝く豪華で
巨大なシャンデリアが吊り下げられている。
「ほら、美咲。そんなのいいから早くエレベーターに乗ろうよ」
 玲子が美咲の手を掴むとそのまま、エレベーターの前まで
引っぱっていった。

 タイミングよく到着したところに乗り込んだ二人だったが、
無惨にもエレベーターは下の駐車場階へと降りていった。
「ま、いっか…」
「うん」
 ガタンッ、ヴィーン

 地下一階で扉が開くとカップルらしき二人組みが乗り込む。
 今度は上昇し一階のロビーでカップルを吐き出すと、
入れ替わりに中年夫婦が乗り込み、行き先階で降りるまで
美咲と玲子は無言のままじっとしていた。

「カップルも中年夫婦も、玲子をチラチラ見てたね」
 美咲が最上階に着くまでのわずかな間に口を開いた。
「まあね、この服装は目立つから仕方がないわ。でもさすがに、
ちょっと恥ずかしかったけど」
「うふふ」
「でも見られるのってなんかいい気分。それに…歩いてる内に
パンティがお股に食い込んできちゃって…」
「だから言ったじゃない」
「ううん、いいの。食い込んだパンティが紐みたいになって
ヒダやクリを擦るから気持ちいいのよ」
「そ、そうなんだ…」

「美咲、私…濡れてきちゃったみたい。美咲は?」
「っ!!」
玲子は美咲ににじり寄ると、すぐさま美咲のスカートを
捲り上げ、ストッキングの上からパンティ越しに右掌を押し当てる。
 と、同時に左手も胸に押し当ててきた。
「ちょ、ちょっと玲子、やめて! エレベーターもう開いちゃうよ」
 両手で玲子を突き放す。

「えへ、ゴメン。ちょっとふざけてみたの」
「もう! びっくりするじゃない」
「美咲ったら、顔真っ赤にしちゃって。可愛い」
 言いながらスカートの裾を少し捲ってみる。
「…だって、それは」
「下着もフリフリのにしたんだね。いいと思うよ。あっ、
ほら着いたみたい」
 最上階のバーの前でエレベーターの扉は開いた。

「あわわ…超緊張する…」
「大丈夫だってば。言ったでしょ、恥ずかしいのはあんたじゃ
なくて本人達だって。ほら入ろうよ」
 もう一度玲子が美咲の手を取り、今度はバーの中へとエスコート
した。

「お二人様でございますか?」
 即座に、入り口で案内係らしき男に声を掛けられた。
「え、ええ」
「ではカウンターになさいますか? 今、あいにく窓際のテーブルは
満席でございますが、他でよろしければご用意出来ます」
「それじゃ、テーブルにして頂戴」
 玲子が物怖じせず、答える。
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
二人はスーツを着込んだ男の後ろから付いて行った。

 フロアー全体は間接照明によって照らされていてムード満点で
ある。
 唯一スポットライトが明るく照らされているのは、中央の
真っ白なグランドピアノのみ。
「こちらでございます。では、ごゆっくりどうぞ。少し致しましたら
ご注文を伺いに参ります」
 そう言うと男は小脇に挟んでいたメニューを置いて、持ち場へと
戻った。

「何、飲もっか? ビールってわけにはいかないしカクテルでも
いい?」
「任せるよ。なんだか緊張しちゃって、なんにも考えられない」
 任された玲子はテーブルに置かれたグラスキャンドルの明かりを
頼りにメニューに見入った。
「ふぅー」
「どしたの? 玲子…」
「一番安いものでも一杯、1360円だって。こんな所で二人で
飲んでたらあっという間に一万円超えちゃうわね」
「どうする? 出る?」

 美咲の提案を聞いた後で、玲子は辺りをぐるりと見回して
言った。
「せっかくだから一杯だけ何か頼みましょう。それに目が慣れて
きたせいか、改めて回りを見るとカップルや夫婦以外にも
男同士ってのも結構いるから、チャンスはあるかもね」
「…そうなんだ」
「私はこれにするわ。ティンカーベルっていうの。ラムベースの
甘口カクテルだって。美咲は私よりお酒が強いからこっちに
したら? フェアリーテイルっていうのよ。どう?」

 玲子がメニューの写真を指差しながら説明した。
「私がお酒好きでも、この美咲の身体に強いお酒の免疫あるか
どうか分からないよ。だから私も同じのでいい」
「そうね。分かったわ」
 玲子はウエイターにカクテル二つとチーズクラッカーを注文した。

 程なくしてオーダーしたものが運ばれるとピアノの生演奏が
始まる。
 照明の数も増え、店内は仄かに明るさを増した。

 クラシカルな長いイントロに続いて、曲はいつの間にか
イーグルスの『デスペラード(ならず者)』に変わっていた。
 タイトルに反してピアノの旋律が印象的な名バラードだ。

「なんか、ここまでムードが高まると逆にテンションが下がるね」
美咲がカクテルグラスに付いたルージュを気にしながら言った。
「しっ。あのね、聞いて。窓際にいる二人組みの男たちがね、
やたら私たちを見てるの。もしかしたらこれはチャンスよ。
何かきっかけを作ってあげたいんだけど…」

「え? そうなの…どこ?どこ?」
 美咲がキョロキョロと首を回すと、すぐにそれらしい二人組みを
見つけた。
 二人組みと目が合った美咲は軽く会釈する。
「あ、一人が立ち上がったわ。こっちに来るんじゃない? さすが
美咲、やるわねー」
「え? 私は別に…あ、ホントだ。来たよ。どうしよう…」

「こんばんはー」
 男は二人を見下ろし笑顔を作りながら言った。
「こんばんは」
「ど、どうも」
 玲子と美咲もそれに答えて軽く頭を下げた。
 男は30台半ばだろうか。スラックスにシャツ、ジャケットを
着込んでいる。
 ホテル内を浴衣で歩き回る事は禁止されているし、
ナンパ目的なら尚更の事だ。

「このホテルに泊まってるんですか?」
 男が二人を交互に見下ろしながら聞いた。
「あ、いえ。違います。私たちは向かいのホテルから来たの。
あっちには、お洒落なバーとか無くって」
 あらかじめ用意していた台詞のように玲子がスラスラと返答する。
「そうなんですか。あのー、良かったら僕らのテーブルに
来ませんか? 窓際で外が見渡せますよ。もっとも外と言っても
真っ暗で大したものは見えませんけどね。野郎二人で飲んでて
不気味なんですよ。どうか助けると思って、いかがでしょう」
 軽いジョークを交えながら、男は言葉を繋いでゆく。
女を誘う事に慣れている感じだ。

「いいですよ。私たちも女二人で飲みに来たけど、
周りのムードばかり高まるから帰ろうかと言ってたところなんです」
「ああ、それは良かった。これで合い方のむさ苦しい顔を
見なくてすみます」
 男はウエイターを呼んで、席の移動の旨を伝えた。

「ついでだから飲み物も頼んでおきましょうか。なんにします?」
「あ、そうね。私は同じのでいいわ。美咲は?」
「あ…じゃあ、私…フェアリーテイルにしてみる」
 オーダーを告げると3人は、もう一人の待つ窓際のテーブルへと
移った。

「こんばんはー」
 待っていた男は立ち上がり席を二人に譲る。男二人と
女二人が並んで向かい合いながら座る形にしたいらしい。
「あ、じゃあ私が窓際に座るわね」
「ええー、私…窓際がいいなー」
「駄目。あんた窓際に座ると外ばっか見て会話に混じらなく
なるでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
「駄目。とにかく美咲は通路側。はい、もう決まり」

 そんな二人の会話を聞きながら、一方の男が言った。
「なんだか面白そうな二人ですね。格好も対照的だし」
「変かしら?」
「そんなことないですよ。よく似合ってます。スタイルが
良くないと出来ないコーディネイトですよね。あ、そうだ。
僕の名前はリョウガって言います。狩猟の猟に牙です。
嘘みたいな名前でしょ?」
「っていうかアニメか何かのキャラクターみたいな名前ね」
「あはは、そんなこと言われたのは初めてです。そんで、
こいつが和幸」
「よろしく」
 和幸と言われた男も笑顔で軽く会釈する。

「私は玲子、こっちは美咲。おとといから来てるんだけど、
夜は何にもすることが無くて退屈してたの」
「観光地、特にこんな山の中はなんにも無いからですからね。
僕らも会社の旅行で来たんだけど年寄りの宴会はつまらないんで
抜け出してきたんですよ」
「大丈夫なんですか?」
 和幸の言葉にやっと美咲が重い口を開く。
「大丈夫じゃないかな?僕らも最初だけは顔出したし、
それに宴会好きが残ってれば良いと思うよ」

 すぐにカクテルが運ばれ四人は乾杯し、雑談を交わした。
 男は二人とも38歳で一緒に入社した同期らしい。
 和幸の方が既婚者で猟牙がバツイチということも分かった。
「じゃ猟牙さんは遊びまわってばかりいたから奥さんに
逃げられたのね」
「リョウでいいよ、みんなそう呼ぶし。ま、カミサンに
逃げられたのは確かだけど、今じゃ身軽になって良かったと
思ってる。子供もいなかったから、別れるのは簡単だったしね」

「和幸さんは、いつご結婚なさったんですか」
 美咲が聞く。
 会話はほぼ玲子と猟牙、美咲と和幸という型にはまって
いった。
「僕は30になってからだけど、妻とは大学からの付き合いで、
同棲もしていたし結婚と言っても特に新鮮味はなかったね」
 その言葉を聞いた玲子が、ここぞと口を挟む。
「聞いて、聞いて!美咲もね、大学1年の時からずっと
付き合ってた彼がいたんだけど、先月別れちゃったの。
フラレちゃったのよ。かわいそうでしょ?慰めてあげてね」
「ちょ、ちょっと。玲子」
「いいじゃない。ホントの話なんだから」



「じゃ、傷心旅行かい?」
すかさず猟牙が聞く。
「それもあるけど、ゆっくり温泉にでもつかって過去を
洗い流しちゃおうっていう私の発案なの」
「玲子ちゃんは彼氏はいるの?」
「私もリョウさんみたいに遊び人だからね、今は特定の男は
作らないんだ」
「じゃ一夜限りのアバンチュールみたいな?」
「あっ、それ最高!ゾクゾクしちゃう」
「じゃこの後、誘っちゃおうかなー」
「うん!誘って、誘って」
玲子と猟牙が勝手にアダルトな香りのする会話を進めていた。

「それで…美咲さんは、もうその失恋の傷は癒えたんですか?」
そんな会話を聞き、あっけにとられている美咲に和幸が声を
掛ける。
「え? ええ…昨日の夜も玲子が懸命に私に気遣ってくれたし、
それで、まぁなんとか…忘れる事が出来そうです」
「僕で良ければ何でも力になりますよ」
優しい台詞だが、その言葉の裏には猟牙と同様のものを
感じ取れた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
当然ながら拒絶する理由も無いので、快く受容した。

「和幸のカミサンは同い年なんだけど、気が強くてしっかりと
尻に敷いちゃてるからね。美咲ちゃんみたいな純な女の子に
弱いんだよ」
「また勝手なこと言いやがって」
「純だなんて、そんな…」
美咲は頬を赤らめ、下を向いた。
「ねぇ、もし良ければ僕らの部屋に移動しない?部屋にも
お酒はあるし、靴を脱いでゆっくりとくつろげるよ。
なぁ、和幸」
「あぁ、そうだね。良ければ、だけど」
「え、いいの? 行きたい。美咲も、もちろん行くわよね」
玲子が強い口調で聞く。
「う…うん」

「じゃあ、決まりだ。ここの支払いをしておくから和幸は
二人を連れて先に部屋に行っててくれよ」
猟牙はこのチャンスを逃すまいと、さっさと立ち上がって
キャッシャーへと向った。
「じゃ、行こうか…」
「うん」
「…はい」

  こうして4人は己の欲望に向って今、確実に歩き始めた。

(第10章へ)




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