『皮り種』
作:嵐山GO


第7章 寄生

 友人宅へ向う途中、本屋に寄って地図で住所を調べた。

 「ええと、確かこの辺り…だったよなー」
 町名、番地などは合っているのだが、どうもそれらしき
住居が見つからない。
 いや、それ以前に、ここは商店街の通りなのだ。
 貸しビルや店舗は乱立しているが、民家もマンションらしき
建物も全く見当たらない。

「銀行、薬屋、パチンコ屋、カラオケ、ゲームセンター、喫茶店
…おいおい、どこなんだよー」
 商店街を抜けてしまうと、町名が変わってしまう。
「参ったなー…市合さん、電話番号くらい書いといてよ」
 ブツブツ文句を言いながら、今来た道をまた戻る。

「大判焼き屋のお婆ちゃんに聞いてみるか…」
 オレはタイ焼きを一個買って、それを頬張りながら聞いた。
「あのー、市合さんていう名前知ってます?」
「ああん、誰だって?エチゴさん?」
 お婆ちゃんは、ちょっと耳が遠いようで鉄板の上に身を乗り
出して言った。
「いえ…い、ち、ご、う、です。そこに千代子ちゃんて女の子が
いる筈なんですが」
「チヨコぉ?ああー、あんたチヨちゃんの友達かい?」
「ええ、そうです。クラスメートなんですよ。知ってますか?」
(ふぅ、良かったー。何とか伝わったよ)

「あんた、どっちから来たんだい?」
「私?えっと、あっちの大通りの方からですけど」
 オレは商店街の入り口の方を指さして答えた。
「そうかい。じゃあねぇ、途中に洋品店と金物屋があっただろう?」
「ええ、たしか」
「その2件の間に通路があるから、入っていけばチヨちゃんちだよ。
行けばスグに分かるよ」
「そうですか…お婆ちゃん。どうも有難うございました」

(ええー?その場所見たけど、通りなんてあったっけな…?)
 オレは丁寧に頭を下げて礼を言った。
「はいよ。今時、珍しく礼儀正しい女の子だねぇ」
「あ…あは…はは…ありがとうございます」
(珍しいのは身体の中身の方なんですけどね)


「げげっ!ここ…なの?」
 言われた場所に確かに通路があったが、それは通路というよりは
むしろ隙間と呼ぶものだった。
「人がやっと通れる位の幅しかないじゃない。制服、汚れないかな?」
 オレは身体の向きを変え、カニ歩き状態で中へ歩を進めていく。

建物と建物の隙間から出ると、一見広い場所に出た。
「え?これって何?人が住んでんの?」
 それはトタン板を延々と張り、繋ぎ合わせて作った長屋だった。
 高さは2m程だが、雑な造りで場所によっては極端に低かったり
するので、男だったら身を低くして入るしかないだろう。
「ここから入っていいんだろうな…」
 大きく口を開けた入り口が一つ。どうやら中で幾つかの
住まいごとに部屋が区切られているようだ。
「こういうのってテレビで東南アジア辺りの住居としてみた事
あるけど、まさか身近にもあったとはね」

 内部は光が射し込まず極めて暗い。
 トタン板で光が完全に遮られているのだ。
「目が慣れるまで下手に動き回らない方がいいかなー?あ、奥に
裸電球が見えた。あそこまで行ってみるか…」

 身体をぶつけない様に慎重に進んでいく。
 至る所に廃材やガラクタが積んであるので危険極まりない。
「市合さんが、住んでる所を言いたくなかった理由はこれか…
それにしても、どの家がそうなんだろう。中身が男とはいえ、
段々心細くなってきたぞ」

 通路はまっすぐ奥まで、ほぼ一直線に伸びている。そしてその
通路の両脇に何メートルおきかに玄関らしきガラス戸が点在する。
 ガラス戸は大体に於いて透けており、中が見え生活感は
漂うのだが人の気配が全くない。
「帰りたくなってきたよ…市合さーん。いませんかー?」
 まさか大声で呼ぶわけにもいかず、オレは戸惑っていた。

「あれ?あの鞄…」
 ガラス戸の向こうに見える畳部屋に、見覚えのある学生鞄が
見えた。
「あの人形のストラップも…間違いない。ここだわ」
 意を決してガラス戸を引き、声を掛けてみることにする。
「あのー、すみませーん…市合さーん、いますかー?」
 その部屋の主だけに聞こえるような声で呼んでみる。

「はい?誰…あ、葵さん!?ど、どうしてここに…」
「良かったー。市合さん、探したんだよぉ」
 襖を開けた市合の顔は、驚きを隠せない様子だ。
「教室に戻ったら市合さん、いないから来ちゃった。ごめんね」
「でも…よくここが分かったわね」
 ジャージ姿の市合が出てきて迎えた。
「ほら、生徒手帳落としたでしょ?届けに来たの。明日、困ると
思って」
 ポケットから出してそれを渡す。

「あ、ありがとう。住所見て来たのね。あ、中に入って。狭くて
汚いところだけど。びっくりしたでしょ?こんなトコで」
「うーん、まぁ、ちょっとはね」
「だから私、本当は友達とか作りたくないの。こんな所じゃ人も
呼べないでしょ」
「外で遊べばいいんじゃない」
 オレは靴を脱いで、卓袱(ちゃぶ)台のある和室に上がりこんだ。

「いつもそうはいかないわ。それに外だとお金もかかかるし」
「そっかー…そうだよね」
 二間だろうか?襖の向こうは分からないが、こちら側には木製に
アルミを貼り付けただけのささやかな流し台がある。
 電話機は見当たらない。

「ねえ、聞いてもいい?ご両親は?」
「お父さんの事は私は何も知らない。私の記憶の中にすでに
いないの。お母さんとずっと二人だけの生活よ」

「大変だったのね」
「大変だったのはお母さんだけどね。お母さんは私を育てるために
朝から夜までずっと働いてる。本当は私も中学卒業したら
働こうかって考えたんだけど、『高校くらい行っておきなさい』
って言われて。ねー、こんな話し、つまんないよね?」

「ううん、そんな事無いけど…本当は、市合さんに聞きたい事が
あるのよ。もしかしたら私の見間違いかもしれないけど…」
 市合の顔をまともに見ることが出来ずに、オレは下を向いて
言った。

「私が男の人とホテルに入るところでも見た?」
「う…うん」
「そっか…葵さんに見られちゃったんだ。ふぅー」
 市合は大きな溜息を一つついた。

「私ね…援助交際してるの。出来たら誰にも言わないで欲しいん
だけど」…
「それは、もちろん…約束出来るけど。でも、なんでそんな事を?」
「お金が要るの。高校は義務教育と違ってお金が掛かる事が多いわ。
お母さんには中学の時と変わらないって言ってあるけど。教材費も
今日着た水着だって…」
「でも売春は良くないと思う」
「分かってる…でも入学前に急に必要だったんだもの」

「じゃ、もうこれからはやめて」
「やめられない、たぶん。まだ修学旅行の積み立てとか定期代とか
あるし」
「何回…その…したの?」
「え?うん…3回よ」
「まだ今ならやめられる。ヤクザに見つかったら大変なのよ」
「それも分かってるつもり…でもどうしたらいいか…
ウチの高校バイト禁止だし」
「例外はあるわ…家庭の事情とか言えば」
「お母さんの承認は絶対にとれない。バイトさせるために高校へ進学
させたんじゃないって怒られるもの」

 暫らく二人の間に沈黙の時間が流れた。

「私が払うわ」
「え?今なんて」
「市合さんに必要なお金を私が払うって言ったの。それなら
問題ないでしょ?」
「駄目よ!そんなこと出来っこない。第一、お金を貰う理由がない」
「理由ならあるわ。私の家庭教師になって欲しいの。週に1回でも
いいからウチに来て私に勉強を教えてよ」

 市合はまだ驚いたような顔をしている。
「べ、勉強って…葵さん、8番だったじゃない。クラスでは、その
…私に次いで2番なのよ。それなのに家庭教師なんて変だわ」
「あのね、ちょっと上手く言えないんだけど、高校の教科は自信ないのよ
…中学までは何とかなるんだけどね」
「は?」

「と、とにかくお願い!これは私の頼みでもあるの。助けると思って。
それにバイト代は私じゃなくパパが払うの」
「お父さん?なら、尚更ダメじゃない」
「ううん、パパね。もう定年退職したんだけど、お金だけはいっぱい
持ってるから大丈夫」
「定年退職?聞けば聞くほど貰える状況じゃなくなってきたわ」

「ねぇ、聞いて。パパがお金持ってるとロクな事がないのよ。外で
飲んだくれたり、ふらっと一人で遊びに行って帰って来なかったり、
ちっとも上達しないくせにゴルフの会員券買ってきたり…」
(なんか自分で言ってて悲しくなってきたぞ)

「それでも…だめ…よ」
「私ってさ、年取ってからの子じゃない?だから可愛くて仕方ない
らしいの。変な物でも買わない限りなんでも許してくれる。
だから家庭教師代なんて言ったら幾らでもホイホイ出すわ」

「でも…」
「約束して!もう二度と縁交しないって」
 オレは市合の隣りに行き、小指を突き出した。
「でも」
「でもじゃないってば!約束出来ないんなら学校にチクるわよっ!
市合さんが援助交際してますって。分かる?そしたら退学なのよ。
お母さん、きっと泣くわね」
「葵さん、酷い…うっ、うう」
 彼女は両手で顔を隠しながら泣き始めた。

「ねぇ、泣かないで。この話は私達にとって悪くない話だと思うの」
「…でも、でも…そんな事して貰って…本当にいいの?」
「本当にいいの。だからもう、お金の事は心配しないで。ね?
はい、指きりげんまん」
「ありがとう。ありがとう!葵さん。うえーん、えーん」
 彼女がオレの胸に飛び込んできて、制服を涙で濡らした。
 オレはそんな彼女をすごく愛しく思え、掌で顔を上げさせると
そのまま口づけた。

「ぐすっ、葵さん…どうして?私たち、女の子同士なのに」
「嫌?私、市合さんを始めてみた時からずっと、こうしたかったのよ」
「…でも…葵さんには、素敵な彼氏が」
 オレは人差し指を彼女の唇に当てて、その先の台詞を制止した。
「私ね、ホント言うとセックスって好きじゃないの。経験が浅いから
かもしれないけど気持ち良くないんだもん。市合さんは?」
「私もそう。痛くって死にそうになっちゃうけど、目を閉じて
終わるまでじっと我慢してる」

「私たち似てるね」
(そっか。市合さんは3回目でもまだ痛いんだ)
「うん」
「ね、エッチしよっか」
「え?ここで?」
「うん。誰かに見られちゃう?」
「それはないと思うけど。みんな日中は働きに出てるから」
「誰も残ってないの?」
「みんな大変なの。ここに住んでいる人たちは明日にでも
ホームレスになってしまうような人たちばかりよ」
「そうなんだ」
(だから、人の気配がしなかったのか)

「…でも、奥の部屋ならいいわ」
「うん」
 オレは市合に案内され、襖の部屋に移った。
「汚くてごめんね」
 裸電球を点けると4畳半程のスペースに質素な机と化粧台が
置いてあった。
「ううん。私の部屋は、こんなに綺麗に片付いてないよ」
(トイレとか風呂とかはどうなってるんだろう?トイレは共用か。
風呂はもしかしたら銭湯なのかもな…)

「もう一回キスしようよ」
「うん…」
 チュッ
「市合さんの唇、柔らかいね」
「そ、そうかな」
「ジャージ脱がせてあげようか?」
「大丈夫。自分で脱ぐ。でも…ふふ」
「何?どうしたの?私、何か変?」
 笑われたので気になり自分の服装を、ぐるりと見回す。

「違うの。葵さんて時々、男の子みたいな喋り方するじゃない?
こういう時って、あー、なんだか合ってるなーって思うの」
「あ、なんだ。そんな事か」
「うふ、ほら。その喋り方よ」
 彼女が笑みを浮かべ脱ぎ始めたので、自分もセーラーの
リボンを解いて下着姿になった。

「市合さん、ブラ外してあげる。だから私のも外してよ」
「いいよ」
 先に自分が彼女に背中を向けてホックを外して貰い、次に
彼女が身体を回して背中を向ける。
(83のA?そんな筈ないよな…もっと大きく見える)

「わぁー、市合さんのおっぱい大きい。触っちゃおうっと」
「あん、葵さんだって大っきいよ」
「あ、乳首勃ってきたね。乳首と乳首くっつけっこしようか」
「うん」
二人で乳房を持ち上げるようにして、お互いの両乳首つける。
「あー、なんだかこれ変な気分だね」
「女の子同士だから出来るんだよ」
(いいな、これ。先端からビンビンと感じてくる)

「ショーツも脱ぐ?」
「うん。そうだね」
 2人はスルリと脱ぐと畳の上に座って向かい合った。
「緊張する…」
「大丈夫だよ…任せて」
「ぷっ、あ!ごめんなさい。なんでもないの」
 オレは彼女の股間に指先を伸ばしながら思った。
(この子、笑っていれば本当に可愛いのにな)

「もう濡れてるね」
「やん、恥ずかしい。葵さんは?」
 言いながら彼女も手を伸ばしてきた。
「すっごーい。葵さんもグッショリよ」
「だって市合さんと、ずっとこうしたかったって言ったでしょ」

 2人はお互いの最も感じる場所を、まるで自分の秘所を
触るかのように丁寧になぞっていった。
「はあーん…イイ…市合さんの指、感じちゃう」
「葵さんの指も…なんだかイヤらしくて…ああ、溢れてきちゃう」
「あんっ、そこ…イイ。お願い、もう指入れて」
「うん…じゃあ私のにも入れてね」

 左手で相手の胸を揉み、右手で秘裂を開きながらも中指は
懸命に抽送を繰り返す。
「あー、イイ…私、イッちゃいそう…」
「市合さん、もうイクの?なら私もイク。ねぇ、一緒にイコうか?」
「うん…うん…ああっ」
「私…イキそう…ねえ、キスしよう」
「うん…あっ、もうイク…」
「私もよ!」
「んんっ!!」
「む…ぐぐっ!!!」

 2人はイク直前に乳房から手を離すと、相手を抱きしめるようにし
ディープキスをしながら果てた。

 指を入れたままの体勢で暫らく抱き合っていた。
「はあー、はー、イッちゃったよ。こんなの初めてだよ」
「うん。気持ち良かったね」
「今度はさ、お互いのアソコをくっつけてしない?」
「えっ?まだするの?」
「だって女の子だもん。一回だけなんて勿体ないじゃない?」
「よく分からない理由だけど、じゃ私はどうすればいい?」

 オレは彼女の両足の間に器用に自分の足を滑り込ませ、
お互いの秘所をぴたりと重ね合った。
「こうだよ。貝合わせっていうんだ。一度やってみたかったんだ
よね」
「葵さん、色んなこと知ってるのね」
「まあね。じゃ、動くよ」
 クチュ、クチュ、ペチャ…
 股間が完全に密着し、濡れた二枚の花弁が戯れるように相手の
花弁と重なる。

「すごいエッチな音がしてる…ああ、でも…」
「どう、気持ちイイんでしょう?もっと可愛い声、聞かせてよ」
「やだー、恥ずかしいってばー…あんっ、あん…すごい」
「確かに、これは…はぁーん、感度が半端じゃない」
 腰をほんの少し上下させるだけで、驚くような快感を得られる。
 ネチャ、ネチャ、クチュリ
「ま、また…私、イク…かも…」
「私もイケそう…市合さん、一緒に…」
「くっ…凄い刺激だ…これは病みつきになりそう」

 ぐちゅ、ぐちゅ、じゅる
 愛液の量がぐっと増え、一層卑猥な音を部屋に響かせる。
「あー…駄目っ!こんなの…私…もう、我慢が…はぁっん」
「イ…イク…また…瑞希の身体で…イッちゃう」
「あーーーっ、もう駄目っ!葵さん!私、イクーーーっ!!!」
「私も…私もイク!イッちゃうーーー!!」

 そのままの姿勢で2人は同時に果て、ぐったりと仰向けに倒れた。

「あー、最高だったー。女同士ってこんなにイイんだ」
「葵さんてホント変わってる。彼がいるのに」
「だから、それは言わないでって」
 寝ている彼女の上にそっと被さり、キスした。
 チュッ!

「うふふ」
「あー、また笑った!今度は何よ?」
「えー、だって葵さんのキスってアンコの味がするんだもん」
「アンコ?ああ、お婆ちゃんトコで買った、たい焼きだ」
「オカメ婆ちゃんとこね」
「オカメ…婆ちゃん?」
「うん、この辺の人はみんな、そう呼んでるの。あんな先の
店まで行ったの?」
「もっと先まで行ったよ。住所が分からなくてさ。たい焼き買った
ついでに、ここを聞いたんだ」
「ウチ分かりにくいもんね。ねぇ、もう服、着よっか?寒くなって
きちゃった」

「そうね。あ、そうだ…ちょっとこれ着けてみて」
 オレは自分のブラを拾って市合に差し出した。
「え?なんで…?」
「いいから。ほらぁ、私が着けてあげる。ああー、やっぱり。
ぴったりじゃん!」
「…う、うん」
「それ市合さんにあげるね」
 オレはショーツを拾って穿いた。

「あげるって、貰えないわよ。それに葵さんはどうするの?」
「私?私は買うよ。今から市合さんと一緒に買い物に行く。
私、一度ノーブラで歩いてみたかったんだー。身を守ってね」
 次に制服を手に取り、着てゆく。
「ノーブラだと目立っちゃうよ。恥ずかしくないの?」
「平気じゃない?冬服だから透けないし、エッチしたから乳首も
勃ってないしね。ほらー、早く服着て。お出かけしよう」
「う、うん。ホントに貰っていいのかしら」

 彼女はトレーナーとジーンズを取り出して着た。
「準備できたわ」
「うん、いいね」
(スタイルもいいんだよなー。でも何かイマイチ若さというか、
明るさが足りないんだ…なんでだろう?」
「あ、そっか!…市合さん、ちょっとこっちに来て」
 彼女を呼んで電球の下で、無造作に縛られた髪を見た。

「キューティクルが剥がれてる。市合さん、ちゃんとトリート
メントしてる?」
「ううん」
「駄目だよ。髪は女の命だよ。シャンプーは何、使ってるの?」

 オレは男の頃はさして気にも留めなかったが、瑞希の皮を着て
からというもの身だしなみにも、そこそこ気を配っていた。
それは、やはり瑞希の姿ということが最大の要因だろう。
 どこで知り合いや、旧友に会うかもしれない、そんな時に貧相な
姿を晒すわけにはいかないのだ。

「ううん」
「も、もしかして石鹸で洗ってる…の?」
「…うん」
「市合さん。女の子にはね、頭に天使の輪があるの」
「天使の輪?」
「うん。ほら見て。私の頭のてっぺんにあるのが見えるかなー?」
 オレは市合と場所を替わり、彼女に見やすいように身を屈めた。

「うん…見える。髪の毛に光が反射して、輪に見えるのね」
「そうだよ。女の子は、特に若い子はね、この輪がくっきり出るほど、
可愛く見えるの」
「そうなんだ…私の髪の毛、かなり痛んでるよね…」
 市合は伸ばした長い髪を、掌に乗せじっと見ている。

「ねぇ、市合さん。この近くにカードが使えるスーパーか何かある?」
(買うものが増えたぞ。だが確か財布には3、4千円くらいしか
入ってないはずだ)
「えーと、『赤札屋』なら使えると思ったけど」
「よし、そこ行こ。早く!」

「ど、どうしたの?急に」
「市合さんに買ってあげたいものが一杯あるんだ。あー、楽しみ」
 オレは鞄を持つと、玄関へと急いだ。
「そんなの…駄目だってば」
「言ったでしょ。これは家庭教師になってくれたお礼よ。あ、
2人で初エッチしたお祝いかな?ま、どっちでもいいや」
「う…うん…でも」

「ねぇ、チヨちゃんて呼んでいい?」
「うん、いいよ。じゃ、私は?」
「瑞希でいいよ」
「じゃ私のことも呼び捨てにして」
「うん。了解。じゃ今からチヨのブラ、買いに行こう!」
「もう!そんなこと大きな声で言わないでぇ」
「チヨのブラ、チヨのブラ、チヨのブラ」
「瑞希の馬鹿ぁー、もうしらない!」

 オレたちは、この後スーパーに行き2人でお揃いのブラやショーツ、
それにシャンプーなどの洗髪用品などを買って、それぞれに帰宅した。

(はぁー、今日は気持ち良かったー。女同士ってあんなにイイんだ)
 シャワーを浴びながら、市合との甘美な絡みを思い出していた。

 しかし翌日、朝一番で大変な事態が待っている。だが、この時点では
まだ何の予兆も無かった。


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