『皮り種』
作:嵐山GO


第2章 飛翔

 トゥルルルルル…
 電話が鳴ったので、急ぎ受話器を取る。
「もしもし…あ」
(はっ、しまった!)
 オレは自分の声が女声になっている事に気づき、受話器を
持ったまま固まった。

「もしもし、瑞希ちゃん? 僕だよ、分かる? 孝明だよ」
 声の主は、どうやら娘の友達らしい。
「たか…あき君?」
「うん。携帯に何度か電話したんだけど、使われてないって。
どうしたの?」
「え?うん…えーとね、落としちゃったら壊れたみたいで」
 オレは、正体がバレていないようなので瑞希に成り切って返答した。

「ふうん。ねぇ、今日暇?」
「え…どうして?」
「ほら、来週はもう入学式じゃない。せっかく一緒に同じ
高校に受かったんだからさ、久しぶりにデートしようよ。
約束してたじゃない。覚えてる? 約束」
「デ、デートぉ!?」
「うん、ずっとお互い受験勉強でろくに会ってなかったし、
やっとこっちも落ち着いたからさ。瑞希ちゃんちはどうなの?」

「え、ええ…そうね。ウチは…」
(瑞希のボーイフレンドか。そうだな…話を聞いておくのも
いいか…家での件も何か分かるかもしれないし。だが
さすがに直接会ったらバレるんじゃないか…)
「瑞希ちゃん!」
「は、はいっ! 何?」
「面白そうな映画やってるんだよ。お昼を一緒に食べて映画を
見に行こうよ」
「…う、うん」
(飯か…そういえば、もう昼になるんだな。さて、どうするか)

「12時半に駅前のシネマ10で待ってるよ。大丈夫?」
「12時半?」
(1時間後か…駅前なら車で5、6分、いや車はまずいな。
バスで行くか。だが待て。本当にこの皮は大丈夫なんだろうな)
 オレは皮の表面を強く引っ張ってみた。
 どうやら左右同時に割くように引っ張らない限りは、破れたり
変形したりする様な事は無さそうだ。

「分かった。12時半にシネマ10の前ね」
「うん。じゃ、待ってる」
 カチャッ、ツー、ツー
 電話が切れた。
「オレは何をしようとしてるんだ。瑞希の姿でボーイフレンドと
会う? 何か話しを聞くのか…まてよ…来週、入学式だと言って
いたな。という事は回りは妻や瑞希がいなくなったことを誰も
知らないのか…そうだろうな…学校側も瑞希を待っている。
…つまり登校しなければ大変な事になる?!」

 オレはまだ受話器を右手に持ったまま立っていた。

「もし、この皮が不変であるなら、瑞希に成り代わって…
いや、成り切って学校へ行けるが…その為にも今日、
外に出てみる事とボーイフレンドに会って情報収集しておく
事は確かに有意義な事ではあるか」

「よし。もう一度、鏡を見てこよう」
 再び洗面所に入り、食い入るように自分の顔を見つめた。
「こんなにじっと娘の顔を見たことは無かったが…たぶん
大丈夫だろう。後は言葉使いにさえ気をつけていればな」
 鏡の前でくるりと回りながら、おかしなところはないか探す。
「よし。後は…そうだな。うむ、裸というわけにはいかない。
服だな…」

 昨日に続いて娘の部屋に潜入した。
「何を着るんだ? スカートか? ズボンか?」
 ベッドの下にある衣装ケースを引き出す。
 Tシャツにブラウス、それにジーンズなど大体揃っている。
「別に何でもいいだろう…いや待て、デートか。久しぶりとか
言っていたな。瑞希はいつも、お洒落して行くんだろうか?」

 昨日見た携帯電話を手にし、画像を開いてみた。
「ファイル名がtakaaki-kunになっている。これか…うーむ」
 やはり思ったとおり瑞希が可愛い洋服を着て、満面の笑顔で
写るツーショット画像が何枚も出てきた。

「これと同じ服を探せばいいな…いや、駄目だ。これは全部冬に
撮ったものじゃないか」
諦めて携帯を閉じ、辺りを見回してみる。
「あれは?」
 昨日は気づかなかったが、机の脇に大きな箱が置いてあった。
 箱を取り机の上で開けてみた。
 まず目に飛び込んできたのはメッセージカード。

『合格おめでとう
   パパより』
 と、書かれていた。だが文字は妻のものだ。

(そういえば、瑞希が合格したから洋服を買ってあげたい、とか
言っていたな。これがそうか)
『合格おめでとう』と『パパより』の間に空いた大きな空欄には
瑞希の文字で『パパの馬鹿!』と殴り書きされていた。
 おそらく家を出て行く直前にでも書いたのだろう。

「瑞希は着てみたんだろうか…?」
 取り出してみると、それはドレスみたいな可愛いワンピースだった。
膝丈ほどの長さのスカート、上は半袖だが袖口はゴムで絞られている。
 添布は、どうやら腰で巻いて後ろで縛るようだ。
「うむ。これに…するか」

 ワンピースの背中のファスナーを下ろして足を入れようとした。
「いや、待て、待て。下着が先だろう」
 ワンピースを箱に戻し昨日同様、下着を物色する。
「オレは変態ではない。オレは瑞希なのだ。これは断じて
おかしな行為などではない」
 下着は適当に決め、さっさと取り出した。
 どのような理由付けをしても、やはり娘の下着を物色する父親の
姿は異常である。

「パンツは穿いたが、ブラジャーがこれほど面倒なモノだとはな」
 いくら頑張ってみても女性がするように背中でホックを留められない。
 結局、前で留め後ろに回して肩紐に腕を通す。
 続いてワンピースを着込むと、靴下と靴を探した。
「あとは…と。そうだな、財布は持っていった方がいいか」
 だが娘の財布は幾ら捜しても見つからなかった。
「やむをえん。自分の財布を持っていこう。財布を入れる何か
バッグみたいなものはないか…と。おお、これでいい」

 空のポーチを見つけ、自分の財布と腕時計を放り込んだ。
「さてと、では行くか…あー、あー、発声練習をしておこう。
あー、あー、私、葵瑞希よ。よろしくね、ってアホか。オレは!」
 一人ボケツッコミを終えると、服に似合った革靴を履いて
バス停へと急いだ。

「ちょっと早く着き過ぎたかな? 場所は、ここでいい筈だが。
待つか。どっちみち向こうから声を掛けて貰わない事には、
あの携帯の画像では顔がイマイチ分からんからな」
 シネマ10の前に立つ柱に寄りかかって待った。

「しかし、やはりスカートというのは下半身がスースーして
頼りないものだな。夏はいいかもしれんが、冬場にスカートなんか
俺が穿いたら寒くて凍えてしまうぞ」
 男言葉で独り言を言っているので、目前を通行する男女が
不審げに見ていく。

(ブラジャーの締め付けも違和感を感じるが、パンツの履き心地は
男の物よりいいな。なんか太股の付け根辺りが、ぎゅっと締め付け
られゾクゾクする。うむ、これはこれで悪くない)
 目を閉じてゴムの感触を楽しんでいると、ふいに声を掛けられた。
「彼女っ!」
(お、来たのか?)
 目を開けてみたが、それは画像の男とは似ても似つかない顔つきだ。

「私…ですか?」
「うん、君、可愛いねー。どう? 俺とどっか遊びに行かない?」
「あの…私、人を待ってますから」
「なんだー。待ち合わせなんだ。残念。じゃまた今度ね」
 ナンパ男は去って行った。
 ホッと一息ついていると、次々に男が近づいてきては声を掛けてくる。

「君、ビデオとか興味ない? 今ウチの事務所、若くて可愛い新人発掘
してるんだけどなー。U(アンダー)−15て、知ってるかな?」
「知りません! それに私、もう16歳ですから!」
「別にいいだけどなー、プロフィールなんて。適当に誤魔化すからさ。
どう?」
「結構ですっ!」
「あちゃー、オジサン嫌われちゃったなー。じゃ、これ名刺ね。気が
変わったら電話してね。バーイ」

(この場所が悪いのか? どうも、さっきから俺ばかりナンパされてる
じゃないか。もう今ので5人目だぞ)
 両腕を組んで眉間に皺を寄せ、近寄ってくる男を見つけると
睨みつけてやった。

「瑞希ちゃん! どうしたの怖い顔して。僕、遅刻してないよね?」
 名前を呼ばれ、振り向くと娘と同い年くらいの少年が立っていた。
(やっと来たか)
「あ、ああー。ゴメンなさい。ちょっと虫の居所が…あわわ」
「虫? 虫がいたの?」
「あ、あはは…何でもないわ。さ、早く映画を観ましょ」
 オレは孝明という少年の腕を掴んで、切符売り場に向おうとした。

「先に映画にするの? いいよ。僕はそれでも。でもお腹空いてないの?」
「早くここから離れたいんだ。えーと、じゃあ、中でサンドイッチでも
買いましょうよ」
「分かった。じゃあ、そうしよっか」
 二人は切符売り場に並んだ列の後ろに付いた。

「今日は僕が奢るよ」
「ええー、いいよー。割り勘にしよ」
「僕さー、今すっごくリッチなんだ。親とか親戚に、合格祝いを一杯
貰ったからさ。だから今日は奢るよ」
「いいってばー」
 そう返しながらポーチを開けると、男物の極めて地味な財布が見えた。
(し、しまった! これはマズイか…)
「あ、あのぉ…孝明君、やっぱり奢って。今度、全額耳を揃えて返すから。
私、学生証忘れちゃったみたいで」
「学生証? 僕はちゃんと持ってきたよ。これが使えるのも今日で最後だね。
じゃ、やっぱり今日のデート代は僕が持つよ」
「う、うん…ゴメン」

(なるべく借りを作るまいと思ったが、現金を取り出せないのでは
それも難しい。映画が始まったら暗闇に乗じて取り出すという手も
あるが、この服にはポケットが無い…)

「今日さ、瑞希ちゃんスッゴク可愛いね。その服も似合ってる」
「うん、ありがとー」
 二人で開演時間までロビーのソファーに座って、軽食を取りながら
雑談した。
「さっきもさ、男の人が何人か、瑞希ちゃんをチラチラ見てたよ。
僕、なんだかアイドルとデートしてるみたいな気分だよ」
「そんなことないよ」
「その服、お母さんが買ってくれたの?」
「これ? ううん。パパが買ってくれたの。合格祝いに」

「へぇー、最近はお父さんと上手くいってるんだね」
「ま、まあね。あの…孝明君。聞いていい?私、パパの事、
そんなに嫌ってたかな?」
「嫌ってたっていうか、あまりお父さんの話はしたがらなかったよね?
避けてたっていう感じ…? お父さんとお母さんは仲、悪いんだっけ?」
「ううん、今はそうでもない」
「うん、ならいいじゃない」

「えと…あと私、最近何か悩み事、相談した? 受験以外で」
「別に。それに受験も、それほど悩んでなかったんじゃない。
瑞希ちゃんは僕と違って頭いいから」
「そうでもないけど…」
(そうか…オレは瑞希の成績すら気にした事が無かったな)


「もし僕らが付き合ってなかったら、僕は瑞希ちゃんと同じ高校に
進もうなんて思わなかったよ」
「そう…なんだ…」
「だから合格できて、あの高校へ行けるのも瑞希ちゃんのお陰なのさ」
「うん…」


「結局、あの高校に進学できたのはウチの中学からは僕ら二人だけ
だからさ。瑞希ちゃん、これからもよろしくね」
「うん、こちらこそ」
(そうか…なら、この少年とは上手く付き合っていかないと。
この先、きっと分からない事だらけだぞ)
「あとは入学式の事なんだけど…」
 オレは家庭内の事を聞き出すのを諦めると、話を今後の
学校生活へと移行した。

「うん。分かった…なんか大変そうだね」
「僕は早く瑞希ちゃんの制服姿が見たいな。可愛いんだろうな」
「そんな事ないってば」
 そう返事しながらも、壁に掛けてあったセーラー服を思い出した。
(オレが、あのセーラー服を着て高校に行く事になろうとはな)

 開演のベルが鳴った。
「あ、そろそろ始まりそうだよ。瑞希ちゃん、行こう!」
「オッケーっ!」
 オレはゴミを捨て、少年の後ろを付いて中へと入った。

 映画はSFものであった。
(映画も10年以上観てなかったが、特撮の技術向上は想像以上だな
…家にある、あのカメラも凄いものだ。画像は実際に撮られた
ものだし、そして何より皮を作り出す技術だ…)

「瑞希ちゃん、出ようか」
 スクリーンではまだエンドクレジットがスクロールされていたが、
孝明はそっと耳元で囁いた。
「うん、いいよ」
 映画が完全に終わってからでは、出口が混み合うので二人は早々に
退席する。

「うーん、ちょっと長い映画だったね。さすがに身体が痛いや」
外に出ると孝明が大きく伸びをして言った。
「大丈夫?」
「うん、平気。でもちょっと公園に行って歩かない?」
「そうね」
「手、繋ごっか?」
「う…うん。でも、恥ずかしいから…」
「いつも繋いでるじゃない。ほら」
 少年が手を差し出す。

(そうか…瑞希は、いつもこの少年と手を繋いでデートしてるのか)
「うんっ、わかった」
 オレは彼の手を握り、二人で仲良く歩き始めた。

 園内には多くの家族連れやカップルがいたが、孝明は人目を
避けるように道を選んでいた。
「瑞希ちゃん…」
「なーに?」
「すごく言いにくいんだけど、なんだか瑞希ちゃん…覚えて
ないみたいだから…言うね」
「いいよ。何? 言ってみて」
 少年は顔を赤らめ、下を向いたまま言った。

「僕らがその…もし一緒の高校に受かったら、その時は…」
少年の言葉が急に詰まった。
「その時は?」
「その時は、入学式の前に初体験しようって…約束したんだ。
覚えてない…?」
「ええっ!? そんな事を瑞希が…あ、いや…私が言ったんだっけ?」
 あまりの驚きに、うまい言葉が見つからなかった。

「瑞希ちゃんがっていうか、二人で決めたんだよ。卒業式のあと、
会って…4月になったら僕の方が落ち着くから、その時にデートして
エッチしようって言ったんだけど。覚えてないの?」
 顔を少しだけ上げて、ちらりとこちらの顔を窺った。

「も、もちろん覚えてるわよ。で、でもね…えーと、
今日は、その…あの…そうアノ日なの。次じゃ駄目かな?」
「そ、そっか…アノ日じゃ無理だよね。うん、いいよ。
じゃあ瑞希ちゃんの都合のいい日に電話して。携帯、壊れたって
言ってたけど僕の番号、まだ残ってる?」

「あ、うん…大丈夫だと思う…多分…」
(画像も残っていたしな)
「瑞希ちゃんは携帯どうするの? 無いと不便じゃない?」
「そ、そうね…買うわ。えっと、明日にでもパパに言って買って貰う」
「そう、良かった。なかなか連絡取れないんで心配したんだよ」
「ごめん…なさい」
(携帯か…後で帰りにでも買って帰るか…そうだ、それと女の子らしい
財布も買わねばな)

「こんな日に呼び出しちゃってゴメン。もしかして、さっきの怒った様な、
辛そうな顔してたのはそれ?」
「あー、あれ…うん…まぁ、そんなとこ」
「それじゃ、あんまり長く連れ回すと可哀相そうだから、今日はこれで
-帰ろうか?」
「そうね…私はどっちでもいい…久しぶりに会えたし」
「そうだけどね。これからは毎日でも会えるよ。受験も終わって、
しかも同じ学校だし」
「そっか…」
(いよいよ瑞希としての生活が現実化してきたな…)

「瑞希ちゃん…」
 孝明が身体を抱き寄せるようにして、唇を奪った。
 チュッ
「あ…キス…?」
「この前キスしたのは、瑞希ちゃんが僕に受験に合格しますように
って、おまじないを掛けてくれた時だったね」
「う…うん」
(そうか瑞希はもうこの少年とキスしたのか。そうだろうな、初体験を
しようって言ってるぐらいだ。それにしても、こっちの気分は男同士の
キスだぞ。気色悪い)

「やっぱり今日は、これで別れよう。あまり元気無さそうだし、
バス停まで送るよ」
「ゴメンネ」
「謝ってばかりだと、瑞希ちゃんじゃないみたいだ。いつもの
明るくて元気な瑞希ちゃんに戻るのは、もうちょっと時間が
かかりそう?」
「ごめんなさい…」
 今は何を言われても加減が分からず、ただ謝ってばかりいた。

 孝明はバスが発車するまで、見送ってくれた。
(なかなか好青年みたいだな…瑞希が好きになるのも分かるような
気がするが…)
「にしても初体験かよー。ふぅー、参ったな」
 思わず声を漏らしてしまい、周りの乗客の視線を浴びてしまった。
(マズイ、マズイ。一人になった途端、気が緩んだ。気を付けねば)

 二つ手前のバス停で降り、商店街で携帯を契約し、さらに雑貨屋に
入って財布を購入した。
(会社を辞めたと同時に携帯も手放したが、まさかまた買うことに
なろうとは)
 商店街を出ると今度はスーパーに立ち寄り、簡単に食べられる
食材や惣菜を買い込んだ。
(いくら見た目は女でも中身は男だからな。料理は出来ない。
せめて飯くらいは炊けるように練習するか…)

 両手に大きなレジ袋を提げて歩いていると、汗が噴き出してきた。
「ふぅ、暑いな。力はあるはずなんだが、この小柄な身体では
キツイのかもな」
 マンションに着いてエレベーターに乗り込むと、安心したせいか
急に尿意をもよおした。
「ヤバイ! 小便がしたくなった。早く着かないかな」
 願いが届いたのか、エレベーターは途中で停まることも無く
目的階に到着した。

「急げ、急げ」
 オレはポーチから鍵を出して、ドアを開けると袋を玄関に置いたまま
トイレに駆け込んだ。
「ちょっと待て! この皮は脱ぐのか? 早く小便がしたいのに。
漏れちまいそうだ。くそー」
 どうしていいか分からないまま、とにかくパンツだけ下ろして
便座に座ってみた。

「で、出るかな? 頼む!出てくれよ」
 やんわりと股間の力を緩めていく…。
 ちょろ…ちょろ…ちょろ
「おー! 出た。良かった。助かったー」
 その後は溜まった尿を一気に放出した。トイレ内に豪快な水音が響く。

「そうか…汗が噴き出たくらいだから、尿も便もこの格好で
問題ないわけか…食べるものも大丈夫だった…という事は、
極端な話、ずっとこの姿でもいいわけだ。汗が出て皮膚呼吸も
出来るのであれば、俺の身体が内部で汚れるという事も無いのだろう」

 パンツを上げ、トイレを出ると玄関の荷物を持って台所へ行った。
「ちょっと疲れたな…座ろう」
 ソファに腰を下ろし、本日の外出結果を顧みた。
「会話はともかく皮については何も問題はなかった…と思う。
 驚くほどに精巧で、丈夫に出来ている。材質は何なんだろうか?」
 考えながら、いつもの調子で足を組む。
 スカートがひらりと捲れて太股が現れた。

「おっと、そうか…着替えないとな。シワになっちまう。いつまでも
こんな格好じゃまずい。つくづく女は大変だ」
 瑞希の部屋に入り、よそ行きの服を脱いで下着姿で別のものを探す。
 衣装ケースの中からトレーナーとジャージのズボンを見つけ着た。
「ああ、この格好だと男と変わらないから楽だな。とはいえ相変わらず
ブラの締め付けは気になる。そうか、もう外出しないし外せばいいのか」

 今着たばかりのトレーナーをまた脱いで、ブラジャーを外した。
「おおー、楽だ。こいつのお陰で肩が凝っちまった」
 再びトレーナーを着込んで両腕をグルグルと回すと、合わせる様に
両胸が上下に揺れた。
「ホントに良く出来てるよな…んん? この胸、作り物じゃないのか?
ちゃんと感触があるぞ」
 右手で膨らんだ胸をトレーナーの上から触ってみる。
「やはりだ。仕組みは分からないがオレの身体に付いた贅肉でも
集めて胸に持ってきてるのかな?」

 おもむろにトレーナーを捲り上げて両胸を曝け出し、そのピンクの
突端に触れてみた。
 ビクンっ!
「うっ?! なんだ? 電気が走ったみたいだった」
 乳首に触れるのは諦め、乳房を持ち上げるようにして揉むと
驚くべき事に乳首がピンと勃ってきた。
「これはもう精巧などというレベルではないな…本物だよ」

 オレは瑞希が毎晩、眠っていたベッドに移動した。
「初体験…か。うーむ…考えるより前にまず実行しろ、だ」
ベッドに身体を横たえる。
(何をすべきか、身体に聞いてみるとするか)
 露わになった胸を左手で隠すように覆い、右手をズボンの中に差し
入れた。

 もちろん娘への背徳感が無いわけではない。
 だが、それは作り物の皮の興味と神秘性に比べれば些細なものだった。


(第3章へ)



inserted by FC2 system