かわいい男の娘は好きですか?(第4章)
作:嵐山GO



あの『事件』から季節が一つ流れ、夏になろうとしている。
ボクは、この間すっかり女装する魅力にとり憑かれ、
服や用品を買い続けていた。

今ではスカートやブラウス、下着などの数は男物と
肩を並べるほどに増えている。
「ずいぶん増えちゃったよね・・・」
購入方法はもっぱら通信販売を利用していた。
男性名義で注文することには何の問題はないのだが、購入前に
実際に手に触れることが出来ないのが最大の難点だ。
サイズは勿論だが、届いてみるとイメージしていた物とは
違っていた物も少なくない。


今日もボクは朝からシャワーを浴び、女の子に変身してゆく。
可愛い下着を選び、キャミソールを着て短いスカートを穿く。
ウィッグを被る前には軽くお化粧もする。
下地の化粧水から始まり、頬、目の回り、唇へと順に手を
加える・・・。
さらにコンシーラーやリキッドタイプのファンデーションを使って
眉を消し、その後でゆっくりと女性らしい細い眉を描いていく。

「うん・・・いい感じ」
ボクは23歳だが、ボクの中の女の子は17,8歳の少女だった。
だから彼女が好んで着そうな服装を選ぶ。
ちょっと背伸びをした大人っぽいものや、うんと子供っぽいものも
ある。
(女の子は、その日の気分でスタイルが変わるんだもん)

ウィッグを被って両サイドをヘアピンで留める。
この日はさらに長いリボンをうなじから通して頭のてっぺんで
結んでみた。
「ちょっと幼くなりすぎちゃったかな?うふっ」
ボクの休日の朝はこうして始まる。

あの日・・・撮影のあったあの日、ボクは食事を終えると
すぐにアパートに帰り熱いシャワーを頭から浴びた。
もやもやとした得体の知れない何かを洗い流そうとしたのだ。
そして洗面所を出る時、ボクは自分の顔を鏡で見て思った。

(変な顔・・・ボクってこんな、のっぺりとしたつまらない顔
だったんだ)
広いおでこ、凹凸の少ない平坦な顔・・・すぐに忘れられそうな
印象の薄いつくり・・・
「こんな顔だったんだ・・・そうだよなー・・・うう、嫌だ・・・
さっきの少女に戻りたい・・・」

それはボクにとって大きな転機だった。
今までの男である自分の趣味をやめ、身に付ける物から
小物に至るまで女の子らしいものを買い求めた。
靴やバッグやポーチ、財布もキュートなものを買った。

でもそれもこれも全て室内での変身のため。
女の子に化けて外出したことは一度もない。
女の子になって最初にすることは、やはり撮影だった。
それも結局は、この前の出来事が引き金になっているのだろう。

デジカメで自分の姿を撮り、最近始めたプロブに画像を貼る。
多くの女装子好きな男性や、同じ趣味を持つ女装子さんから
「可愛い」とか「綺麗」といったコメントを貰うのが嬉しくて
仕方がない。
中には「デートして下さい」といった熱烈な書き込みもある。
女装子と知った上で誘ってくれるのだから喜びもひとしおである。

でもボクは今だ外出をしていない。

女装を始めた頃はオナニーばかりしていた。
洗面所で鏡を見ながらする。
テーブルの上に鏡を立てて、その前でする事もあった。
女の子がスカートを捲り上げ、あられもない姿でペニスを擦る。
「いやーん、私、女の子なのに男の子みたいに射精しちゃうの」
などと言いながらイク瞬間の快感がとても幸せなのだ。

でも最近では極力オナニーは夜まで我慢する事にしている。
自分撮りをしたり洗濯や料理をして一日を女の子で過ごし、
就寝前、パジャマに着替える時に一度だけスルのだ。
イッた後はまたシャワーを浴び、可愛いパジャマに着替えて
縫いぐるみを抱いて寝る。
至福のひととき。

(女の子って何でも可愛いものばかりでいいよね)
レースの折り返しの付いたソックス、フリルやリボン
たっぷりの下着、パジャマも袖口や七分ズボンの裾には
ゴムが入っていて、これがまた何とも愛らしい。

着るものはともかく化粧は最初、想像以上に大変な作業だった。
口紅が上手く塗れない、眉が左右対称に書けない。
ファンデーションにムラが出来る・・・などなど。
しかし独学ながら今では結構いい線いっていると思う。
なぜって、あんなにのっぺりとして嫌いだった自分の顔が
見る見るうちに変わっていくのだから。

以前の撮影のようにスッピンでもいいのだが、やはり顔の
アップを撮るには少なからず化粧は必要だった。
アイラインを一本引くだけでも目のイメージはガラリと変わる。

今では化粧という行為が女性らしくて、好きにさえなった。
一時間以上掛かっていた化粧も今では20分にまで縮んだ。
そこからは化粧が落ちない内に手早く撮影を始める。

「えーと・・・何か面白い書き込みはないかしら・・・?」
画像を取り込み、パソコンの前に座って自分のプロブを開く。
スカートが短いのでイスに貼られたビニールレザーの冷たさが
生足に伝わり心地よい。
「何々・・・?『発展場などには行かれるのですか?行くとしたら
どの辺ですか?』ん?発展場って何なの・・・?」

ボクは一旦プロブを閉じ、『発展場』で検索をかけてみた。
調べていくうちに分かった事だが、どうやら特殊な趣味や
性癖を持つもの同士の出会いの場所という意味合いがあるらしい。

続いて、自分の住む『町名』と『発展場』『女装』と並べて
打ち込んで見る・・・。
公園の名前が出た。
住所や地図も出てきた。
(近い・・・ここから歩いても15分くらいの所じゃない・・・)
そこに行けば自分と同じ趣味の『女の子たち』に会えるかも
しれない。

(でも女装子好きの男の人も来るみたいだし・・・
声を掛けられたら、どうしよう?)

時計を見る。
「まだお昼前・・・集まるのは夜中みたいだし、
時間はたっぷりあるから、食事でもしながら考えよっと」
ボクは今日撮った中のお気に入りの画像を貼付し、パソコンを切って
食事の用意を始めた。
休日の女装生活が始まってからは外食はしていない。
前日のうちに食べるものを買っておくのだ。

「行っちゃおうかな・・・以前にも公園に連れて行かれたしね」
電子レンジの中で回る惣菜を見ながら、ボクの思考は続いていた。
<危ない気配がしたらスグに帰ればいいじゃない>
ゴスロリ姿の悪魔が耳元で囁く。

チーン!
電子レンジのタイマーが終了のベルを鳴らした。
「うん。分かったよ。私、行く。自転車ならスグだし、
今日は偵察という事でね」

ボクは決心した。
エプロンに鍋つかみという姿で期待に胸を躍らせ、ボクは夜を待った。



(第5章)へ

inserted by FC2 system