かわいい男の娘は好きですか?(第1章)
作:嵐山GO



「さあ、ここよ。入って」
通された部屋はビルの3階にあるワンフロアー隅のこじんまりとした
オフィスだった。
「会社みたいな所だと思ってました」
「あら、一応ここも会社よ。小さいけどね。さてと、それじゃ私は
フィルムを出してくるから君はそっちの部屋に入ってて。
そこで写真も撮るからね」
「あ、はい」

言われて入った部屋は確かに簡素なステージがあり、照明器具や
レフ版、それにプロが使うような大きなカメラが三脚に乗っていた。
「ニコンか・・・高そうなカメラだなー。広角レンズも付いてる」
デジタルカメラしか触った事のないボクは、手を伸ばして触れてみた。
しっかりとした重量感を感じる。フルオートの最近のカメラとは
違い、さまざまな機能が付いていた。
「駄目よ。触っちゃ」
ボクは安藤さんの声で驚いて、慌てて手を引っ込める。

「私、もう少し準備があるから君はその間、着替えててくれないかな」
「着替え・・・ですか?」
「ええ。服はほら、そこに掛けてあるわ」
指差した壁に女子校のものと思われる制服がハンガーに吊るされている。
「あれって女の子の制服ですよね。ボク・・・男なんですけど」
「知ってるわよ。君に女装してもらおうかと思ってるんだけど。嫌?」
「っていうか変態っぽいですけど」
「ウチの会社の作ってる雑誌ってそういうの多いのよ。女装とか、
ニューハーフとか、コスプレとか。でも大丈夫よ。発行部数は
多くはないし書店に並んだりしないから。もっぱら通信販売とか、
あとはそのテのお店に置くくらい。平気でしょ?」

今までに女みたいだとか言われた事はあったけど、まさか本当に
女物の服を着る事になるとは思わず、ボクは戸惑った。
「大丈夫だってば。会社にいたら宴会で女装させられる事もあるし、
最近は大学の文化祭でも結構やってるみたいじゃない。
さ、ほら着替えた、着替えた」

(実家からは離れているし、会社も入社したばかりでまだ顔も覚えられてないはず・・・3万円の為だ。やるしかないな)
「うー・・・分かりました」

ボクはハンガーごと手に取ってみた。
夏物の半袖のセーラー服タイプ。水色のセーラー襟に袖口、
大きなリボンは紺色。
プリーツスカートも水色だが、かすかにタータンチェックの
デザインを施してある。
(ずいぶん可愛くて、お洒落なデザインだけど実在する学校の
制服なんだろうか・・・)

「下着は足元に置いてある紙袋の中に入ってるわよ」
フィルムを装填しながら安藤さんが言う。
「し、下着も替えるんですか?」
「そうよ。せっかくの可愛い制服の下が男物じゃ、
興ざめでしょ?」
「はぁ・・・」
ボクは写真を撮るだけなら下着は男物でも関係ないじゃないかと、
心の中で訴えながら袋を開いてみた。

薄桃色の可愛いショーツやブラジャーや紺色のソックス、
それに真っ白なスリップまで入っている。
「ブラは背中のホックの位置と肩紐で調節できるからね。それでも
辛いようだったら言って。他にもあるからね。あら?どうしたの?」
「あのぉ、ここで着替えるんでしょうか?」
ボクはまさに思春期の女の子のように震えながら聞いた。

「可愛いわね。恥ずかしいの?いいわよ、じゃ隣の部屋で着替えて
らっしゃい」
ボクは、ほっと安心し制服と下着の入った袋を抱きしめ部屋を出た。

数分後、ボクは四苦八苦しながら何とか全てを身に付け、その無様な
女装姿を彼女の前に晒した。
「着ましたけど・・・」
「あらー!可愛いじゃない!よく似合ってるわ。やっぱり私が
見込んだ通りね」
「そう・・・なんですか?」
「うん、もうバッチリ!あとは、こっちに来て。ウィッグを着けてあげる」
「ええっ、ウィッグって?」
ボクは彼女に手を引かれ、撮影用に使うであろう小物類が入った
収納ボックスの前に連れて行かれた。

「かつらよ。ほら頭を出してみて」
安藤さんはボクの頭にストレートで長い黒髪のかつらを被せた。
「わおっ、現役女子校生にも負けない美少女の誕生ね!」
そう言いながらも耳の上にヘアピンを付けたり、薄いリップを
塗ったり、ビューラーで睫を巻いたりと小技を駆使していた。
「今度こそ完成っ!完璧ね。パーフェクトよ。こっち来て」
ボクはまた腕を引っ張られ、次に洗面所へと連れて行かれた。

「ほら。中で自分の顔を鏡で見て御覧なさいな」
背中を押されるようにして、ボクは洗面所に入りその姿を映し見た。
「え?こ、これがボク・・・なの?」
さすがに眉毛を抜くわけにもいかず隠すために垂らした前髪だったが、
却ってそれが以前の自分を払拭し、見事に小顔の女の子を作り上げていた。

頬を赤らめ恥ずかしそうに上目遣いで鏡を見つめる少女・・・。
真新しいセーラー服から漂う初々しい乙女の姿・・・。
本当に自分なのかと確かめるために、左手の薬指で下唇に触れてみる。
鏡の中の少女もスグに唇に触れる・・・そしてそれは間違いなくボクだった。



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