『女装した僕・エンドレスサマー』(その2)
 作:嵐山GO


「着替えないの?」
「え?」
「帰るとすぐに女の子になるんでしょ?リカにも見せてよ」
「し、しかし…」
「早くぅー。リカ、お兄ちゃんも好きだけど、お姉ちゃんも
いいかなー、なんて」
「う、ううー。でも、もう夜だし、お前帰るんだろ?」
「ううん、今日も泊まってくの。だから今晩は姉妹で
ご飯食べようよ。どう?」
「人に見られるなんて恥ずかしいよ」
「あー、嘘ついてるー。リカ、知ってるもん。バッグもあるし、
靴だって磨り減ってるよ。ちゃんと女の子で外出してるんでしょ?」
「ちぇ、そこまでバレてるのか」
「ほぼ一ヶ月ここに通ってるからねー。お母さんにバラされたく
なかったら変身してみせて」
「ちぇ、分かったよ」
 もう何の足掻きも抵抗も反論も出来る状況ではない。今の自分は
妹に跪(ひざまづ)く以外に手段は無いのだ。

「せめてリビングに行っててくれ。妹と言えど、さすがに着替えを
見られるのは恥ずかしい」
「うん。分かった。早くねー」
 リカは、そう言うと僕のベッドから下りると、ツイン
テールを揺らしながらリビングに向かった。

「さて、どうするか?」今更ながらキャピキャピした服
ばかりで後悔の念が重く圧し掛かる。
「とはいえ…」そう、地味な服などあろう筈も無く、
諦めの境地で着替えを始めた。
 女の子に化けるのが、これほど惨めで情けない気分に
なろうとは思わなかった。
「どうせ全部見たんだろうし、今更カッコつけても
仕方ないか…」
 それでも短いプリーツスカートと女の子らしいロゴの
入ったピンクのTシャツに着終えると、いつも通りの
女の子の完成だ。

 シュシュで髪をポニーテールに結いながらリビングに
向かう。
「これでいいの?」
 一応、両手を腰に当てて男らしさを強調してみるが
説得力は薄い。
「うわーっ!!!可愛いっ!お兄ちゃん、じゃなかった。
お姉ちゃんだね。凄いよ!お化粧もしてるんだ」
「まあ、少しはね」
 目元、眉、頬、唇など、目立ちそうな所には軽く化粧
した。これによって、ほぼ完全に別人になれたと
いってもいい。
「せめて綺麗って言って欲しいけどな」 
「だって可愛いんだもん。仕方ないじゃん」
 リカはテレビを切り立ち上がり、マジマジと僕を
見ている。

「で、どうすんだっけ?買い物?それとも外で食べる?」
 まだ声の方は男で対応している。いきなり全て
変えられるほど気持ちの整理がついていないのだ。
「凄いねー。やっぱ外出してるんだー。その感じだと
行けない場所なんて無いみたいね」
「そ、そんなことないさ」
「銭湯は駄目だからね。犯罪だよっ!」
「分かってるよ。で、どうすんだよ。今から」

「外食にしよ。ファミレスでいいから。それにお兄…
お姉ちゃんも疲れてるでしょ?帰ってきたばかりで」
「いや別に。どうせ何か作ろうかと思ってたし。でも、
たまには外で食うのもいいか」
「無理して男っぽく喋んないでね。女の子モードに
スイッチ入れて」
「わかったわよ。あー、あー。どう?これでいい?」
 変声の訓練のしているので女声を出すのは問題ない。
ただ妹の前だから恥ずかしさは多少なりとある。

「うん、いいね。じゃ当然、お姉ちゃんの奢りだね」
「いいけど…あんまり高い物は駄目よ。今月はバイト
してないんだから」
「大丈夫、大丈夫。リカも少しなら持ってるし。
さ、早く行こっ!」

 こうして僕は初めて素性を知られた者と外出した。
 胸が高鳴り足も震えた。
 こんなにドキドキしたのは初めて女装外出したとき
以来かもしれない…。


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