「異心伝心(ことなるこころ つたわるこころ)」〜その3
作:嵐山GO



「うわー、ずいぶん大きなおウチですねー。家っていうより、お屋敷ですか?」
少女は鉄製の頑丈そうな門をくぐると、眼前にそびえ立った家を見上げ言った。
「ま、でかいだけでね。何も自慢できる物は無いんだ」
「何人で住んでらっしゃるんですか?」
「私は独身でね。一人なんだ。ただ、ウチで使っているメイドが離れに住んでいるよ」
「ええ・・・お一人なんですか。ごめんなさい・・・でも、なんで結婚しないんですか?
お金持ちなのに」
大きな家に、大きな庭を見ながら興味津々に聞いている。

「ま、チャンスが無かったのかな?女性が嫌いと言うわけではないよ。
若い時にはそれなりに遊んだものだよ」
「・・・そうなんですか」
「お、丁度いい。メイドさんの登場だ」
待ち構えていたかのように玄関の扉が開き、中から若くてスタイルのいい女性が現れた。

「旦那様、お帰りなさいませ。そちらはお客様ですか?」
「ああ、そうだ。えっと、そういえばお譲ちゃんの名前を聞いてなかったな」
「あ・・・私、菊池麻耶っていいます」
「まや?そうか麻耶ちゃんか。分かった。こちらはメイドのアリサ君だ」
「アリサです。ようこそ、いらっしゃいました」
アリサという、そのメイドは客人に深々と頭を下げた。
「アリサ君、この子に何か作ってあげてくれないか。えーと、麻耶ちゃん、
何が食べたい?何でも言ってご覧」

「あ・・・えと・・・私、何だか緊張しちゃって、それにお腹も空いてないし」
「ならオヤツでもいいじゃないか。アリサ君、飲み物とケーキでも持ってきてくれるかな」
「かしこまりました」
老人は犬の紐をメイドに渡すと、麻耶を家に招きいれた。

「部屋がたくさんあって迷っちゃいそう」
「あはは、そうかい。これでも以前は毎日のように来客があったんだけどね。仕事を辞めてからというもの静かなもんだ」
「寂しくありませんか?」
「今では、もう慣れたよ。ジョンとリオンもいるし。ああ、リオンというのは、もう一方の犬の名だ。それにアリサ君も色々と相手をしてくれるしね」

老人が通した部屋は、思ったよりこじんまりとした広さだった。
それでも豪華な皮製のソファやテーブルを初めとする調度類は揃っている。
「どうぞ、お掛けなさい。食事をしないなら、この部屋でいいだろう。本当にお腹は空いてないのかい?」
「ええ」

コンコン
部屋がノックされアリサが部屋に入ってきた。
たっぷりとジュースの入ったデキャンタとグラス、それに大きな苺が幾つも乗ったショートケーキを持っている。
ショートといっても円形で、直径は10センチ以上ありそうだ。

「こちらで宜しかったでしょうか?」
「うわー、美味しそう」
アリサの質問に麻耶は満面の笑顔で答えた。
「足りなければ幾らでも持って来て貰いなさい。
ケーキもジュースもアリサ君の手作りだよ」
「ホントですか?凄いなー・・・頂きまーす」
「では失礼します」
メイドらしく、また一礼して部屋を出た。

「やっぱり女の子だね。甘いものが好きなんだね」
「えへへ」
「さっきまで泣いていたカラスが笑顔に変わって良かったよ」
「今だけは忘れる事にします」
麻耶はフォークでケーキを切り分け、ジュースと交互に口に運んでいる。

「ご馳走様でした」
「もう一個ケーキを持ってきて貰おうか?」
「いえ、いいです。太っちゃう・・・」
「自殺を考えてるような女の子が、太るも何もないだろう」
「そうですね・・・でも、ホントにもういいです。
オヤツを食べる習慣なんてないからお腹、一杯になっちゃった」
「なら、いいんだけどね」


「さてと。話したくなければ別にいいんだが、私が聞いて麻耶ちゃんが少しでも楽になるんなら、その悩みとやらを少しでも聞かせてくれないか」
「・・・何もかもが嫌なんです。家も学校も楽しくないし、楽に死ねる方法があるなら、スグにでも実行したいくらい・・・」
「そこまで絶望させる理由は一体何なんだろうねー」

「家が貧乏で両親は共働きしてるんですけど、いつも喧嘩ばかりしてるし・・・
それにお金が無いから大学にも行かせてもらえない・・・何の為に学校に行ってるのか分かんなくなっちゃうの。
こんな感じだから友達も出来ないし・・・
学校に行っても、家に帰っても私のいる場所はドコにもない」

「そんなの卒業までの少しの間の辛抱じゃないか。死ぬことはないだろう」
「卒業して働いたとしても、もうあの家にはいたくい・・・」
「なら、出ればいいだろう」
「無理です。私、一人っ子だし・・・それに育ててやった分、働いてお金を入れろって言われてますし」

「うーむ・・・私がお金を貸してあげても根本的な解決にはならないようだね」
「生きている事がもう苦痛なんです。朝、目覚めるのも辛いんです」
「困ったな・・・」
「ケーキまでご馳走になって、こんなこと言うのは失礼なんですけど・・・」
「何だね、言ってご覧」
「睡眠薬とか持ってませんか?ほら、よく大量に飲むと眠りながら死ねるって言うじゃないですか」

「無いこともないが・・・あまり勧められんな」
「そうですよね。おじいさんに御迷惑がかかりますよね」
「それはいいんだが・・・うーむ・・・おお!そうだ。アレがあるか・・・」
「?」
老人の突然の思いつきに麻耶は、きょとんして見つめた。


(その4へ)



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