『その後の英雄と悪漢』(その16)
 作:嵐山GO


「はぁ、はぁ…結局3回もイッちゃった…私」
「桜も初めてだったけど、ちゃんとイケたよ」
 2人はベッドの上で見詰め合ったまま、短く会話するとキスをした。
 チュッ
「お兄ちゃんとお別れだね…」
 桜は再びオレを「お兄ちゃん」と呼ぶ。
「うん…」
 自分の方から出て行くように言ったのに、ここにきて寂しさが
込み上げた。

「私、この桜ちゃんの姿のままお別れしたいの。いい?」
「ええ…寂しいけど、その方が助かるわ」
 今更、男の姿など見たくはない。かといって桜の姿を見ながら
別れるのは辛い。
「お兄ちゃん、桜…送っていこうか?帰れる?」
「あ、うん…大丈夫。このブレスレットのボタンを押せば
自動的に戻れるようになってるの」
「そう…じゃあ、もう会う事は無いと思うけど、お兄ちゃん、
色々と有難うね」
「ううん、こちらこそ。ありがと」
 桜の小さなオデコにキスした。
 その後も、少し会話をしたが、ついには2人とも服を着て
別れた。
 ボタンを押す直前、桜は「バイバイ…」とだけ言った。
 オレも言いたかったが涙と嗚咽が込み上げ、結局何も言えず
にボタンを押してしまった。

 
 
 結局、ある程度の書類を偽造してもらい、バイトと部屋を
探すまでオレはポッドに住んでいた。
 隣町にオーナーが経営するマンションの1階部分のコンビニで
バイトを見つけ、入居とバイトを同時に申し込む。
 マンションは7階建てでワンルームから3DKまであって、
その中の一番安い部屋を借りる事が出来た。
 将来は何も定まらないが、それは同時に働いた分の収入は
生活費に当てればよかった。

 ポッドの[主]に別れを告げ、再びオレの1人暮らしが
始まる。
 (もう、このブレスレットも変形することは無いのだろう)
 今では細いリングのようになったブレスレットだけが、あの日の
名残を留めている。


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