『その後の英雄と悪漢』(その7)
 作:嵐山GO


 数日後、仕事を終えアパートに戻ると留守電が入っていた。
『ごめんなさい…お母さんが付き合っちゃ駄目だって。
年が離れすぎてるから絶対に上手くいかないって』
 要約すると、こういう事だった。
 
 オレはまだ時間が早いこともあって彼女の携帯に電話し、
今から会おうと伝えた。
 彼女も電話を待っていたようで、一番近い喫茶店に入り
オレたちは話をした。
「お母さん、そんなに反対なんだ…」
「うん…自分も年の離れた人と付き合って辛い思いをした
みたいなの…」
「そっかー、じゃあ仕方ないかなー。別れよっか?」
「えっ?!う、うん…ごめんね」
 一瞬、彼女は驚いたような顔をした。多分、反対する
だろうと思ったのだろう。
 だがオレには、またしても勇気が無かった。
 彼女を無理矢理引き止めて母親に嫌われたくなかった。
 それに大学生になれば、また付き合えるかもしれないと
思ったからだ。
 
 だがオレたちは2度と交際することは無かった。
 何度か彼女を町で見かけたこともあったけれど、大抵は男と一緒だった。
 彼女もこちらに気付くと男の背後に隠れたりして、避けて
いるようだった。
 その後は風の噂で、職場の同僚と結婚したと聞いた。
 
「お兄ちゃん…桜を許してくれる?」
 気がつけば彼女は目の前に来ていた。背が低いので
見上げるように訴える。 
 今の自分より10cmは低いだろう。よく見れば制服も
彼女を初めて好きになった時に着ていたものだ。
「で、でもお前は…あの異星人なのだろう?どうして
桜ちゃんの姿なんだ?」
 オレは一歩、後ろに下がって我を取り戻し聞いた。
「細かいこと気にすんなよ。以前、お前と繋がっていた時に
記憶をちょっと頂いたのさ。まさか、こんな形で役に立つ
とは思わなかったが」
 少女は桜の声のまま、いつもの奴の口調で答えた。

「そうだったのか…それで…」
「そんな事より…桜、お兄ちゃんと約束果たしてない
でしょ?」
 再び奴は桜の声を真似る。
「約束…?」
「うん。ほら、桜をあげるっていう約束。もしかして
忘れちゃった?」
「お、覚えてるさ。でも…それは…」
「じゃ、お願い。桜を抱いて。私、最後にお兄ちゃんとの
大切な思い出が欲しいの」

「え、あ…ああ…そういう事…か」
「いいの?桜を抱いてくれるの?」
「う、うん…でも、こんな所じゃ」
「そうだね…じゃ、桜の部屋に来る?ベッドもあるよ」
「分かった。行くよ」
 オレは、きっとコイツのポッドの中も好きなように形を
変えられるんだろうなと直感した。


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