SKIN TRADE2
作:嵐山GO

(その7)


ピーーーーッ!
 パーン、バーーン
 広い運動場で幾つかに区切られ、学年別対抗のバレーの試合が
始まった。
 先生は手に生徒の評価をつけるバインダーらしきものを持ち、
記入し終えると生徒を入れ替えるといった事を繰り返す。
「はい、次っ! 次は○○さん、○○さん、胡桃谷さん…」
 自分の名前が呼ばれた。他の生徒同様、大きな返事をしてコートへ
入る。
 相手は1年生らしい。たしかに言われてみれば小柄な子も多く、
初々しい感じだ。

 ピーーーーッ!
 ホイッスルが鳴る。試合再開。試合といっても点数は付けて
いるものの、別に勝ち進んでいくようなトーナメント方式では無い。
単なる体力テストみたいなものだ。
 試合中、当然ながら僕のところにも何度もボールが回ってくる。
(三十過ぎても相手が女なら、いや、女っていうか女の子だね…
これなら赤子の手をひねるようなもんだぜ)
「胡桃谷さん、お願い!」
 僕の名前が呼ばれ、トスが上がった。
「まかせてっ!」
 僕は大きくジャンプして派手なアクションでアタックを決める。  
(へへ、楽勝だね。また一点追加だ)
 バァーーーン!!

「きゃっ!」
 レシーブしそこなった女の子が、もんどりうって倒れた。
「嘘…?」
(おいおい、普通、ボールが当たっただけで倒れるかよ?)
 ピーーッ!
 ホイッスルが鳴り試合が一時、中断される。
「大丈夫…?」
 周りの同級生が心配そうに覗き込むと、先生も駆け寄った。

「まゆゆぅ、大丈夫?」
 一人が心配そうに、その子の名を呼ぶが気絶しているのか返答は
無い。
「軽い脳震盪かしら? 誰か保健室に運んでくれる?」
 ネットの前にいる僕は会話がすべて聞こえてくる。
「あの、僕…いえ、私が行きます!」
 僕はネットをくぐり、倒れている女の子の側に寄った。
「そうね、じゃあ後は…」
「大丈夫です。私一人で運べますから。先生は授業を続けて下さい」
 僕は気絶している女の子をヒョイと抱きかかえ校舎に向かって
歩き始める。
「すっごーいっ!!」
 一年生たちが感嘆の声を上げる。
(中身は男のままだからな。こんな小さな女の子、抱えるくらい
屁でもないさ)
「あ…それじゃ、お願いね」
 先生も、あっけにとられているようで、それ以上の言葉を発しない。

 校舎に入り、皆の視界から外れたところで女の子が口を開いた。
「先輩…私、大丈夫ですから…もう下ろしていいですよ」
 頬を真っ赤にした下級生はゆっくり目を開けた。
「ホント? 大丈夫? 頭とか打ったんじゃない?」
「心配してくれてるんですね。私、嬉しいです。でもホントに
平気ですから下ろして下さい」
「…うん」
(助かった。正直、そろそろ腕も痛くなってきたし、保健室の場所が
分からず困っていたところだ)
 僕は、そっと女の子の足が地に付くように腰を下げる。

「先輩…私…白石真由です。あのぉ…手紙、読んでくれましたか?」
「え…?」
(あ! この子が手紙の子? そういえばコートで「まゆゆ」って
呼ばれてたっけ?手紙の内容は、ごく普通の告白めいたラブレターで
携帯のアドレスまで書かれていたけれど)
「私、先輩を初めて見た時から、ずっと好きでした。先輩がモテるのは
知ってますけど、ご迷惑でなければ私もお仲間にして貰えませんか?」
 背の低い、その子は涙ながらに訴える。
「お、お仲間って、私…どうしたら…」
(前の持ち主の行動は知らないんだよ)

「ね、先輩。こっち来て」
 急に僕の腕を掴むと、その子は早足で移動をめた。
「どこへ行くの?」
「いいから、いいから。こっちです」
 脇目もふらず、まっすぐに進んでいく。
(どこへ行くんだろう?) 


(続く)


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