SKIN TRADE2
作:嵐山GO

(その4)

「早坂さんはいいから、廊下で待ってて頂戴。私の話しはスグに終わるから、
少し待っていれば一緒に帰れるわ」
「はーい」
 先生は、そう告げると早坂と呼ばれた女の子は職員室を出ていった。
「さてと、胡桃谷さん。お話しの前に、あなたに渡すものがあるんだけど」
 言いながら、自分の机の下に隠しておいた鞄とバッグを取り出す。
「これ、あなたのよね?」
 差し出された二つの物には見覚えがある。そう、電車の中であの男が
握り締めていたモノだ。両方ともタヌキのストラップが付いているから、
まず間違いない。
「あ、ええ…そうです」
(ここは、こう言うしかないよな)
「これは遺失物として昨日、届けられたの。誰が持ってきたのか不明だけど、
中を見させて貰ったら、貴方のものだって分かったから」
「…はい」
(僕の…いや、この子の名前は胡桃谷美穂っていう事は分かった)

「胡桃谷さん、どうしたの? いつも冷静沈着な貴方が少し変よ。
大体、これには教科書や体操着など月曜日から使う大切な物が沢山、
入っているのよ。こんなものを貴方は、どこに忘れてきたの?」
「えと…それは…えーと」
(遺失物か…あの男が不要になったので届けたのだろうか? それとも
捨てたものを、誰かが拾い中を見て届けたのか…)
「何か悩み事でもあるの? 抱えてる事があるのなら先生が相談に
乗るわよ」
「…はい…あ、いえ」
「貴方のものだから知ってると思うけど、このバッグの中には制服も
入っているの」
「…はい。そうですね」
「という事は学校から帰る途中、どこかでで着替えたわけよね。貴方の
事だから悪い道には走ってないと信じてるけど」
「はい…それは、ないです」

「本当に悩みとか無いの? 先生、心配してるんだけど」
(どうやら鞄を置いて、非行か自殺でもするように思われているようだな)
「どうなの?」
「あ、先生…私、大丈夫です。ただ金曜日の午後からの記憶がなくて…
駅の階段で転んで頭を打ったみたいで、その先の事を何も覚えて
いないんです」
「そうなの…貴方の病歴については以前、保健の先生にも伺っているけど…
それで、怪我はないの? 病院には行った?」
「ええ、行きました。でも、もう大丈夫です。痣が少し残ってるくらいで…
大丈夫ですから」
「そう。それならいいけど」
 先生と呼ばれる、その女性は椅子に座ったまま下から疑いの眼差しで見る。


「あの…鞄とバッグ、貰っていっていいですか?」
(とりあえずここは持って帰るか)
「あ、ええ…勿論いいわよ。あ、でもその前に、もう一ついいかしら?」
「…なんでしょうか?」
「貴方、携帯変えたの? 連絡しても通じなかったけれど。それと学校に
登録している住所にもいないようだけど、お引越しでもした?」
「あ…そ、そうなんです。えと…携帯は最近変えたばかりで、お友達にも
教えてません。住所も引っ越したばかりでバタバタしていて…
すみません!」
 とりつくろっても仕方ないと思い、僕は話しをなるべく合わせていった。
「そう。なら、新しい住所と連絡先、携帯でいいわ。ここに書いて頂戴」
「…わかりました…」
 現在の本当の住所と携帯の番号を書き終えると、僕は一礼して職員室を
出た。

「どうだった?」
 外で出ると、待っていた早坂という女の子にスグ声を掛けられる。
「う、うん…駅で鞄、落としちゃって誰かが届けてくれたみたい」
「鞄、落としたぁ? ぷっ! あんた案外ドジっ子だったんだ。へぇー、
意外」
 妙に感心されながら二人で校舎を後にする。
「どうする? お茶でもしていく? 当然、あんたの奢りで」
「あ、ゴメン。荷物もあるし、今度でいい? 絶対に奢るから」
「わかった。それもそうだね。じゃ私、こっちだから帰るわ。来週、
絶対奢りだかんね」
「うん!」
 僕らは軽く手を振って分かれた。でも僕は、その後も早坂さんの
ミニスカートから伸びた細い足を見続けていたけれど。 


(続く)


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