転身  (その36)
作:ecvt



婦長の証と思われる、二本線の入ったナースキャップをしたキリッとした女性が扉を開け、懐中電灯で辺りを照らした。
彼女はこの紀香以上の巨乳で、大きな胸が白衣をはちきれんばかりに押し出している。
「誰かいるの!?消灯時間違反は許しませんよ!」
彼女は厳しい口調でそう言った。
俺は咄嗟に物陰に隠れた。
「変ね…誰もいないようね・・・」
(くっそー、今やり過ごせたとしても、この紀香のままだと、目立ちすぎて、この病院では動きづれえな・・・そうだ、あの看護婦さん、美人で巨乳だし・・・よし)
婦長とおぼしき女性は、首を傾げながら病室の扉の方へと向きを変えた。
(今だっ!)
俺はサッとドアノブに手をかけた巨乳婦長さんの背後に立ったが、気付かれてしまった。
「キャーッ!」
彼女は驚いた表情で悲鳴を上げた。
俺は慌てて巨乳婦長の顔をつかむと、無理矢理扉のガラスへと向きを変えさせてガラス越しに目を合わせた。
「だ、誰か・・・!侵入者・・・うっ・・・!」
視界が暗転し、気がつくと俺はナースの衣装を身につけていた。
「あぶなかったぁ・・・!これで病院内を自由に移動できるな!でもこの婦長さん、キリッとして怖そうだったけど、こうして笑うとかわいいじゃないか・・・うふふ・・・」
扉のガラスには、先程までとは打って変わってだらしなくニヤけた表情で自分の巨乳を揉みしだく巨乳婦長の姿が映っている。
「さぁて、この侵入者を、婦長の私が排除しないとね!どっこいしょっと!」
俺は床に横たわる紀香をがに股で廊下に引きずり出した。
「とりあえず俺の病室にいてもっらっちゃ困るからな・・・」
俺はそのまま紀香を引きずって女子トイレまで行くと、トイレの用具入れに押し込んだ。
「ちょっと、ここで隠れててくれよな」
扉を閉めると、俺は背後から不意に声をかけられた。
「婦長、大丈夫ですか?」
振り向くと、若いナースが二人、俺の方を心配そうな表情で見つめている。一人は髪の色の明るいギャル風のナース。もう一人は色白美人でメガネをかけた真面目そうなナースだった。
「な、な、なんのことかしら?」
俺は慌てて女言葉で答えた。
「なんのって・・・婦長の悲鳴が聞こえたので」
一人がそう答えた。
「あ、あー!なんでもないのよ!まったくあの婦長ったらいきなり大きな声出しちゃうからねー!でももう大丈夫よ!・・・って、婦長って私のことだわよね!あはは・・・」
二人はいつもと違う様子の婦長を見てきょとんとしている。
(まずいな、大声出したのは俺じゃないけど、今、俺はその大声出した人物になってたんだったな。早く記憶を読んでなりきらないと・・・えーっと、私は香山理子。婦長。この二人は部下で、ギャル風の娘は3年目で山根愛。もう一人は新人の北川雪江、経験はないが、看護学校を主席で卒業した才女ってわけね・・・あとは直近の記憶と口調を吸収して・・・)
「コホン。 本当になんでもないのよ。私の嫌いな虫がいて、ついつい大声をあげちゃったのよ。さあ、二人とも仕事に戻って!山根さんは看護日誌、北川さんは研修日誌を仕上げてしまいなさい!私はもちょっと見回りをしてきます」
俺は理子さんを使いこなしてそうごまかすと、二人をナースステーションに帰した。
「さぁて、これでよし、と・・・じゃあ俺・・・いや、私は婦長として患者さんを元に戻すための実験としてこの身を差し出してあげましょう!」
俺はワザと巨乳が揺れるようにスキップしながら自分の病室に向かったのだった。


(続く)


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