転身 (その32) 作:ecvt 「青木、待たせたわね」 俺はコートを脱ぐと、出迎えの、気が強そうでキリリと眼鏡をかけた美女、青木沙紀の運転する車の後席に乗り込んだ。 「おはようございま・・・!しゃ、社長、その格好は・・・!?」 「あー、これ?起きたところですぐに来たからね。似合ってるでしょ?」 そう言って色っぽいポーズをとった。 「は、はあ・・・」 沙紀は顔を赤らめた。 「ま、そんな事はどうでもいいわ、で、藤本紀香は?」 「話が違うと、控え室に篭ってしまって・・・」 「どういうこと?」 「プレゼンの段階では[肩から上しか映らず、バスタブでゆったりとくつろいだイメージ映像的なもの]だったんですが、結局は監督がパンチが足りない、と、[動くバスタブで、浴槽に浸かりながら歌って踊って、全裸が見えるか見えないかを狙い、最後に全裸でパァッと浴槽から出て、全裸が見えそうなところをウチの商品が重なって隠す]というものに変更になったんですね.。それが気に入らないらしく・・・マネージャーにも説得してもらってたのですが・・・」 「この不況にワガママな女優ね、いいわ、私が話をつけてくるわ」 「しかし・・・その格好でですか?」 「いけないかしら?」 「はい。いくら社長といえども、それは許されません。ここは私が・・・!」 (やっぱり若くして出世しただけあって判断が的確でカタブツでいらっしゃる・・・マジメだねぇ・・・) 「どうしても?」 「はい、どうしてもです!」 スタジオに着いたため、沙紀は車を停めようとバックをはじめた。 「なら、私があなたとして行くっていうことにしましょう!」 「え・・・?」 車を停めた沙紀はバックミラー越しに俺と目を合わせてしまった。 「ひぃっ!あぁぁっ・・・。ふぅ、コレで俺が沙紀さんだから、行っていいんだよな!全て解決!」 沙紀となった俺は、車から降りるとツカツカとハイヒールを鳴らしながらスタジオに入っていった。 「クライアントの広報部長の青木よ!紀香の部屋はドコなの?私が説得します!」 俺は青木沙紀のキツイ口調でそう言いながら、マネージャーに紀香の控え室の前へと案内させた。 「ここは私が説得します。二人きりにして頂戴。いいわね!」 俺は制止しようとするマネージャーを押しよけて、藤本紀香の控え室に入ると、すかさずドアの鍵を閉めた。 「・・・誰!?今は誰にも会いたくないって言ったハズよ!」 頭にタオルを巻き、バスローブに頭にタオルを巻いた姿で鏡台に座っていた紀香は顔だけ振り向くと、俺にそう言い放った。 (うわっ、生紀香だ!美人だなぁ!でもイメージと違って気が強そうだな・・・) 「私はこの入浴剤を販売している総合アパレル・美容グループの広報担当部長よ」 「部長?いくらクライアント直々の頼みだからって、私はやらないわ!」 「そんな事言わないで、ね?こんなにいい胸してるんだからぁ・・・」 俺は彼女の背後に立つと、後ろから紀香の胸を揉み始めた。カタブツの沙紀からは考えられない行動だ。 (うっひょー!紀香のおっぱい!やわらけぇー!) 鏡に映る沙紀の表情は、今朝初めてあった時とは全く違う、だらしなくニヤけたものに変わっていた。 「ちょ、な、なにを・・・!」 「いいから・・・!」 俺は紀香の顔を両手で掴んで、その顔を鏡に向けた。 「ちょ・・・私に触らないで頂戴!こ、このCMの路線は私のポリシーに反するのよ。絶対にやらないわ!やりたければあなたがやれば?替わってあげるわよ?」 「そうね、ちょうどいいわ、換わりましょうね?」 「・・・え?」 その瞬間、俺は藤本紀香と鏡越しに目を合わせた。 「ひっ・・・あ・・・」 その瞬間、青木沙紀は床に崩れ落ちた。紀香は遠くを見つめながら苦しそうに口をパクパクとさせている。 「あ・・・あ・・・う・・・・ふぅ・・・くっ・・・」 (なんだ!?さすが女優、意思は強いってワケか・・・ちょっと抵抗してきやがる・・・でもな・・・!) 紀香は苦しそうに何度か強くまばたきをした。そして彼女の目に生気が戻ると、彼女は嬉しそうな表情で自分の両手を眺め、自分の全身をベタベタと触りまくったのだった。 「ふふっ、残念だったな・・・なぁにが私に触らないで頂戴!だ!スベスベェ!やったぁ!これで俺が藤本紀香だ!わはは!」 そう言ってイスの上に立ち上がって、がに股でガッツポーズをとった紀香は、勢いよくバスローブを脱ぎ捨てたのだった。 「うーん!いいスタイル!ニップレスと肌色のパンティなんかして隠すなんてもったいない!取っちゃえー!」 紀香は勢い良くニップレスを取ると、パンティを脱いで鏡の前でポーズをとった。 「うーん、最高!私、藤本紀香なのよぉーん!」 藤本紀香となった俺が、鏡に向かって色々とポーズをとって自分の姿に見とれていると、ドアをノックする音が聞こえた。 「紀香さん、大丈夫ですか?」 (ん?これは[私]のマネージャーの声ね。じゃあ藤本紀香として俺がCM撮影でもしてみますか!) 俺は全裸に頭にタオルを巻いた姿で、控え室のドアを開けた。 「私、やるわ!スタジオに向かいます!」 「やった!・・・ん!?紀香さん・・・その格好・・・!?」 「この格好が何か?どうせやるならリアルにいきましょう!ニップレスや肌色のパンティなんていらないわ!これでやらせていただきますわ!さ、行きましょう!」 そう藤本紀香の声で言った俺は、全裸に頭にタオルを巻いただけの姿で、ダッシュでスタジオに走って行ったのだった。 (続く) |