転身 (その27) 作:ecvt |
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「うーっ、やっぱりまだ夜は寒ぃなぁ・・・コレでも羽織るか」 和香子は、寮から持ち出した「井上」と書かれたネームプレートが付いたCAの制服のジャケットを羽織った。 「おぉ・・・真面目な制服の下にはHなバニーの衣装・・・これはいいねぇ・・・」 和香子はジャケットを開いて自らの胸元を覗き込むと、ニヤニヤとしながら住宅街の方へと歩いていった。 「さぁて、今夜の寝床を探すとしますか・・・」 しばらく歩くと赤ちょうちんの居酒屋が目に入った。 「おっ、こういうなじみしか来なさそうな店って入りにくいけど、この身体なら全っ然気にならないし、宿を決める前にココで一杯やりますか!」 |
(イラスト:◎◎◎さん) |
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「ええ、そうね!私もせっかくのこの格好、誰かに見てもらいたいもの。おやじ達を喜ばしてやりましょう!」 和香子はそう一人芝居しながら、バニーガールの衣装にCAのジャケットを羽織った姿で、赤ちょうちんの小さな居酒屋に入った。 「おやじっ、日本酒!あと焼き鳥盛り合わせね!」 どよめくおっさん達と驚きの表情の大将を無視してカウンターに座った和香子は、そう注文した。 「へ、へい・・・」 「プハァー、効くねぇ・・・!」 「おねえさん、いい飲みっぷりだねぇ!その名札・・・井上さんってぇのかい?」 おやじ達が俺のお猪口に日本酒を注ぎながら俺に近付いてきた。 「えぇ、わたし、さっきからは井上和香子なのよぉん!」 「へ?さっきから?」 「ええ、まぁそんな事どうでもいいじゃない?」 「おねえちゃんはどっかのお店の娘かい?それとも本物のスチュワーデスなのかい?」 おやじ達はニヤニヤと俺の姿を見ながら赤ら顔で質問してきた。 「うふっ、本物よぉん!でもまだ卵だけどね」 俺はそう言いながらジャケットを左右に開くと和香子の胸を両手で持ち上げてブルブルと振ってやった。 「おぉーっ、いいねぇ・・・最近のスッチーはこぉんな格好するようになったのかい?でへへ・・・」 「そうなの、コレは新人研修の一環で、どうすれば男性のお客様に喜んでいただけるか?っていうのを学ぶためにやってるのよぉん!どうかしら?」 「ゴクリ・・・すっごくいいよぉ・・・おねぇちゃん!よし、おいちゃんたちが全部おごってやる!どんどん食いな!」 「じゃあ焼き鳥追加とビール!」 「あいよ!」 (和香子さんって、ダイエット中だったけど・・・ま、いいっか!) 和香子はダイエット中だったらしいが、自らカロリーの高そうなものをどんどんと注文しバカバカと食べた。 「どうだい、ねぇちゃん、勉強になったかい?」 「ええ、とっても!お礼にダンスを披露しますわ!」 酔っ払って調子に乗った俺はカウンターに上ると、和香子の記憶を使って、新年会のネタ用の、バニーガールセクシーダンスを披露してやった。 おやじ達は大喜びだった。 (ばぁか・・・この身体の中身が男の俺とも知らずに・・・でも、ま、実際やってるのは井上和香子なんだから、おやじ達にとってはラッキーか・・・よぉく目に焼き付けとけよ!) 俺は一瞬だけバニー衣装の胸元を開いて胸を見せてやった。 「あんた、最高だよ・・・えへへ・・・」 酔っ払ったおやじの一人が俺の身体を触ってきた。 「げっ・・・、じゃ、じゃあコレをレポートにまとめないといけないのでぇ、まったねぇん!」 そう言って店を走って後にした。 「あぶねぇあぶねぇ・・・さぁて、今夜の寝床でも探しますかぁ!」 和香子は夜の住宅街をフラフラとしながら家の物色を始めたのだった。 「おっ、なかなかいい家じゃん・・・ん?石鹸の香り・・・今誰か風呂に入ってるのか!?」 俺は塀をよじ登ると、開いている窓の隙間から風呂場を覗き込んだ。 「えへへ・・・女子高生ぐらいか?美人だねぇ・・・身体洗ってんのかぁ・・・」 俺が和香子の顔でニヤニヤとしながら塀の上でしゃがみ込んでいると、不意に後ろから駆け足の音と共に声を掛けられた。 「オイ、君!そんなところで何やってる!覗きか!?」 「ゲッ!警官・・・!」 俺はすかさず荷物一式を庭に投げ込んだ。 「え?だ、誰?き、きゃー」 その音に驚いた女子高生は鏡越しに俺の姿を確認すると、叫び声上げなら俺と目を合わせたのだった・・・・ ・・・気が付くと俺は風呂場いた。どうやら先程覗いていた風呂場のようだ。 「ふぅ、危ないとこだったぜ・・・」 外では和香子と警官が言い合いをしているようだったが俺はそれを無視して窓を閉めた。 「また覗かれると怖いから窓を閉めときましょうね!うふっ!」 俺に身体を乗っ取られた女子高生・・・黒木奈美は鏡で自分の顔を珍しそうにしげしげと眺めながらそう言った。 「えっとぉ、私は黒木・・・奈美ね・・・今は、ママは美佐子・・・おっ美人じゃん・・・ママに相談・・・ふむふむ、彼氏がHを迫ってきて・・・どうしたらいいか相談するために、今からママと一緒に入る約束して・・・今からママが入ってくる・・・ほぉ・・・パパとは離婚してて・・・でもママがアパレル関連の社長で・・・格差婚だった・・・ほうほう・・・ならこの豪邸に母娘二人だけ・・・なるほど、コレは都合がいい。そのことを相談しながらママと・・・エヘヘ・・・」 奈美は鏡を見てニヤニヤながら自分の身の上をブツブツと独り言を言い始めた。 「あら奈美ちゃん、何一人でブツブツ言ってるの?」 奈美の母親、黒木美佐子が全裸で風呂場に入ってきた。 「げっ、美佐子さ・・・いえ、ママ・・・な、なんでもないのよ」 美佐子は41歳ではあるが、スタイルも崩れておらず、まるでモデルのようなスタイルで、それでいて大人の落ち着いた雰囲気をも持ち合わせている美人だった。 俺はついつい見惚れてしまった。 「どうしたの?ママのことをじっと見て。なんだか恥ずかしいわ・・・」 (へへっ、俺の事、娘だと思ってやがるぜ・・・でも、大人の雰囲気漂って・・・いいなぁ・・・あの人と一体化して・・・あの人自身になってみたいなぁ・・・) 「じゃ、ちょっと予定を変更して・・・ママ、背中洗ったげるわ、鏡の前に座って!」 俺は美佐子を鏡の前に座らせると、すかさず目を合わせたのだった。 「ありがとう奈美ちゃ・・・ひっ・・・あっ・・・くっ・・・・・・フ・・・フフッ・・・や、やったぁ・・・これで俺が美佐子さんだぁ・・・ぐふふ・・・スベスベだぁ・・・」 鏡の前に座った美佐子は、急に苦しんだかと思うと、先程までとは打ってかわった邪悪な笑みを浮かべながら、自分の体を撫で回した。 「胸もこぉんなに大きくて・・・あぁん!と、いけないわ、なんてはしたない・・・私ったら、ついつい自分の裸に見惚れちゃって・・・今夜は娘の相談にのってあげるんだったわぁん!」 鏡を見ながら自分の胸を揉むのをやめた美佐子は、床に倒れている奈美を揺すった。 「奈美ちゃん、奈美ちゃん?」 「・・・あ、ママ・・・」 「あらあら、のぼせて気絶しちゃったのかしら?」 「・・・うん。多分・・・貧血かな・・・」 「まぁそんな事どうでもいいわ」 美佐子の表情は一瞬冷たいものとなった。 「え?」 「それよりも、私に相談事があったのよね?聞かせて頂戴、何でも相談にのるわよ」 俺は、美佐子の顔で優しそうな笑みをつくると、「娘」である奈美にそう問いかけたのだった。 (続く) |