転身  (その10)
作:ecvt



「さぁて、駅にでも向かうかな・・・」
優子の声でつぶやいた俺は、駅への近道である緑地公園を歩いていた。
「ママァ!」
(どっかの子供が騒いでら・・・迷子にでもなったのかな・・・)
「ねぇ、ママったらぁ!」
なぜかその声がだんだん近づいてくる。
(うるせぇガキだな、ずっとこっちの方に向かって大声出してるが・・・おめぇのママはよっぽど遠くにいるのか!?俺の周りに主婦らしき奴はいな・・・ん?)
その声の主は俺の目の前で止まって、俺のスカートの裾をつかんだ。
「ママァ・・・」
「ん?うるせぇな、ガキ!迷子か?俺は今忙しいんだよ、おめぇのママを一緒に探してやる余裕はねぇんだよ、な!わかったらあっちに・・・あれ?こいつ」
「佐藤さんの奥様!」
見ると、優子の記憶にある、ゆみちゃんとそのお母さんさんが小走りで駆け寄ってきた。
「ああ!おめぇ、この優子さんの子供の高志って奴か!この周りにいる主婦って俺のことかぁ!すっかり忘れてたよ、俺って今、主婦・人妻・コイツの母親だったのよね!・・・でも、こんなときにめんどくせぇな・・・」
俺はスカートの裾を引っ張る高志の手を無意識に払い除けてしまった。
普段は優しい母の思わぬ行動にショックを受けた高志は少し涙ぐんでいた。
(おいおい・・・んなコト言っても俺は、身体はおめぇのママでも、中身はおめぇのママじゃねぇんだからしょうがねぇだろ?はぁ・・・)
「やっと追いついたわ・・・遠くから私と高志ちゃんが呼んでたのに全然気が付かないんですもの!」
「あ、あぁ、まぁ、ちょっとうっかりと・・・ね」
「ふふっ、奥様ったら!ついうっかりご自分のお子様の声を忘れてしまったとでも?面白いご冗談ね!」
「でしょー!ウケた?なんつって・・・」
「は?」
「いえ、なんでも・・・」
「丁度良かったわ!これから高志ちゃんを連れてこの公園のアスレチックに行こうと思ってたところなのよ。佐藤さんの奥様もご一緒にいかがかしら?」
(うぇ・・・めんどくせぇなぁ・・・この身体でいるのもそろそろ潮時かな・・・身体を乗り換えるとするか・・・お!あれは・・・!)
俺は適当な身体がないか辺りを見回すと、白いジョギングスーツに身を包んだ小麦色に日焼けした女性が走っているのを見かけた。
(おぉ・・・女性アスリート・・・いい響きだねぇ・・・あの健康的に焼けた肌・・・今度はアレにしますか!)
俺は自然と優子の顔をニヤつかせてしまっていた。
「奥様?」
「ん?あぁ・・・」
俺はゆみちゃんのお母さんの呼びかけを無視しながらジョギングスーツの女性の姿を目で追っていると、公園の公衆トイレに入っていくのが見えた。
(チャーンス!これは行っとかないと!)
「あ!私、ちょっとトイレに行ってきますわ!ずっと我慢してたんでしょんべん・・・じゃなかった、お小水?が漏れそうなのよ!じゃ!すぐ戻るわ!」
俺は適当に言いつくろって、そのランナーが入った公衆トイレに駆け込んだ。
「どうしちゃったのかしら・・・佐藤さんの奥様・・・それにセーターから乳首が透けて見えてたような気が・・・」

(はぁ、はぁ、やっぱり女の身体って体力ねぇなぁ・・・胸は揺れて邪魔だし、ちょっと走っただけで息切れしやがる・・・)
女子トイレについた俺は辺りを見回すと、先程の女性アスリートが洗面台で顔を洗っていた。近くで見るとこれまた美人だ。
「ふうっ!ここまでのタイムは順調ね!ここから折り返して目標タイム達成よ!」
そう鏡に向かって言うと、気合を入れなおしたような表情で、再びバシャバシャと顔を洗い始めた。
(ふふっ、張り切ってるところ悪いけど、大変そうだからこの続きは俺が適当にやってあげるからね・・・)
俺は無防備に顔を洗っている彼女の背後に忍び寄ると、屈んで、彼女が顔を上げるであろう高さに顔を持っていった。
女性は顔を上げると、腕時計のタイマーをスタートさせ、鏡に向かって自分の頬を両手で二回叩いた。
「よし、後半もこのペースで行くわ!絶対憧れのホノルルマラソンで目標タイム達成す・・・」
彼女が鏡に映る自分に向かって励ましの言葉をかけている途中、背後にいる優子と目が合ってしまった・・・!
彼女は一瞬呆けたような表情を見せた後、ニヤッと笑うと、後ろでワケがわからない表情で子供に引っ張られて連れて行かれる優子のことも、どんどんと進んでいく腕時計のタイマーを気にする様子もなく、先程までの真剣な表情とは一変したニヤけた顔で、じろじろと自分の顔を撫でまわしながら鏡で確認しだした。
「ふぅーん、私って、水谷美紀って言うんだぁ・・・へぇ・・・かわいいなぁ・・・本職はスポーツクラブのインストラクターで・・・ふんふん・・・高校からずっと陸上一筋!で、夢をあきらめきれずに今回休業して練習に集中・・・へぇ、私ってかわいくても根性あって偉いのね・・・でへへへ・・・そんな娘が俺だなんて・・・照れるなぁ」
中身が俺になってしまった美紀は、デレデレとした恥ずかしそうな表情でそう言うと、今度は思い立ったような表情をした後、突然、鏡に自分の姿を映しながらピョンピョンと跳ね出した。
「うわぁ!やっぱりバネがあるわ!私ったらさすが鍛え上げられた女性アスリートよね!どこかの主婦の身体とは大違いよね!」
そう言いながら上着のチャックを開けると、白い吸水性の高い素材のタンクトップを引っ張って、スポーツブラに包まれた胸を覗き込んだ。
「おぉ!私の胸って結構でかいじゃん!跳ねてみて揺れないからどうしようかと思ったよ!スポーツブラって性能いいんだな!こりゃいいや!」
両手で自分の胸を何回か掬い上げてスポーツブラの感触を確かめた俺は、今度は鏡の前でストレッチを始めた。
「おぉ!やわらけぇ!俺なんて運動不足で固くて固くて・・・!こりゃすごい!こんなに股が開くし、腰が曲がる!おぉ!」
俺は調子に乗ってウエストポーチを外し、ズボンとパンティをおろすと、股裂きをして、腰を曲げ、股の間から自分の股間を眺めた。
「おぉ!こんなこともできるのかぁ!絶景絶景!・・・すげぇなぁ!レロレロ・・・」
自分で自分の股間を舐めようとするが寸でのところで届かず、倒れ込んでしまった。
「いてて・・・さすがに自分では舐められないか・・・ようし、今度は・・・!」
俺はズボンとパンティを降ろしたまま立ち上がると、美紀の胸を揉みながら再びジャンプをしてみた。
「やっぱりいい脚力してるわ!あぁん!で、でも・・・や、やっぱりスポーツブラでも・・・こうやって強く揉むとぉ・・・!あっ!き、気持ちいいのは変わらない・・・のねぇん・・・!あぁっ!目標タイムを達成しないといけないのに・・・あんっ!トイレでこんなこと・・・で、でも・・手が止まらない・・・・!や、やっぱり直接・・・」
そう言って鏡の中の美紀はジャンプを続けながらタンクトップを捲くり上げると、乱暴にスポーツブラを外した。
「うわぁ!やっぱりでっけぇ!揺れる揺れる!」
美紀はジャンプしながら、揺れ暴れる胸の片方を掴むと、自分の口に引き寄せ、いとも簡単に自分の胸を舐めることに成功した。
「レロレロ・・あんっ!優子さんの時と違って、やっぱり身体が柔らかいと違うわよね!レロレロ・・・うっ、この身体が柔軟に鍛え・・・上げられていたおかげよね・・・あんっ・・・ありがとう、美紀さん!今度は反対の胸も・・・あぁん・・・・!」
「どういたしまして!レロレロ・・・私も・・・うっ!レロレロ・・・これを・・・やるために・・・うふん!レロレロ・・・長年・・・レロレロ・・・柔軟・・・頑張ってきたんですもの!・・・レロレロ・・・成果が・・・発揮出来て・・・レロレロ・・・嬉しいわ・・・」
「あっ、あぁぁん!美紀さん!ちょ・・・ちょっとタンマ!この身体の下が濡れてきたわ・・・」
美紀はジャンプをやめると、潤んだ表情で鏡を見つめた。このだらしない格好・・・そこには先程までの、夢に向かってトレーニングに励むさわやかな女性アスリート、水谷美紀の姿は無かった。
「でもすっげぇなぁ・・・これだけ激しいコトやったのに、全然息が上がってないよ・・・これだけ体力があればHが相当粘れるんじゃないか・・・?ニシシ・・・」
[ピピッ!]
そのとき、美紀の腕のタイマーが鳴った。
「あ!忘れてたわぁん!目標タイムまで残り30分を切ったわ・・・どうしましょう、全然進んでないわ・・・よし、目標変更!せっかく鍛えたんですもの、アスリートとして残りタイムまでに何回イケるかに挑戦よ!」
女性アスリート水谷美紀になりきって鏡に向かって美紀の口調でそう言った俺は、両手で頬を二回叩き、キリッとした表情をしたが、すぐにニヤけた表情となったまま、女子トイレの個室に入って行った。


(続く)

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