REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-054 "國谷(V)"

「何が言いたいの?」
 絶えることがなかった國谷の笑みが消えた。口元は今や堅く結ばれ、その目は鋭く氷村をにらんでいる。氷村にもはじめて見せる表情だろうとマコトは思った。
 そんな目でにらまれても、氷村はいつもどおりの平然とした態度をしていた。
「君がトミタの社員ではないことは、最初からわかっていた」
「……」
 國谷は黙っていた。
「君はトミタとはまったく関係のない人間だ。研究所に入るために、トミタの社員であるふりをしたのだろう。
 トミタ本社から派遣されてきたと言えば、わたしもないがしろには出来ないと、君は踏んだのだろう。確かに、それは正しい」
「巨乳は、本当にスパイだったのか?」
 俺は口を挟んだ。
「そうよ。せっかくの工作も、ボスには通用しなかったみたいね」
「ネオ・レプリカのデータなんか盗んで、どうするんだ?」
「どうするって……、売るのよ当然。こんな凄い技術、みんな欲しがるわ。
 だいたいこれだけ凄い物なのに、イヤらしい事だけに使ってるなんてもったいない話だわ」
 國谷は話を続けた。
「動物試験の替わりにレプリカを使って実験したいと言う話ってけっこう多いのよ。レプリカで実験すれば、医療技術もぐんと進歩するわ。でも、倫理上の問題が山積していて、これがなかなかうまく進まない。
 そこで極秘裏にレプリカを作って裏ルートで流通させようって話が持ち上がってね。わたしにレプリカのデータを取ってきて欲しいって話が来たの。
 ところが、ボスの研究所に来てビックリしたわ。ネオ・レプリカなんて物があるじゃないの。
 レプリカに比べてはるかに高性能。しかも極秘に――このわたしでさえ知らなかったほど極秘に――開発されたネオ・レプリカ。もう、レプリカのデータなんてゴミよ!
 ネオ・レプリカの価値は計り知れないわ。マコトくんを観察して、性能の方も十二分だということが確認できたし」
 國谷はデータの入った小さな箱を見つめた。
「これ程の技術資料なら欲しがる人はいくらでもいる。レプリカなんかよりも高く買ってもらえる所はいくらでもある。
 たとえばテロリスト組織とか。ネオ・レプリカを人間兵器として、自爆テロにだって使える。人ごみに紛れたネオ・レプリカを探し出すのは難しいでしょう?
 あるいは、権力者のネオ・レプリカを作って、国際会議最中に自爆させてもいい」
「そんなことになったら……」
 茜が言う。
「まあ、それはわたしが考えたたとえだけどね。
 誰がどう使うかおうと興味はないわ。私はお金さえ手に入ればいいだけ。私が信じるのはお金だけ。
 人を信じない所はボスと同じね。ボスがここにドールしか置かないのも、人が信じられないからでしょう?」
「ドールは君みたいに機密を盗んだりはしないからな。
 だが、ドールでは能力に限界がある。ネオ・レプリカの研究のために、有能な助手が必要だった。その時、現れたのが君だよ。だからここに置いた。それだけだ。
 おかげでネオ・レプリカの研究はほとんど終わった。
 後は、マコトくんを調べれば分かる。
 それでわたしのすべての研究は終わる。
 ここまで来れば、もはや、君は必要ない。
 自分から正体を明かす必要などなかった。君は用済みだったのだよ」
「なるほどねぇ。近いうちにお払い箱だったのね。たしかにお互い様よね。
 ま、そんなことは、もうどうでもいいわ。
 どうやら、ここを通してもらうには、腕ずくしかないみたいね」
「君は優秀だった」
「お褒めにあずかりまして、光栄だわ」
「だが、腕力の方はどうかな?」
 氷村が腕をかまえた。國谷も合わせるように攻撃態勢を取る。
「君が何者でも、どこで何をしようとも、そんなことはどうでもいい。
 ただし誰であろうと、研究の邪魔だけは絶対にさせん!」

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