REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-052 "國谷(T)" その時、警報音が鳴った。 《非常警報。非常警報》 俺の頭上で機械的な声が響く。 「マコト!」 心配そうな目で茜が俺を見た。 氷村は天井のスピーカーを睨んでいた。その目は警戒の目ではなく、楽しいショーを邪魔された事を呪っている様な目だった。 だが続く警報を聞いて、氷村の目もあせりに変わった。 《ネオ・レプリカノ、封印部データーニ、侵入者アリ》 「……まさか國谷くんか? 鈴香、停止だ! とまれ!」 氷村の命令に鈴香の動きが止まった。久保田を殺そうとしていた腕を引き、その場で直立の姿勢になると、後は人形のように動かなくなった。 「急用が出来た。君たちは後回しだ。ことが済みしだいすぐに再開する。ここでおとなしく待っていたまえ」 氷村は早口で言うと、部屋の奥にある扉から出て行った。 氷村がいなくなったことを確認した茜は、ため息をついて脱力し、床に座り込んだ。休ませてやりたがったが、今はそれどころではない。 「氷村が戻ってくる前に、ここから離れよう」 俺は入り口の扉に立った。だが、ドアは動かなかった。 茜も立ち上がると、俺のまねをして出口を捜しはじめた。広い部屋なだけに、扉はいくつかあった。 「だめだ! どの扉も鍵がかかっている」 俺は走り回って荒くなった息を整えながら茜を見た。茜は氷村が出ていった扉に向かって歩いている所だった。 茜が用心深く立つと、扉はゆっくりと開いた。茜は慌てて陰に隠れた。 俺達は廊下を覗いたが、そこに氷村の姿はなかった。ただ短い一本道の廊下が、奥まで続いているだけだった。 「行ってみよう」 俺は廊下に入ろうとした。 「でも……」 茜は振り返った。茜の視線を追うと久保田がいた。 久保田はあいかわらず床に膝をつき、うつむいているままだった。 久保田を置いていけないと言う茜の気持ちは分かる。が、久保田の様子は同行できるような状態ではない。 俺はその事を茜に言った。 「それよりも逃げられる場所を見つけて、久保田を迎えに来よう。 茜も来てくれ。捜すのは二人の方が早い。 それに……」 俺は久保田を見た。 「しばらく、一人にさせてやりたい」 その言葉に茜は頷いた。 俺と茜は、廊下に入った。 * 二人で廊下を調べたが、廊下の一番奥に大きな扉が一つあるだけで、他に扉や窓のたぐいはひとつもなかった。 「どうする?」 茜が尋ねた。このまま扉を開けて進むか、それとも引き返すか聞いているのだ。 このまま進めば氷村がいるだろう。 引き返しても、脳がならぶ部屋で行き止まりになっている。やがて氷村も戻ってくるだろう。 どちらを選択しても氷村に会うことになる。ならば、わずかでも可能性のある方を選ぶしかない。 俺は前に進むことにした。 * 廊下の奥の扉を開ける。中を覗くと、部屋の奥に巨大なコンピューターがあった。 コンピューターのイスに、何者かが座っていた。俺はあわてて隠れようとした。 「あら? マコトくんたち!」 イスに座っていたのは國谷だった。 「なんだ巨乳か! よかった」 俺は人影が氷村でなかったことに安堵した。國谷ならこの研究所のことに詳しそうだし、氷村からしばらく身を潜められるような場所を教えてくれるかも知れない。 俺はそう思いながら部屋の中に入った。 部屋の中に入ると、背の高い男の背中が見えた。氷村だ。 「話をそらすんじゃない。 國谷くん。君はここで何をしていたのかね?」 俺たちは身構えた。が、氷村は俺たちの事を気にも留めていないらしく、國谷を問いつめていた。まるで、俺たちの事などどうでもいいと言った様子に見えた。 「答えたまえ。なぜ君がここにいる。 この場所は厳重にロックをしてあったはずだ」 「そんなこと、ボスならば言わなくても分かっているんでしょう? でも、ちょっと来るのが遅かったみたいね」 國谷はイスからゆっくりと立ち上がると、巨大なコンピューターから伸びていたコードを外した。コードの先は、國谷が持つ小さな箱に繋がっている。 「ネオ・レプリカのデータは、ここに転送させてもらったわ」 國谷は手に持った小さな箱を、見せびらかすように氷村に見せた。 「なっ!」 俺は思わず声を上げてしまった。 「あっ!」 茜も國谷の言っている意味が分かったのか、声を上げた。 そう。國谷は、コンピューターに入っていた、ネオ・レプリカのデーターを盗み出したと言っているのだ。 氷村は何も言わずに國谷を見ていた。 「巨乳は、産業スパイだったのか?」 「スパイだったら良いんだけどね。トミタから派遣された、どこにでもいるただの一社員よ」 國谷は楽しそうに苦笑する。 「これはトミタからの依頼なの。 この研究所の設備、敷地、研究費や運営費、その他諸々(もろもろ)……。すべて、トミタが提供しているのよ。その替わり、ここでの研究成果はすべてトミタに渡す。そういう約束をしているの。 ところが、ボスはトミタにはないしょで、ネオ・レプリカの研究をはじめた。 わたしは、ボスがなにやら不審な事をしているらしいから、調査して欲しい。その研究が利益がありそうな物ならば、奪ってこいと頼まれたの」 「それで、巨乳は氷村の研究を奪いに、この研究所に潜入したわけか」 「奪うとは人聞きが悪いわね。悪いのは約束を破ったボスの方よ。 それで、ここにデーターがあると分かったまではよかったんだけど。ボスがやたら用心深くて、なかなか入り込む隙がなかったの。そこで――」 「俺たちを利用したわけか」 後ろから声がした。 振り向くと、久保田が立っていた。 つづきを読む |