REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-046 ”罠(T)” マコトたちは鈴香の待つ部屋に戻ってきた。だが、そこに彼女の姿はなかった。 「あんな体で、どこに行ったんだ?」 マコトが言った。 久保田は無言で部屋の中を見回していた。やがてベッドの上に、無造作にエプロンとワンピースが投げ出されているのを見つけ、手に取った。 「ん? なんだそれは?」 「鈴香の服だ」 「どうして服が?」 久保田はわずかに考え、口を開いた。 「おそらく俺達が出ていった後、氷村がここに来たんだ。そして鈴香を捕まえていった。 鈴香は一人で歩けるような様態じゃない。それに、俺はここで待っていろと言っておいた。鈴香は勝手に出ていったりはしないはずだ」 「この服は?」 「おそらく氷村からのメッセージだろう。 鈴香は預かった、俺の所まで来い。そう言う意味に違いない。 氷村にしても、俺達を探し回るより、人質を使って待ちかまえた方が効率がいい」 久保田は鈴香の服を改めた。エプロンのポケットに写真が入っていることに気が付いた。ラボラトリーに来る時に撮った写真だった。 「鈴香……」 久保田は写真を鈴香のエプロンのポケットに戻した。 「献体保管室に行くぞ!」 「え? 鈴香さんの事はどうするの?」 茜が言った。 「助けたくとも、どこにいるか分からない。むやみに動き回るのは危険だ。 鈴香を人質にした以上、氷村の方から連絡があるだろう」 久保田は茜の顔を見た。 「氷村にやられたんだな? 氷村が手を振るうなんて考えられなかったことだ。それだけ、俺達が核心に近づいている証拠だ。核心に向かっている以上、氷村は俺達を止めようとしてくる。 今は鈴香のことは忘れるんだ。献体保管室に行くことだけを考えるんだ。 俺達には武器がない。慎重に進めよう。氷村を見つけても、直接向かうような真似だけはするな」 久保田はあいかわらず冷静な振る舞いをしていた。 だがマコトと茜は、久保田がワンピースとエプロンを強く握りしめている事に気が付いていた。平静を装ってはいるが、鈴香の事が心配なのだ。それを押して平静になろうとしている。だからマコトも茜も、黙って久保田に従った。 * マコト達は、ラボラトリーの廊下の一番奥に来た。長い廊下は終わり、その先に厚く厳重な扉が閉まっていた。 「ここが、献体保管室だ」 久保田が言った。 「ついにここまで来たな。ここに本物の俺や鈴香が眠っているんだな?」 「中枢だけあって、いくつかの大部屋に分かれているらしい。その一つの部屋に、献体が捕まっているはずだ」 マコトは扉を開けるボタンに手を伸ばした。 マコトは振り向いて、久保田の顔を見た。久保田がゆっくりと頷いた。茜を見る。茜もマコトを見つめ返して頷いた。 マコトはボタンを押した。 重々しい扉が、ゆっくりと開いた。 マコト達は扉の影に身を隠した。 マコトが顔を出して、部屋の中を覗く。 久保田の言ったとおり、今まで見てきた部屋よりも大きかった。コンピューターの画面のような物、計器のような物、ボタンやつまみがたくさん並んでいる装置などが、静かな雑音を立てている。 ガラスの壁で仕切られた隣の部屋が見えた。その他にも、奥に続く扉があった。久保田の言うとおり、いくつかの部屋に区切られているのだろう。 コンピューターの前に座った氷村が目に入った。氷村はコンピューターらしき物を必死に動かしていた。 マコトは氷村がいることに気が付くと、慌てて首を引っ込めた。 「やはりここに来たか。 何をしているのかね? 遠慮せずに入ってきたまえ」 マコト達は互いに顔を見合わせていたが、やがて諦めたように部屋の前に立った。 「鈴香を連れていったのはお前だな? 鈴香を返せ!」 マコトが言った。 氷村は先ほどマコトが見たときと同じように、マコト達に背を向けてコンピューターを操っている。 氷村は振り向かずに言った。 「君達のおかげで、私の大切な献体達が、あやうくなるところだった。もう少しでも私の処置が遅かったら、大変なことになっていた所だよ。 まったく、君たちを小物だと思って、みくびっていた私が間違っていた。 まあ、いい。献体達は無事だったからな」 氷村はいつもの冷静な氷村に戻っていた。 「鈴香をどこにやった?」 久保田が言った。 「そこにいる」 氷村はあごをしゃくって、ガラスの壁に仕切られた隣の部屋を指した。 マコト達は部屋の中に上半身を乗り出して、隣の部屋を見た。ガラス越しに鈴香の姿が見えた。下着姿で、天井から延びた鎖に両腕をつながれ、空中に吊されていた。眠るようにぐったりとしている。 「悪いが私は今忙しい。手が放せない。君たちのしでかした後始末をしているのだよ。 あのレプリカを迎えに来たのならば、鍵はかかっていない、勝手に入りたまえ」 * 「いったい氷村は、どういうつもりなんだ」 マコトは久保田に聞いた。 「おそらく、罠だろう。 鈴香を利用して、俺達を罠に誘っているのだろう。 ここは俺一人で行く。 上原と川本さんは、ここで待っていてくれ」 久保田は献体保管室の扉をくぐって中に入った。 つづきを読む |