REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-043 ”女の体、男の心(W)”

「プロテクトの外し方は……」
マコトが言った。
「外し方は?」
 氷村が尋ねた。
「マコト! 言っちゃだめ!!」
 その時、声が遮った。
 マコトはわずかに目を開けた。快楽のため片方の目しか開けられず、それもわずかに薄目が開く程度だったが、声の主を探そうとした。どんなことがあろうと、この声だけは忘れてはいけない。そんな気がしたからだ。
 涙に濡れて朦朧(もうろう)とした視界に、人影が映った。目を凝らすと茜だった。
「あかね……」
 マコトは、快感に忘却していた自分が置かれている状況を思い出した。一度に理性が戻ってくる。
 氷村に裸にされ、バイブ責めに遭い、女の体の快感にあえいでいる自分。こんな姿を茜にだけは見られたくなかった。
 マコトは茜の視界から隠れようとしたが、体が動かなかった。それだけではなく、こんな時でもホースは震え続け、体はチ○ポをむさぼる事をやめようとはしなかった。
 快感が止まらない。
「んっ、あああ……」
 マコトが抑えようとしても、口から勝手にあえぎ声が漏れる。女の快感を知ったマコトの体は、快楽を手放す気はなさそうだった。

 *

「マコトを放しなさい」
 茜は叫んだ。
 氷村は茜を無視して部屋の奥にある機械まで歩くとモニターをのぞいた。機械についているつまみを回す。マコトに伸びるホースは、いままでは小刻みに震えているだけだったが、つまみの回転に合わせて激しくのたうち始めた。同時に、さらに大きなマコトのあえぎ声が部屋中に響いた。
「あっ!? ああー!!」
 氷村がベッドに戻ってくる。
「どうだ? さっきまでとは比べ物にならないだろう?」
「うっううう」
 マコトに氷村の声が届いているのだろうか? マコトは返事をするわけでもなく、ただ体をふるわせていた。
 氷村は満足そうに腕を組んでもだえるマコトの姿を見ていた。
 その氷村の腕を茜が掴んだ。
「マコトを放しなさいよ!」
 氷村が茜を見た。茜の頭上から、鋭く冷たい瞳が茜を見下した。
「な、なによ!」
 茜はひるんだが、すぐに睨み返した。茜の手は震えていたが、氷村の腕を離さなかった。
「ふん」
 氷村は腕を動かして、茜の手を振り払った。
 氷村は茜を一瞥(いちべつ)しただけで、すぐにモニターに視線を戻した。
「アタシを自由にして置いていいの?
 ここから出て、あなたのしている事を全部公表するわよ」
(この事を公表されては困る氷村は、あわててアタシを追いかけてくるだろう。そうしたらアタシはこの部屋から出て、できるだけ遠くまで逃げる。その間に久保田さんたちがこの部屋に来てマコトを助け出すはずだ)
 茜はそう考えた。
 だが、平然としている氷村から返ってきた言葉は「かまわん」のただ一言だった。その後は茜が何を言っても無視し続けた。

 *

 茜が氷村に刃向かっている間、マコトは快感の中で微かに残った理性で快感と戦っていた。
(こんな姿を見て、茜はどれほど俺のことをなさけなく思っているだろう。茜が助けに来てくれたというのに。茜に見られているのに。それなのに俺は……)
 茜がそばにいる、それがマコトに理性を維持させていた。だが、どんなに心で嫌がっても、快感に自分を押さえることが出来ない。ホースの先のチ○ポから、また熱い液体が体内に噴射された。液体はまるで媚薬のように女の体に快感をもたらし、快感が体中を駆けめぐる。チ○ポから吐き出された液体が腹の中に溜まって来たのがわかる。
(茜が見ているんだ)
 はずかしさと、なさけなさと、屈辱にまみれた羞恥心。だがマコトの体は、その羞恥心さえも快感に変換させてマコトの心を襲わせていた。

 *

 茜は氷村の背中めがけて近づいていた。気づかれないように。一歩ずつ。息を殺して。氷村に勝てやしない事は彼女にもわかっていた。それでもマコトの悲鳴が茜の足を前に進ませる。
 氷村の真後ろまで来たとき、茜は一気に氷村の腰に抱きついた。
「何だ!」
 茜がおとなしくしているだろうと考えていた氷村は、突然の襲撃に驚いた。茜は氷村を倒そうと両腕に力を入れて前に体重をかけた。
 氷村はわずかに体をよろけさせた。が、そこまでたった。
 氷村は茜を払い捨てた。
 茜は床に転んだ。
「キャッ!」
 茜は床に尻餅を付いたが、すぐに顔を上げた。天井の照明がまぶしい。その光も氷村の影で遮られる。氷村は茜にのしかかるように近づいて来た。茜は恐怖でうごけず、わずかに後ずさりしただけだった。
 氷村は両腕を伸ばした。乱暴に茜の両手首を掴む。そのまま腕を振り上げ、茜の体をつるし上げた。
「痛!」
 茜の手首を掴む氷村の握力は強かった。手首の骨がきしむ。今までのような手加減がない。茜はそう思った。
「いい加減にしろ!」
「放して!」
 茜は体を揺すって逃げようとしたが、氷村の手は強く茜の手を掴んでいてとても振り払えそうにない。
 氷村が掴む手首は、ますます強くなっていく。
「……痛い」
 茜を掴んでいる力が落ちた。
「弱すぎる!
 その程度で私を抑えるつもりだったのか? お前と私の力の差は歴然としている。勝算などありはしないだろう。それなのになぜお前は逃げようとしない。なぜ私に刃向かう。なぜここまで危険を侵してまでネオ・レプリカなどを助けようとする?
 その理由を言え」
(理由? ……どうしてだろう?)
 茜は思った。
(確かに、氷村がマコトに夢中になっている隙に本物の誠を助けられたかも知れない。こんなチャンスはもう二度とないかも知れない。アタシは誠よりもマコトが大切なの?
 そうじゃない。アタシはただ、マコトを放っておけなかった……)
「愛か? 愛がお前を動かしているのか?」
 氷村は茜の心を見透かしたように言った。
「愛!?」
 茜は氷村を見た。
 氷村の口から愛などと言う言葉がでてくるとは思ってもみていなかった。愛と言う言葉ほど、氷村からは一番遠い言葉はないだろうと茜は思った。
(でも……。
 確かにアタシは、マコトを助けるのを、誠を助けるくらい大事だと思っている。
 いつの間にかアタシは、誠と同じくらいマコトの事を大切に思っている。
 氷村の言うとおり、マコトは誠じゃないのに……。マコトは誠のコピーなのに……)
 なかなか返事をしない事に業を煮やしたのか、氷村の茜の手首を掴む力が強くなった。
「早く言え」
「そ……。そんな事、アタシにだってわかんないわよ!!」
 突然茜の体に床に転がり落ちた。氷村が茜を放したのだ。
「ふん。 ――あれを見ろ」
 氷村はマコトを見た。
「お前がネオ・レプリカの事をどう思っているのかは知らない。だが当のネオ・レプリカはお前が私に捕まっている間も、ひたすら快感をむさぼって悶えていた。
 今もだ」
 茜はマコトを見た。マコトはベッドの上であえいでいた。ホースから液体が注入されているのだろうか、マコトの腹がわずかに膨らんでいる。
「肉体からの命令に逆らえる者などいない。もはや快感を満たすことで思考は一杯だろう。ネオ・レプリカはお前よりも、快感を選んだのだ。
 あとは最高の快感をやると言えば秘密を吐くだろう。
 安心をしろ。ネオ・レプリカには最高の快感を与えてやる。精神崩壊を侵すほどのな。秘密さえ聞き出せば後は解体をするだけだ。
 最高の快感と共に死ねるのだ。これ以上幸せな死に方はあるまい?
 さて、まもなく真のネオ・レプリカが誕生する。これ以上お前などをかまっている時間はない。
 邪魔をするな。今度私に刃向かえば、命は無いと思え。わかったら、ここから立ち去れ」
 氷村は機械のつまみを上げた。
 マコトの声が高くなる。
「さあ、言うんだ。秘密を。
 替わりに最高の快感を与えてやろう」
 茜は再度、氷村を背後から襲おうとしたが、さすがに今度は氷村がそれに気が付き振り向いた。
 氷村はさっきしたように、茜の腕を掴んでつるし上げた。茜の腕を締め上げる。
「忠告したはずだ。今度私の邪魔をしたら、許さないと」
 苦痛に茜は体を振ってもがいたが、氷村の腕はびくとも動かない。腕が捻り切られるように痛い。掴まれている氷村の指先から、怒りが伝わってくるようだった。

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