REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-037 ”氷村との再会” 叫び声のした部屋に入った俺と茜は、そこで氷村の拷問を受ける久保田の姿を見た。俺たちは氷村に気づかれないように部屋の隅に移動し、身を潜めた。 ここからは氷村の背中と、叫び声を上げながら体を震わせている久保田の姿が見えた。俺は氷村の後ろ姿を見ながら考えた。俺たちがここにいる事に氷村は気が付いていない。俺と茜の二人がかりで、背後から不意打ちをすれば、氷村を倒せるかもしれない。 ……だめだ。氷村の体は服の上からも筋肉質なのが分かる。動作も機敏で動きに無駄がない。しかもこの女の体だ。わずかな勝率に賭けるわけには行かない。俺達まで捕まってしまったら、すべてが終わってしまう。 やはり様子を見よう。氷村だって便所くらいは行くだろう。その隙に助け出せばいい。 拷問が止まった。氷村は久保田へ質問を始めた。俺は氷村の声に耳を傾けた。 この拷問は、俺のプロテクトのはずし方、つまり、クローン体に精神を定着させる方法を吐かせるための物らしい。 氷村は俺を解剖してでも、その方法を探り出すと言っている。 なかなか吐かない久保田に業を煮やしたのか、氷村はついに、久保田を殺すと脅し始めた。 嘘に決まっている。 その証拠に氷村は余裕がある顔をしていた。いくら氷村でも、あんな顔をしながら人殺しはできないはずだ。 だが、その時だった。 久保田がまるで「殺せるものならば殺して見ろ」といった風な態度でベッドに身を任せた。その態度が氷村の感情にふれたらしい。氷村から余裕のある表情が消えた。 (バカ! 久保田の奴、氷村を怒らせやがった!!) 氷村の腕が久保田の繋がれているベッドの脇に伸びるスイッチを掴んだ。拷問の電流のスイッチだ。このままでは久保田が本当に死んでしまう。 * 「やめろ!!」 マコトは飛び出した。 氷村が振り返る。 氷村に見つかったため、あきらめて茜も出て来た。 「上原様!?」 鈴香が言った。 鈴香の声に、久保田も閉じていた目を開いた。 「上原? それに川本さんも。なぜここに……」 久保田は言った。 いや、どうしてここにいるかなんてどうでもいい。 だがなぜ、氷村の前に出てきたんだ。何のために、俺はここまで堪えてたと思っているんだ。 久保田はそう思ったが、それは口には出せなかった。 上原だって自分が氷村の前に出ればどうなるか分かっていたはずだ。それでも俺を心配して飛び出してきてしまったのだろう。そう思うと、責める気にはなれなかった。 久保田は氷村に目線を移した。マコトに対し、氷村がどういう行動に出るか心配になった。 氷村はスイッチを掴んだまま、人形のように動かなかった。 しばらくの後、氷村は思い出したように動き出した。 「すばらしい!!」 常に冷静だった彼とは思えないほど、氷村は熱い視線でマコトを見つめていた。これほど高揚している氷村は始めて見たと、久保田は思った。 「國谷君から概要は聞いていたが、こうして実物を見ると実に感慨深い。確かに精神の崩壊をしていない。信じられん。あれほど演算を繰り返しても、実現できなかったと言うのに。 生殖行為のない人の技術だけで、本物の人間が出来たのだ!! これこそ、私の求めてきた姿だ!! これでネオ・レプリカに精神を定着する方法がわかる。 あとわずかで……。私が生涯をかけて求めてきた……。すばらしい……」 マコトは氷村を見た。氷村の表情は、勝利者の笑みだった。 氷村はマコトに向かって両腕を広げて歩き出した。だが、わずかに歩いた所で立ち止まると首を振った。 「いや、まだだ。この喜びは完成の時まで置いておこう」 氷村は茜の方を向くと、茜に近づいて来た。 「茜に手を出すな!!」 「今はこの人の言うとおりにして。そうしないと、久保田さんたちが……」 「うむ。君は自分の立場がよく分かっているね。さあ、両腕を前に差し出すんだ」 茜は両手をそろえて氷村の前に出した。氷村は、久保田たちがつながれているのと同じ革のベルトで、茜の両腕を縛った。 「君がいったいどういう理由でここまで来たのかは知らないし興味もないが、これも運命だと思ってあきらめたまえ」 氷村は、茜の両足も同じように縛った。茜のベルトがしっかりと縛ってある事を確認する。 「安心したまえ。君がおかしな真似さえしなければ、私は彼らには手を出さないよ。 君の前では、彼らなど興味の価値さえない。今は彼らにかまっている時間さえ惜しい」 氷村は出口に向かって歩き始めた。その後、振り向くとマコトに言った。 「ついて来たまえ。 わかっていると思うが、私に抵抗すれば久保田君や、茜君と言ったか? 彼女は無事ではすまないよ。その事をゆめゆめ忘れないようにしたまえ」 マコトは氷村をにらんでいたが、あきらめたようにうつむくと、氷村の後を追って歩いた。 氷村はドアから廊下に出ていった。 「マコト……」 マコトは、茜の声にも振り向かずに廊下に出ていった。 つづきを読む |