REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-033 ”人工物の時間(U)”

「鈴香の命は、あと6時間だ」
 久保田は言った。
「いずれは言わなければならない事だ、話しておく。
 レプリカやドールの寿命は人間から比べると遥かに短い。鈴香は生物としての寿命が来ているんだ」
(鈴香はその事を知っているのだろうか?)
 マコトは鈴香の顔を見た。鈴香はマコトの視線に気がつくと頷いた。
(そうか。鈴香は自分の体が限界だって知っていたのか)
 久保田は続けた。
「最初ドール、つまりクローン人間はドイツとアメリカで研究された。医療実験と軍事産業としてな。世界中の英知が集まった結果、クローン人間が誕生した」
「それ知ってる! ニュースで見たわ。でも、すぐ死んでしまったのよね」
「そうだ。人類史上初めて作られたクローン人間の命はたった一日だった。
 その後も研究は繰り返されたが寿命は延びなかった。
 やがて人権問題などの反対運動も激しくなり、これ以上金や労力をかけても無駄だと判断されて、この技術は捨てられた。
 その後はマスメディアもクローン人間の話題はしなくなり、人々も忘れていった。すべてが歴史の中に消えていった。
 だが、その捨てられていたクローンの技術に興味をもった組織があった。
 それがトミタだ。
 トミタはクローン人間の技術資料を買いつけた。そして氷村を中心とした研究チームが結成された。それが俺達だ。俺や鈴香は、クローン人間の寿命を伸ばす研究していたんだ。
 氷村の技術力はすごかった。まさに天才だった。くやしいが、その点は俺も認めざる得ない。結果、個体差があるが三ヶ月程度まで伸ばした。
 トミタはそのクローン人間をドールと名づけて売り始めた。こうしてドールが広がりつつあるのが現状だ」
「三ヶ月……。
 じゃあ、マコトの命も同じなの?」
「上原は鈴香よりもかなり後で作られたから、当分は問題ない。
 だが寿命の長さは皆同じだ。こればかりは、誰にも止められない」
「俺の命は三ヶ月なんだな?」
「三ヶ月と言ったのはドールの例だ。
 あの氷村が新たにレプリカと名づけるだけあってドールよりも改良されているらしい。鈴香はもう五ヶ月も生きている。
 だが、氷村の技術をもってしてもここが限界だろう、だからマコトの寿命もおそらく……」
「五ヶ月、か。
 長くはないな」
 自分の命が五ヶ月と聞いても、マコトは不思議と恐怖感がおきなかった。むしろそれだけの時間があれば、本物の自分を取り戻すだけの時間には十分にあるなと思った。
 自分が死んでも、自分の代わりに本物の自分が生きつづけると言う事が心の支えになっているのかもしれない。

    *

 久保田は鈴香を見た。鈴香は頷いた。辛そうな表情とは裏腹に、意思のこもった視線を久保田に返す。
「そろそろ先に進むぞ」
 久保田は言った。
 だが、マコトも茜も座ったままだった。
「何をしている。先を急ぐぞ」
「久保田、お前も鈴香と一緒にここに残れ。鈴香の命はあとわずかなんだろう?」
「なに? この研修所の設計は複雑だ。俺がいなくて、誰がラボラトリーまで案内をするんだ?
 それに氷村はお前を狙っている。國谷とか言う女の動きも気になる。人数は多いほうがいい」
「本当にそれでいいのか?」
「鈴香のことか? こいつは鈴香のコピーだ。俺は本当の鈴香に会いに行くんだ」
「だからコピーなんてどうでもいい……そういうのか?
 この鈴香はコピーかもしれない。だけどこの鈴香とは二度とあえないんだぞ?
 最後のわずかな時間、そばにいてやらなくていいのか? 本当にそれで後悔しないのか?」
「……。
 研究所は広い。上原はこういった施設には不慣れだろう。道に迷うぞ?」
「迷子になったって、なんとかたどりついて見せる。
 だからここに残れ。
 久保田はさっき俺に自分の事を心配しろって言ったな。久保田だってすこしは自分のことを大切にするべきだ」
「……。
 わかった。ラボラトリーまでの道順を教える」
 久保田はマコトと茜に道を教えた。
 道順を聞いたマコトと茜は、ラボラトリーに向かって歩き出した。
「マコト様……、川原様……」
 鈴香の声に、マコト達は振り返った。
「ありがとうございます。お気をつけて……」
 続けて久保田が言った。
「感謝する」
 マコトは久保田を見た。久保田の手は、鈴香の手を強く握っていた。
「氷村に見つからない様に、注意を怠るな。
 さあ俺達は足手まといだ。行け!」
「ああ、ラボラトリーで待ってる!」
「ラボラトリーで会いましょう!」
 マコトと茜は、久保田と鈴香と別れ、ラボラトリーに向かって走り出した。

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