REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-031 ”侵入(Z)” 「鈴香!! 上原!! 川原さん!! 誰でもいい!! そのキーを押してくれ!!」 久保田は叫んだ。 その時、ドールの隙間からキーボードを見ていた久保田の目に、白く細い指が目に入った。鈴香の手ではない。 細い指はエンター・キーを押した。 * マコトは目を開いた。急にドール達の圧迫を感じなくなったからだ。マコトを囲んでいたドール達はマコトから離れると、何事もなかった様に廊下の奥に向かって歩き始めた。 保安室からも次々とドールが出て来た。マコトは身構えたが、ドールはマコトの事など目に入らないと言うようにマコトの目の前を通って廊下の奥に消えていった。 茜が気が付いた。 「マコト……? ドールは?」 「いなくなった。久保田達が間にあったんだ」 「よかった……」 茜は床に落ちている電撃棒を見た。囲まれた時に多くのドールに何度も踏まれたのだろう、電撃棒は二本とも踏み潰されていた。茜は電撃棒を拾うとスイッチを入れたが、二本とも動かなくなっていた。 マコトと茜は保安室のドアを開けた。保安室の中には久保田と鈴香、さらに一人の女性が立っていた。 (ドールが残っていたのか!?) マコトは身構えた。 女はマコト達に背を向けたまま、久保田に向かってしゃべっていた。 「警報が鳴ったから来て見たけど。こんな所で捕まっているなんてねー。あなた達ならばもう少し進めると思っていたんだけどなー。ちょっとかいかぶりすぎたかな? ま、あなた達にしては上出来な方かしら?」 女は振り返ると、マコト達に微笑んだ。 「いらっしゃいマコト君。プロテウス研究所にようこそ。歓迎するわ」 マコトは女を見た。美人だ。ドールも美人だが、それ以上だ。ドールと違って表情があるからだろうか? だがこの顔、どこかで見た事がある。マコトは、彼女の顔を思いだそうとした。 「あ! お前はあの時の巨乳!!」 マコトは叫んだ。 「誰なの?」 茜が聞く。 「前にも話しただろう? ほら、俺が氷村に捕まって車で研究室に運ばれた時、車の中にいた女だ。 あの時は頭がぼんやりしていたんで、顔はおぼろげにしか憶えていないんだが……。 だが間違いない! 見ろ、あの巨乳!! 顔は憶えてなくても、あの巨乳は忘れない!!」 女は胸を抑えた。 「ちょっと! 胸はどうでもいいでしょ!? ――あの時以来ね。お久しぶり」 「なにが久しぶりだ!」 今にもつかみかかろうとするマコトに、女は軽くたしなめた。 「そんなに怖い顔をしないで。私はあなた達を救出した英雄なのよ? もしも私が来なかったら、あなた達はドール達の餌食になっていたんだから。 うそだと思う? だったら彼に聞いてみたら?」 マコトは久保田を見た。久保田は頷いた。 「……」 マコトは構えていた腕を降ろした。 「とにかくそんな所で構えていないで中に入ってきなさい。別にかみついたりはしないから」 マコト達は言われる通り、保安室に入った。保安室のドアが閉まる。 久保田が言った。 「ドールの次は氷村の部下か……。最悪だな。 それにしてもあの一匹狼な氷村が、よく部下なんて付けるになったな。俺達を襲わせたドールだって、氷村が人間をそばに置きたくないから、人間の替わりにドール働かしていた奴らだったんだろう?」 「ええ。ここで働いている人間は、ボスと私しかいないわ。 ドールじゃコンピューターは操れないし、外に出て情報収集も出来ないからね。情報収集と情報処理。それが私の役目ってわけ」 「巨乳、それで俺達をどうするつもりだ? 捕まえに来たんじゃないのか?」 「安心して、わたしはあなた達を傷つけたりしないわ。大切な実験体ですもの、そんな事をしたらボスに叱られちゃうもんね。少なくとも私の方から手を出す事はない。 もちろん、マコト君のお友達も同様よ。せっかく研究所にお越し頂いたお客様なんだから、丁重に扱わないとね」 「だからドールは体を押しつけるだけでなにもしなかったのね?」 「ドールの能力じゃ高度な戦闘はできないというのもあるけどね」 女は久保田の方を向いた。 「それでハッカーごっこは楽しかったかしら?」 「!! じゃあパスワードを知らせたのはお前か!?」 「そ。あなたのマンションにアクセスしたのは私。だって物すごく知りたそうだったから。 まさかとは思うけど、あの程度の腕でこの私が作ったシステムを突破できると本気で思っていたの? あんな稚拙な腕じゃ、百年試したって私のシステムはこえられないわよ。 だから私から答えを教えてあげたの」 「俺達をここにおびき寄せるため……、の間違いじゃないのか?」 「それもあるかもねー」 女は保安室のコンピューターに近づいた。キーボードを叩くと、モニターに文字と図形が浮かんだ。 「よしよし。私が送った通りの手筈で入力した見たいね」 女はわざとらしく思い出したように言った。 「おっと! そう言えばボスがここを見に来るって言っていたから、そろそろ来るんじゃないかなー。 私があなた達を助けたなんてボスにばれたら大変だから、私は消えるわね。 あなた達も、早くここから逃げたほうが良いわよ」 「巨乳、本当に逃がしてくれるのか?」 「好きにすれば? だって、ボスからあなた達を捕まえろって命令は受けていないもの。 ボスはあなた達に興味があるみたいだけど、私はあなた達も、ドールの研究も興味が無いし。ただ、仕事だからやっているだけ。けっこうお給料いいのよ? ここ」 「ずいぶんな部下だな?」 久保田が言った。 「まあね。その替わり、いったん引きうけた命令は確実にやるわよ? 確実にね」 女の顔が一瞬厳しくなった。すぐに笑顔に戻る。 「いいんだな巨乳! 本当に捕まえないんだな?」 「さっきから人の事を牛みたいに巨乳巨乳って! 私の名前は國谷。憶えておきなさい!」 國谷はドアを開けた。歩く途中思い出したように振り向いて言った。 「あ、そうそう。私が助けた事はボスには内緒よ? せっかく助けてあげたんだからだまっててよね?」 「あ、巨乳! 待て!」 「ちなみにマコト君のプロテクトが外れている事はさっきボスに報告したわ。それがお仕事だからね。 ボスはとっても興味を持った見たい。ぜひ解体したいって言っていたわよ」 マコトは國谷を追いかけようとしたが久保田が止めた。國谷は廊下の奥に消えた。 「上原。あの女の言う通りだ。まずここから逃げ出そう。警備は解けたんだ。ここには用はない」 * 保安室に続く通路を白衣を着た氷村が歩いていた。 突然足を止める。マコト達に倒されたドールの腕を氷村の革靴が踏んでいたのだ。表情は変わらないが、瞳がドール達を見下していた。 氷村はあたりを見た。倒されたドールが散らばっている。 「ドールの能力には困った物だ。やはりネオ・レプリカの開発を急がなければ……」 氷村は足に力をこめ、ドールの腕をを踏み越えた。 氷村は保安室の奥に行くと、コンピューターのキーボードを叩いた。モニターに現れたのは、打ちこまれた命令は受けつけられないと言う意味の巨大な赤い文字だった。 「警備システムを突破した上、こんな事まで。 それでこそ私の開発したネオ・レプリカの試作機(プロトタイプ)だ」 氷村は微笑んだ。 つづきを読む |