REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-030 "侵入(Y)" 「嫌。アタシも一緒に戦う」 茜は言った。 「ドールの弱点は分かったんだし、今度は足手まといにはならない。だから……」 「俺はそんなことを言っているんじゃない!」 だが茜と言い争っている時間などなかった。どこからやってきたのか、一人のドールが茜の腕をつかんだ。茜は慌てもせずドールに電撃棒を当てて倒した。その後茜はしゃがむと、床に倒れたドールの首筋に電撃を当ててとどめを刺した。 「マコトがなんと言おうと、アタシはここに残るからね!」 しゃがんだ姿から顔を上げて俺に言った。 茜は昔から頑固な所があって、こうなったら俺の言う事など聞かない。 「分かった……」 * マコトがため息をつくのを見て、茜はマコトが一緒に戦うと思った。怖い顔をしていた茜の顔に笑みが戻る。だがその直後、マコトは茜の考えなかった行動に出た。 「マコト!?」 マコトは走り出すと、ドールの群れに飛び込んで行った。 「人形ども! 俺はここだ! 来い!!」 マコトが叫んだためか、あるいはまず一番近くにいる侵入者を捕まえようと思ったのか、ドール達はマコトに集結した。大量のドールに囲まれているのにマコトの心は穏やかだった。ドールを自分に引き付けておけば、しばらく茜は安全だと思ったからだ。たとえわずかでも、茜には苦しみを与えたなくなかった。 だが、そんな穏やかな心もすぐに消えた。マコトの目に、こちらに向かってやってくる茜が見えたからだ。 茜はマコトに群がるドールのそばに来ると、ドールを掻き分けてマコトに近づこうとした。それを見たマコトも、茜に向かってドールを掻き分けて進んだ。 ドールの中心で二人は出会った。 「バカ。何のために俺が特攻したと思っているんだよ」 マコトは迫るドールを倒しつつ言った。 「だから、あたしも一緒に戦うって言ってんの!」 茜も負けじとドールを倒した。 互いに背中を合わせて、次々とドールを倒して行く。 しばらくしてから、茜がぽつりと言った。 「だって、マコトは誠だから……」 「なんだそりゃ?」 茜はマコトに聞こえないように小さな声で答えた。 「マコトは誠だから。誠のそばにいれるなら、どんな事も怖くない!」 茜は電撃棒を振った。茜の目のすぐ前をドールが倒れ落ちた。 マコトと茜は良く戦った。これだけの数のドールを相手に、たった二人で、いままでの戦いに疲れきった体で、果敢に戦った。だが倒しても倒しても廊下の奥から来る敵に、マコト達はしだいに追い詰められていった。 マコト達はドールの群れの中心に向かって追い詰められていく。ドール達との距離は、腕を振りまわす事も困難なほど短かくなっていた。自然互いに身を寄り添う。マコトは茜をかばうために両腕で茜を包んだ。ドール達は容赦なくマコトを押した。それでもマコトは、ドール達の圧力がかからない様に両腕をふんばり茜をかばった。 「ごめんねマコト、やっぱり足手まといになっちゃったね」 マコトの胸の中で茜は言った。 「そんな事は無い。この数じゃ、結局どうにもならなかった」 「ごめんね。でも最後までマコトと一緒にいたかったから」 「諦めるな! 久保田がいる」 いきなりドールの強い力がマコトを襲った。押しつぶされそうになる。マコトは助けを求めるように保安室を見た。見ると保安室のドアが開き、ドール達が保安室に入って行く所だった。ドール達は次々と保安室の中に入って行く。 (やはり久保田の言っていた事は本当だったんだ) マコトは思った。 (俺を捕まえるための演技だったならば、ドール達が久保田を捕まえる理由がない。 久保田、疑って悪かった。ここから逃げていたら、久保田を裏切り、本当の俺と鈴香を取り戻す事が出来なくなってた。 だが俺ももう限界だ) ついに茜を守っていたマコトの腕にも限界が来た。腕の力が入らない。マコトはそのまま茜を抱きしめた。茜もここまでだと思ったのだろう。茜は目を閉じ、黙ってマコトに抱かれていた。 もう、声さえ出ない。 それでもマコトは、あえぐ様なささやきで、久保田達に届かぬ声を掛けた。 (俺達はここまでだ……。 久保田……鈴香……。 茜を助けてくれ……。 ……頼……む……) * 「マスター!!」 保安室のドアが開き、ドール達がなだれ込んできた事に気がついた鈴香が叫んだ。 「よそ見をするな。打ちこむ事だけに集中するんだ」 久保田は横目でドールを見たあと鈴香に言った。 入って来たドールは久保田達に気が付くと、一心に久保田達に向かって歩き出した。 「上原達がここまで抑えてくれたんだ。無駄にするな」 鈴香は廊下にいるだろうマコト達に向かって叫んだ。扉が開いているとはいえマコト達に声が届くかわからなかったが、鈴香は言わずにはいれなかった。 「上原様! 川本様! あと少しです。あと少しだけ堪えてください」 「ああ。いま打ちこんでいる研究所の警備システムさえ止めれば、ドールは俺達の事を侵入者と認識できなくなる」 久保田も自分に確認するようにつぶやいた。 ドール達は久保田のそばまでやってきた。だが、久保田はドールに一瞥(いちべつ)もせずキーボードを叩き続けた。 「あと少し……。あと少し……」 呪文の様に久保田は繰り返しつぶやいた。 ドール達は腕を伸ばし久保田達を囲い始めた。だが久保田はドール達の体の隙間から腕を伸ばし、キーボードを叩き続けた。 「マスター!!」 鈴香が叫んだ。 「よし!!」 久保田が答えた。 「プログラム始動!」 久保田と鈴香の指が同時に、キーボードの大きなキーに向かって振り下ろされた。 「くっ!?」 久保田の指がキーボードに触れた瞬間、指はキーを押すことなくキーボードから離れて行った。ドール達が久保田の体をキーボードから遠ざけていたのだ。 「このプログラムさえ動き出せば……。あとエンターキーだけなんだ……。指がキーボードに届きさえすれば……」 震える久保田の指。 「あと少し……」 久保田は体をひねって、わずかでもと指を伸ばした。だが久保田の体は、ドール達によってますますキーボードから遠ざかって行った。 ドール達は次々と久保田を抱きしめると、久保田を部屋の中央に向かって引きずった。キーボードが遠くなっていく。 「鈴香!」 久保田の目はもう一人、キーを押せる存在である鈴香を捜した。だが鈴香も同じだった。ドールの隙間から、何メートルも離れてしまったキーボードに向かって必死に腕を伸ばしていた。やがて新しく来たドールに鈴香は囲まれ、伸ばしていた腕さえ見えなくなってしまった。 「鈴香!! 上原!! 川本さん!! 誰でもいい!! そのキーを押してくれ!!」 つづきを読む |