REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-029 ”侵入(X)” 茜は行く手を阻むドール達を電撃棒で倒し、マコトに近づいた。 「どいて! あんた達に構っている余裕なんてないの!」 茜はマコトの所に来た。 マコトに群がっているドール達は、やって来た茜には興味を示さず、ただマコトにを押さえつける事だけに熱中していた。 茜はドールの背中に電撃棒を当てた。ドールが倒れた。他のドール達は仲間が倒れても興味を示さず、ひたすらマコトを囲んでいた。茜は次々とドールを倒して行った。 だが、半分位倒した所で倒れたドールが目を覚ました。茜は身構えたが、起きあがったドールは茜には見向きもせず再びマコトを囲み始めた。 それからはいくらドールを倒しても、倒したドールと入れ替わる様に倒れていたドールが立ちあがりマコトを囲んだ。 「なんなのー!? きりがない!! いいかげんマコトを離しなさいよ!!」 茜は電撃棒を床に置いた。ドールの背後から腕を伸ばしてドールの腰を抱いた。そのままドールを思いっきり引っ張って剥がそうとしたが、体の小さな茜の力では背の高いドールはびくともしなかった。 茜はあきらめてドールから離れた。 「どうすればいいの?」 茜はせめてマコトの顔だけでも見たいと思った。 マコトの顔を見れば、萎えてきた気力が再びみなぎる様な気がした。茜はドール達の回りを走りまわり、あらゆる角度からマコトの顔を捜したが、背の低い茜に見えたのはマコトに群がる大量のドールの後ろ姿だけだった。 茜はため息をつくと、しばらくドール達の背中を見詰めていた。 茜が突然叫んだ。 「そうだ!! 久保田さんが、レプリカの弱点はうなじだって言っていた。だからマコトも鈴香さんも電気を通さないインナーを着ていたっけ。 ドールも、うなじが欠点かもしれない……」 茜は電撃棒を拾うと、ドールの首筋に当てた。 * 俺はドールに囲まれていた。 一人一人のドールは俺に抱きついてくるだけだ。力だって弱い。だがこれだけのドールが一度に向かってくれば話しは別だ。中心にいる俺はドールに押しつぶされそうになる。体が締め付けられて息が出来ない。苦しい。 俺は目を閉じて、茜の事を思い出した。 (くそ、ここまでか? 茜は無事か? 茜……) 気が遠くなっていくのがわかる。 その時だった。 「ぐっ!!」 ドールが叫んだ。目を開けると目の前のドールが白目をむいて体を震わせていた。口を大きく開け、よだれが溢れた。白目を剥いていたドールが俺の胸にもたれかかって来た。気持ち悪さにドールを突き放すと、俺の腕をつかんでいたドールも一緒に床に倒れた。 俺があたりを見渡すと、床を敷き詰めるようにドールが倒れていた。 その向こうに肩で荒い息をしている茜が立っていた。顔を真っ赤にして、荒く息をしていた。怖い顔で、床に倒れたドールを睨みつけている。 「茜……」 俺が声をかけると、茜は俺のほうを向いた。緊張しきった顔が笑顔に変わる。 「マコト! 無事だったのね!?」 「ああ。これ、お前が倒したのか?」 「うん」 茜は頷いた。いったいどうやって? と聞こうとした時、残っていたドールが茜の腕をつかんだ。茜はドールの方を向くと、ドールの首筋に電撃棒を当てた。うなじから煙が出た。機械が焼ける臭いがした。ドールは白目をむいて震えたと思うと、膝を折って崩れ落ちた。 「朝、久保田さんのマンションで、レプリカの弱点はうなじだって言っていたでしょう? それでドールの弱点もここかなと思って……」 俺は改めて床に転がっているドール達を見た。どいつも首から煙を出して震えている。こいつらがもう動かない事は、機械に弱い俺にだって分かる。 その後、生き残ったドールが襲って来たが、わずかな数だったので倒した。ここにいるドールはすべて倒した。が、警報が鳴っている以上すぐに新しいドールが来るだろう。 俺は廊下を見た。廊下は物音も影もなく、しずけさを保っていた。ドールが来る気配はまったくなかった。 (今ならば廊下を通ってここから抜け出せる) 俺は廊下を見ながら、そんな事を思っていた。 弱気になったのには理由があった。さっき囲まれた時潰されないように堪えていたため、すっかり体力を使いきってしまった。今度また何十人ものドールたちが襲って来たら、今度は勝てる自信がない。茜だって今回は勝てたが、次にまた勝てる保証など無い。俺達は囲まれて終わりだろう。 しばらくすればまたドール達が襲ってくる事は間違いない。だが、このまま久保田達を残し、茜を連れてこの場所から逃げ出せば俺達は助かる。それにはドールがいない今がチャンスだ。 久保田は本当に解除しているのだろうか? これが久保田の罠だとしたから、ここで保安室を守っている理由は無い。 玄関までの道は覚えている。一気に研究所から抜けられるとも思えないが、袋小路のこの場所より戦いやすい場所はいくらでもあるはずだ。 それに、今までのように一匹残らず倒さなければならないわけではない。ドールにであっても突破すればいいだけだ。電撃棒を武器にすれば、ドールを突破する事くらい何とかなるだろう。奴らは足が遅いから追い着かれる事はない。後はただひたすら出口に向かうだけだ。 だが、もしも久保田の言う事が本当だとしたら、 茜の願いである、本物の俺を助け出すチャンスも失う事になる。それに、今度は俺が久保田を裏切る事になるのだ。 ……。 何を迷っているんだ。茜を守る事が最優先だ。研究所から抜け出せば茜は助かる。久保田だって俺を裏切ったんだ。これでお互い様だ。 それに久保田の言う事が本当だとしたら、ドールは保安室を目指すだろう。俺達は残りのドールだけを相手にすればいい事になる。 茜は逃げ出すのを嫌がるだろうか? いや、むりやりにでも連れて行く。 久保田は俺を恨むだろうか。だが茜の身を守るのが一番大切だ。茜のためならば、俺はどんなに恨まれてもいい。 (逃げ出そう。茜のためだ) そう決心した俺は、茜にここを捨てて逃げ出そうと言おうとした。 その時、俺は気が付いた。 (久保田、お前もそうだったのか!? 今の俺みたいに、大切な鈴香さんを助けたい一心だった。それで俺を騙した) 今の俺には久保田の気持ちが痛いほどわかった。 (久保田がドールの献体を集める時、こんな気持ちだったのか?) 純粋に愛する者を守りたかった。 そうなのか? 久保田は今も自分の彼女……本物の鈴香を賭けて、コンピューターを相手に今も戦っているんだ。俺がこうして体を休めている間も、久保田は休む事なく戦いつづけている。 大切な者を守るために戦っているのは、俺だけじゃなかった。 俺は、久保田を信じる事にした。 「茜!」 俺は茜に、久保田達を置いて逃げ出す事を考えていた事を正直に話した。 「だが俺は間違っていた。もう迷わない!」 茜が笑顔で頷いてくれた。 俺も茜に笑顔を返した。 だが、ふと物音に廊下の奥を見た茜の笑顔が急に固まった。俺も茜の向いていた方を見る。 廊下の奥にドール達がいた。 さっきの倍、いや三倍はいるだろう。広い廊下が狭く感じる。弱点が分かったとはいえ、数が多すぎる。 今まで戦って来た経験から、いや、本能が恐怖と言う言葉を使って、俺に絶対に勝てないと訴えていた。だが俺は、その言葉を気力で押さえつけた。 いいだろう。勝てないのならば、せいぜい一秒でも多く足止めしてやる。久保田達が警備を止める時間を稼いでやる。 俺は久保田達のいる保安室のドアを見て、つぶやいた。 「茜の事は頼んだぞ、久保田。鈴香」 俺は茜を見た。 「茜、ドアの鍵の番号は憶えているか?」 「久保田さんが開けた時に見ていたけど……」 「よし。茜は保安室に入ってろ」 「でも、マコト一人で……あんなに沢山いるのに」 「……茜、よく聞いてくれ。 俺はドールと戦う。 だが、あの数だ。 もしも……、もしもだ。俺が倒れて保安室にドールが入って来てお前を襲ったとしても、しばらく我慢してくれ。きっと久保田が助けてくれる。それまでの辛抱だ」 俺は向かってくるドール達を見た。ゆっくりとこちらに向かってくる。 「行け!!」 俺は電撃棒を構えた。狙うはドールの首筋だ。 だが、なかなか保安室のドアが開く音がしない。何か不都合があったのかとドールから視線を外すと、俺の隣で茜が電撃棒を構えていた。 「茜!? なにしているんだ、早く保安室に入れ!!」 茜は俺のほうを向かず、ドールを睨み続けながら言った。 「嫌。アタシも一緒に戦う」 つづきを読む |