REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-028 ”侵入(W)” 廊下の奥に新たなドールが見えた。どいつも俺を見詰めながら歩いて来る。 足元に倒れていた三人のドールも動き出した。その一人が俺の足をつかむと這い上がろうとする。蹴り飛ばす。 右から腕が伸びてくる。俺はその腕を電撃棒で払い、拳で腹を殴りつけた。 「後ろ!」 保安室の茜の声に、俺は両手を床につけて足を後ろに蹴った。 三人組のドールは倒した。だが休む間もなく十数人の新しいドールが襲ってきた。 次々と俺に伸びる腕を電撃棒で払う。 胸を掴んで壁に向かって叩きつける。 俺は群がってくるドール達を倒し続けた。 「ふー」 戦いの合間に俺は大きく息を吐いた。息が上がっているのがわかる。 ドールは弱い。攻撃と言える攻撃も無く、ただひたすら腕を伸ばしては抱き付いて来るだけだ。だが戦って見て、これだけの数の相手を一人でする事の不利を知る事になった。絶え間なく襲って来るドール達。俺は休む間もなく常に戦っていなければならない。しだいに肩で息をする様になる。身体(からだ)が酸素を求めて息が上がる。 疲れが俺を油断させた。 「ドールが保安室に入って来る!」 茜の声に保安室を見ると、一人のドールが保安室のドアの鍵番号を入れていた。何人かのドールはドアに前に立ち、ドアが開くのを待ちわびている。 俺は鍵に近づこうとした。だが、亡者のようにドールが俺の体にまとわりついて思うように歩けない。 茜の様子が見たかったが、窓からは茜の顔は見えなかった。部屋の奥に隠れたのだろう。 電子音が鳴って保安室のドアが開いた。 ドアが開くのと同時に、保安室の奥から茜が走って来た。ドアの前に集まっていたドール達は、飛び出してきた茜に体当たりを喰らい蹴散らされる。 「なんで出てきたんだ!?」 保安室のドアが閉まる。 「……ドールを中に入れさせないために出てきたのか?」 茜はドールに体当たりした後、勢いあまって床に転がった。 身体を丸めていた茜は、立ちあがるどころか電撃棒を構える間もなくドール達に囲まれた。ドール達は床に倒れている茜に次々と圧(の)しかかっていく。 重なり合い山の様になったドール。その底から茜の声がした。 「ううう……。誠……」 俺は抱き付いて来るドールを振りきった。 「茜を放せ!!」 茜の捕まっている山に近づいた時には、茜の声が聞こえなくなっていた。 「茜! 返事をしろ!!」 俺は電撃棒の電源を入れた。 武器を持たない相手に武器を使いたくなかったが、このままでは茜が危ない。それに奴らは茜一人に大勢で襲っているんだ。卑怯者に遠慮はいらない。 俺は茜にまとわり付いているドールに電撃棒を当てた。電撃が肉を通りぬける音と同時に、ドールはわずかに体を振るわせて気絶した。 俺は電撃棒を当てては気絶させ、ドールの山から剥がしては放り投げた。時々、背後からも来るドールに電撃を食らわせながら、 * 気が付くとアタシに乗っていたドール達はいなくなっていた。その替わり誠の顔が目の前にあった。 (誠!? 誠なの!? やっぱり来てくれんだ……。 よかった。ずっと会いたかったんだよ……) 「怪我はないか?」 え!? 女の人の声? ……そうか。レプリカのマコトか。そうだよね。こんな所に誠がいるわけないもんね……。 『茜を放せ!』 ドールの底で気が遠くなって行く時に聞いた、マコトの声が耳に蘇えった。 あたりを見る。すべてのドールは床に倒れうめき声を上げている。 レプリカのマコトに、人間の誠の姿が重なる。レプリカのマコトは、たった一人でアタシの為に戦ってくれたんだ。 アタシがピンチの時、必ず助けてくれた誠。 同じだ。誠と。 マコトは女の子だけど、誠のレプリカだけど……。 でもやっぱり誠なんだ……。 「立てるか?」 マコトがアタシの手をつかんだ。暖かい手の感触。顔が赤くなるのがわかる。 アタシはマコトにひっぱられて立ちあがる。 なにこんな時に赤くなっているんだろう? 心臓がドキドキ言う。バカ、おちついてよ!! 相手はレプリカなのに。本物の誠じゃないのに。 * 俺は茜を立ちあがらせた。茜が無事な事を確認してから、ドール達に向かって振りかえった。 ドール達も動き始めていた。目の前に迫って来る。 俺は電撃棒を振り回した。 人間ならば電撃棒が近づけば、電撃の痛みを思いだして動きが鈍ったり防御をするだろう。だが奴らは、怯(ひる)むそぶりさえ見せなかった。 廊下の奥には、警報を聞きつけた新しいドールが来た。久保田、警備の解除はまだか? 俺は茜に言った。 「本当に久保田は警報を解除してるいるとおもうか? これがすべて、久保田の罠だとしたらどうする? 俺と茜を研究所の袋小路にある保安室に連れて来た後、警報を発してドール達を呼んだとは考えられないか?」 「そんなわけないじゃない!」 「じゃあお前は、ここに来るまでの事を変だと思ってないのか?」 「それは……」 茜は黙った。 俺は保安室の窓を見た。ここからではコンピューターのある場所は見えなかった。 「久保田!」 俺は叫んだが、返事はなかった。 「でもアタシは、久保田さんを信じる」 「久保田は改心した。だからか? だが今も、本物の鈴香さんを助けたい一心で俺をだまし続けているのかもしれないんだぞ? ……くそっ! 話しは後だ!」 警報で集まった新しいドールが俺の元に来た。 俺の腕をつかんだドールの手を払う。電撃を食らわせる。 俺は電撃棒で戦った。だが、電撃を食らわせてもしばらくするとドールは立ちあがってくる。増援が加わったため、倒しても倒しても、倒れた奴に替わって別な奴が起きあがって俺を襲うようになった。 俺の背中にいる茜も電撃棒を持って戦っているが、大した戦力にはならなかった。むしろ茜を守るために俺の動きが制限された。 俺達は保安室のドアの前に追い詰められてしまった。 背後には保安室がある。ドアを開ければ茜を安全な保安室の中に入れられる。俺も自由に動く事が出来る。だが絶え間なくおそってくるドール達を前に、そんな余裕はなかった。ドアを開ければドールが保安室ってしまう事は間違いない。 * マコトの背中を見る。疲れているのが後ろ姿からでもわかる。 アタシが足手まといになっている事もわかる。アタシがいなければ、マコトは自由に戦えただろう。 ドールは増える一方だった。 ドールの手がマコトの腕をつかんだ。それが始まりだった。別なドールがマコトのもう一つの腕をつかむ。両腕をつかまれたマコトはうごけなくなり、一気に囲まれて見えなくなってしまった。 アタシはマコトを助けようとしたけど、アタシも自分に向かってくるドールを倒すので精一杯だった。 マコトが見えなくなっても、ドール達はたすらマコトを目指して集まっていく。マコトを軸に膨らんで行くドール達。 マコトをたすけなきゃ。それは分かっている。でもどうやって? これだけの数のドールを、アタシ一人で倒せる訳がない! ……でも。マコトを助けられるのはアタシしかいない。 そうだ、アタシが助けなきゃ!! 体は女の子だけど……レプリカかもしれないけど……、誠なんだから!! 助けなきゃ!! つづきを読む |