REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-024 ”準備” 「マコト様、お時間ですが……」 ノックが響いた。鈴香の声だ。俺を迎えに来たのだろう。 「川本様も、おいでになさってます」 「わ、わかってる! すぐに行くから!」 鈴香はドア越しに了解した事を述べる。 足音が遠ざかって行くのに合わせて、俺の気分も落ちついてくる。鈴香がドアを開けなくて良かった。 メンテナンスカプセルで目覚めてからすいぶん時間がたつ。それなのに俺は、部屋を出る事が出来なかった。久保田達のいるコンピューターのある部屋に行けば、鈴香と顔を合わせる事になる。鈴香とは昨日あんな事をした後だ、どんな顔をして鈴香に会えばいいのかわからない。 だが茜が来たからには、これ以上は遅れる事は出来ない。しかたなく俺は廊下に出た。久保田達のいる部屋に向かう。俺の隣の部屋は鈴香のメンテナンスルームだ。鈴香の部屋を見たとたん、鈴香の顔が頭に浮かぶ。昨日のメンテナンスを思い出して、体が熱くなる。 (今日は研究所に行くんだ。こんな事では……) 頭ではそう思っても、体は勝手に熱くなっていく。 俺は久保田達のいるの部屋の前に立った。 このドアを開ければ鈴香がいる。久保田も昨日の事を察しているに違いない。もしかしたら壁越しに、昨日の声が久保田の耳まで届いているかもしれなかった。 音を立てないようにドアを開ける。中の様子をうかがう。 コンピューターのモニターを見ているのだろう、久保田と茜は背中を向けていた。 「マコト様、おはようございます」 鈴香がキッチンから出てきた。 「え!? あ……。おはよう……」 鈴香と視線が合う。 俺は慌てて目をそらす。 顔がほてって行くのが自分でもわかる。 鈴香の声に茜達が振り返った。 「マコト、おそーい」 「来たか。これで全員そろったな」 久保田は徹夜だったのだろうか? 寝不足と言った顔をしている。 「早くこっちに来て! みんな待っていたんだから」 茜は俺の手をとってコンピューターの前まで引っ張った。 引っ張られて態勢をくずした拍子に、鈴香の姿が目に入った。また鈴香と目が合ったらどうしたらいいのか。 だが俺の心配をよそに、鈴香は一心に久保田の事を見詰めていた。 俺の視線に気が付いたのだろう。鈴香は久保田から視線を外すと俺の方に向いて微笑んだ。だがその視線はさっきまで久保田に向けていた物とは違う物だった。あの視線は、久保田だけに向けられる物なのだろう。鈴香にとって特別な人は久保田だけなんだ。昨日俺とした事は、深い思い入れなどない。ただメンテナンスの手伝いとしてやっただけなんだ。 鈴香に久保田がいる様に、俺には茜がいる。 俺は茜の顔を見た。鈴香が久保田にしていた視線を真似して、俺は茜を見詰めた。茜は不思議そうな顔をして見返して来た。 俺のやりかたが下手なのか、それとも茜が鈍感なのか、俺の気持ちは茜に伝わっていない様だ。 だが茜の顔を見ていると、俺の気持ちが落ち着いていくのがわかる。 今日は研究所に行くんだ。茜の為に。 俺は気を引き締めた。 さっき久保田達が見ていたモニターを見る。地図が映し出されていた。 久保田が気が付いて言った。 「これは研究所周辺の地図だ。 プロテウスにあった資料から察するに、どうやらこの建物がプロテウスの研究所らしい。 この辺り一帯は、昔は工業地帯として栄えたらしいが、今では廃工場になっている」 「プロテウスって最近出来た会社なんだろう? なんでそんな辺ぴな所に研究所を建てたんだ?」 「さあな。 この住所だって、ハッキングをした例のプロテウスの資料から拾った物だ。 本当にここになのか、あるいは俺達をおびき出す罠なのか、それさえも分からん」 「そんなの、行けばわかるわよ」 「……そうだな。川本さんのの言うとおりだ。ここで悩んだ所で仕方がない。 ――さて、マコトも来た事だし説明を始めるぞ。 まずこれが研究所の内部の見取り図だが……」 その後、久保田はいくつかの資料をモニターに映し出して説明をしていった。 * 一通りの説明が終わった後、久保田は立ち上がると、俺と茜に長い棒の様な物を渡した。 「これを渡しておこうと思う」 手に持つと、重みが伝わる。 「この日の為に用意した電撃棒だ。スタンガンを改造した」 「スタンガンって、痴漢とかの撃退用の奴ね」 「そうだ。電源のスイッチはそこにある。だが、戦闘の時までは入れるなよ? 危険だからな。 川本さんの言う痴漢避けの物とは威力が違う。これはヒグマ撃退用の物を改造した」 「ヒグマ用か……。じゃあ人間に使ったら?」 「十分実用に耐えると思う」 久保田はさらに言った。 「それから……、上原にはこれも渡しておく」 久保田から、おとぎ話で魔女がかぶる帽子の様な物を渡された。黒くて先がとんがっていて、つばがやたら広い、あの帽子だ。ただしこれは、とんがった先は切れてなくなっている。 試しにかぶって見る。 「それは帽子じゃない。首に巻くインナーだ。ゴムで出来ているから電気を通さない。 レプリカの急所は首の後ろの部分にある。万一電撃棒を取られてそこに電流を当てられたら終わりだ。そこで……」 「これを付けて、首を隠すのね?」 茜が言った。 「そう言うことだ」 * マコトと鈴香は、ゴム性のインナーを着こむと久保田の部屋に戻って来た。 「準備は整ったか? よし、こ研究所に向かうぞ!」 「待て久保田! 服はどうなっている?」 マコトが言った。 「服?」 「俺の服だよ!! これってメイドの服だぞ!」 「そうだ、ハウスドレスだ。何か問題があるのか? その服は丈夫な布を使っているし、実用性と機能性に優れていて……」 「そうじゃなくて! まさかこのかっこうで、研究所に行かせるつもりだったのか!? 鈴香だって、嫌だよな?」 「私はかまいませんが?」 「う……。まあ鈴香はいいとしても、俺はどうなる? 女装して外なんか出れるか! しかもメイドのかっこうでなんて!!」 「ああ、そう言う事か……。 ならばお前のメンテナンスルームに置いてあるダンボール箱を開いて見ろ。そこにお前の着ていた服が入っている。 お前のアパートにあった物は、すべて入れてあるからな」 「本当か!」 マコトは慌てて自分の部屋に行った。 「あっ、でもマコトは女の子なんだから……。行っちゃった」 茜達がマコトの部屋に向かうと、衣服が床に撒き散らかれていた。部屋の真ん中には、ダブダブの服を男物の服を着たマコトが、情けなさそうに立っている。 ダブダブのスボンを、ベルトでむりやり縛って穿いている所がなんとも惨めだ。 「だから言おうとしたのに……。 あのねぇ? 男の人と女の人では体の形が違うんだから」 「茜! だいたい、女のお前がパンツで、もとは男だった俺がスカートなんだよ!」 「はいはい。アタシの服でよければ着なさいよ。 実はね。アタシのお古をもってきたの。マコトも色んな服が着たいだろうなと思って。 それを言おうとしたのに、マコトったらは走り出しちゃって……」 「本当か!? なんでもいい。どんな服だって、このメイドの服よりはましだ」 マコトは茜が取り出した服を奪い取った。 「着替えるから、みんな部屋から出てくれ。着替えたら久保田の部屋に行く」 久保田達は、コンピューターのある部屋に戻った。 しばらくして、部屋のドアが乱暴に開いた。 「あーかーねー!!」 部屋に入って来たのは、体育着のブルマー姿のマコトだった。しかも、茜の服は小さいため、マコトが着るとピチピチになっている。 上半身はマコトの大きな胸が窮屈そうにしているし、丈が短いためお腹が出ていた。さらにブルマーも小さくて、股に食い込んでいた。 「なんでブルマーなんだよ!?」 「だから、マコトもせっかく女の子になったんだから、そういうのを着て見たいだろうなと思って……。 でも、ちょっと小さかったかもしれないわね」 「……」 「あ、体育着は好きじゃない? まだいっぱいあるよ。セーラー服だってあるし……」 「お前、俺で遊んでいるだろう? わかった。もういい。服はあきらめる……」 マコトはメイドの服に着替えて来た。 「上原すまん。洋服まで気が回らなかった。 その服が嫌ならば、研究所に行く途中で新しい服を買うか?」 「いや、もういい。あきらめた。この服でいい。 服なんか買いに行ったら、間違いなく茜の着せ替え人形にされる。 これ以上茜に振り回されたら、残っている気力までなくなりそうだ」 「でもそのメイドさんの服、すごく似合っているわよ」 「うるさい! さっさと研究所に行くぞ!!」 こうしてマコト達は研究所に向かった。 つづきを読む |