REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-023 ”それぞれの夜”

 茜の部屋。
 茜はベッドに入ったものの、なかなか寝つけなかった。
(明日は研究所に行くんだから早く寝ないと)
 そう考えれば考えるほど、目は冴える一方だった。
「ふぅ……」
 彼女はベッドから立ちあがると、明かりのない部屋の窓際に立った。カーテンを引く。夜空が広がった。
 茜は窓際に座って星を見あげた。
「一つ……。二つ……」
 茜は夜空に指を伸ばすと、星を数え始めた。
(今日は、本当にいろいろな事があった)
 茜は目を閉じると、今日あった出来事を思い出した。
(鈴香さんに会った。久保田さんにも会った。一番驚いたのは、久しぶりに会った誠が、女の子になっていた事だった。
 ううん。あのマコトは誠じゃない。あの日から誠とは会っていない。久保田さんの話では、本物の誠は今も研究所に幽閉されているらしい。
 不思議な感じがする。あのマコトは誠じゃないのに、誠に会った気がする。もしマコトが男の子の体のままで、プロテクトもはずれたままで会っていたら、アタシは本物の誠と区別がついただろうか?
 わからない。それを確かめるためにも、誠に会いたい……。
 とにかく、明日、本物の誠に会えるんだ)
「あ!」
 茜は星を数えていた事を思い出して目を開いた。
「えっと、何個まで数えたっけ?
 いいや。一つ……二つ……」
 誠と暮らした故郷とは違い、ここでは数えられるほど星が少ない。でも故郷で見た星もここで見る星も、同じ星なんだ。
「六つ……、七つ……あ、流れ星!」
 茜は慌てて目を閉じると手を合わせて、研究所にいると言う誠の無事を祈った。


 *

「マスター、マコト様のメンテナンスが完了しました」
 久保田のマンション。マコトが眠った事を確認した鈴香が、ドアを開けて入って来た。
「ああ。ごくろう」
 久保田はあいかわらずコンピューターと向き合っている。
 鈴香は久保田を見た。
 明日は研究所に向かう。ついにマスターの努力が報われる時が来たんだ。
 マスターも明日からは、コンピューターとにらめっこしなくてもよくなる。もっとも、マスターはコンピューターと向き合うのが趣味みたいな人だから、いままでと変わらないだろうけど。
 鈴香がそんなことを思っていると、久保田が突然手を止め鈴香に振り向いた。
「鈴香、写真でも撮るか?」
「え?」
「その……。お前、誠のアルバムを見てうらやましがっていただろう?
 だから……」
 久保田は立ちあがると、テーブルに向かった。
 鈴香がマコトのメンテナンスを手伝っていた間に出したのだろう。テーブルにはデジタルカメラが置いてあった。
「でも、私、服装も乱れてしますし、髪も……」
「普段の鈴香を撮りたいんだ」
 久保田は鈴香にカメラを向けた。カメラで顔を隠しながら、久保田は言った。
「明日、俺達は研究所に行く。研究所では何が起こるかわからない。……当然万一と言う事もありうる。だから、お前の姿を残しておきたいんだ」
「私の写真……。
 あの……マスター」
 鈴香は言った。
「その……いっしょに写ってくださいませんか?」
 久保田は頷くと、テーブルの上に本を載せて即席の三脚にした。
 久保田は鈴香の隣に並んだ。
 デジタルカメラのセルフタイマーがシャッターを押した。
 久保田は、プリンターで写真を印刷した。
 写真を鈴香に渡した。
「ありがとうございます!」
 鈴香は無邪気な笑顔を浮かべながら、写真を一心に眺めいた。
「戻ってきたら、また撮ってやる。
 だから、鈴香、絶対に戻ってこような。
 ――そうだ。俺達は必ずここに戻ってくる」
 久保田は自分に言い聞かせる様に、小さくつぶやいた。

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