REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-019 ”謎のパスワード(U)”

 久保田の肩越しに、俺はコンピューターのモニターを見た。無数の文字が浮かんでは流れて消えていく。
 流れが止まると、久保田は先ほどのパスワードを入れる。また流れ出す。
 突然キーボードを叩く久保田の指が止まった。久保田は振り向くと鈴香に頷いた。
「マスター、ついに……」
「ああ。プロテウスに入れたな」
「本当か? 早く場所を調べて研究所に行こう!」
「落ちつけ上原。
 確かにこれだけの情報があれば、研究所の場所は割り出せる。それどころか、研究所内部の設備の情報まで書いてある。これは助かる。
 だがなぜ相手は、わざわざ逆探知までして俺達にパスワードを教えて来たんだ? 不審じゃないか?」
「考えられる線はふたつ、プロテウス内部に反乱者がいてリークしている。あるいは、プロテウスの罠……よね」
 茜の言葉に、久保田は頷いた。
「だが、罠だとしても、行くしかないんだろ!?
 その為に俺達はがんばってきたんだ」
「落ちつけと言っているたろう。
 それじゃあ聞くが、今から研究所まで行ったとして、それからどうするんだ?
 本体を取り返しに来たと知れば、氷村も黙ってはいない。
 十分な準備が必要だ」
「そんな事はわかっている!
 だから準備を済ませて、一刻も早く研究所に行こうぜ!」
「上原……。今すぐ行きたい気持ちは、俺もお前と同じだ。
 今までの俺は、奪われたものはあきらめて、その代わり少しでも被害が増えないように、と考えてきた。
 だが、お前を見ていて……本体の方じゃないネオ・レプリカのお前を見ていて、考えが変わった」
 久保田は俺を見た。
「あの日以来、俺は鈴香に……本物の鈴香に会っていない。おそらく、氷村は会わすつもりもないんだろう。
 氷村にとって、鈴香はレプリカの材料に過ぎない。俺はレプリカの材料を集める手足に過ぎない。俺達の気持ちなど、なにも考えていない。
 このまま永久に、鈴香と会う事もなく、俺は氷村の手先として働く。
 なにも知らない鈴香は、気を失ったまま永久にレプリカの材料にされていく。
 そんな人生は嫌になった。
 鈴香は俺の物だ。俺の人生は俺の物だ。
 鈴香が死ぬとしても、それが生命と言う物だ。
 だが俺は逆らって、鈴香を生かし続けようとした。
 その結果がこれだ。
 俺は上原を見て思った。
 奪われたものは、取り返す。
 俺の人生も、鈴香の体も、俺の自由も、すべてを取り返して見せる!」
 そこまで言った後、久保田は自分を落ち着かせる様に深く息を吐いた。
「――その為には、十分な準備が必要なんだ。
 今日は休んだほうが良い。今日はいろいろあってみんな疲れているからな。プロテウスの研究所に入ったら、ろくに休憩も取れないだろう。
 研究所の事は俺に任せろ。朝までに必ず調べ上げておく」
「あ……ああ。わかった」
 俺は言った。
 ここまで多弁な久保田を初めて見た。鈴香も驚いた表情で久保田を見ている。
 でも同時に、久保田も俺と同じ被害者だと言う茜の言葉が分かった気がした。
 俺は久保田の事は許したつもりだった。だが心のどこかで「研究所に入るためにしかたない」「茜が言うからしかたない」と思っていたのも確かだった。
 いつも冷静なそぶりをしている久保田だが、心の中では、俺と同じ様に辛さと戦ってるのかもしれない。
 そう思うと、初めて本気で久保田を許せた気がした。
「そういう訳だ。後は俺と鈴香に任せてくれ」
「ふー。やっぱり侵入しないとだめなのね……。
 マコト、アタシ達は今日はもう寝て、明日に備えましょ」
「アタシ達って……、茜も来るのか?」
「あたりまえでしょ?」
 行く気マンマンの茜を見て、俺はため息をついた。
「どうせ俺が止めても、勝手について来るんだろうな……。
 久保田、茜を連れていって良いか?」
「安全の保証は出来ない。それでもいいのか?」
 茜は急にまじめな表情になると、久保田の方に向き直って頷いた。
「分かった。
 川本さん、明日の朝……そうだな、午前八時頃にまた来てくれないか?」
 茜は頷くと、帰っていった。
「さて……。上原はメンテナンスだ。
 鈴香、上原のメンテナンスをを手伝ってやってくれ」
「メンテナンス?」
 俺は鈴香が使っていたメンテナンス・カプセルを思い出した。
「あのカプセルを使うのか」
「お前はレプリカなんだ。レプリカはメンテナンスしないとならない。
 プロテウス研究所に入ったら、次にいつメンテナンス出きるかわからないんだぞ?
 ドールにはメンテナンスが必須だと、前にも話したはずだ。
 心配するな、鈴香が手伝ってやる」
「はい、お任せ下さい」
 鈴香は俺に向かってほほえんだ。
「それではマコト様、参りましょうか?」

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