REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-018 ”謎のパスワード(T)

 紅茶の入ったカップを、鈴香がテーブルの上に並べていく。殺風景な久保田の部屋に、暖かい香りがただよう。
「それで……、プロテウスの研究所の事はまったくわからないのだな、上原」
 久保田はため息をついた。
「薬で眠らされていたんだ、仕方ないだろ。
 だいたい睡眠薬を盛ったのは久保田だろ! お前のせいで俺は……」
「マコト。久保田さんの事は許したはずでしょう?」
「わかっている。――とにかく、何も知らないんだ」
「これだけ苦労したのに、手掛かり一つないなんて。
 鈴香さんも苦労したのにねぇ?」
 茜は、紅茶を配りおえて久保田の後ろに控えて立っている鈴香に言った。
「私は苦労なんて……」
「マコトはいつも役立たずなんだから」
「役立たずで悪かったな! 俺が憶えているのなんてあの巨乳……。い、いや、なんでもない……」
「なによ? 憶えている事があるなら話しなさいよ!」
「いや……ああ。実は研究所に向かう車の中で、薬が切れて目が醒めたんだ」
「何!? なぜそれを早く言わなかった! 窓からなにか見えなかったか? 標識とか、地名とか……研究所の場所がわかる手掛かりならば、なんでもいい」
「電車の音や川の音とか……」
 マコトは首を振った。
「ヒントになりそうな物があれば、もう言っている。
 薬の為か頭がぼーっとしていたし、車の中は不自然なほど静かだった。
 それに、車の窓はカーテンで遮られていた」
 マコトは茜をチラリと見た。
「……それで、車の中の事だが……。
 俺は後ろの席に乗せられていたんだが、隣に女性がいた」
「女の人? マコトの他にも拉致された人がいたの?」
「氷村の仲間だ。
 すっごい美人だった……そして、あの大きな胸!!」
「氷村に仲間……。上原、その女性の事を詳しく話してくれないか?」
「ああ! とにかくデカい胸をした人だった。今思い出しても、いいなぁ。あの胸!!
 美人だけどちょっと童顔で、なにより胸がデカくて……。まさに俺好みの……」
「胸の話はいいから!」
「わ、わかった! まじめに話す。だからそんなに睨むな……」
「まったく、マコトは胸の大きな人の話となるとこれだから……」
 マコトは車の中での事を話し始めた。

               §

「ここは!?」
「あら? 起きちゃったの?」
 俺が気がつくと、目の前に女性がいた。
「目を覚ましたのか?」
 どこからともなく声がした。この声は……、プロテウスの社長の声だ!
 ぼんやりしていた頭が、一度にはっきりする。
 俺は周りを見渡した。ここは車の中らしい。
 そうだ。俺は久保田に騙されて、ドールの材料にされる為に捕まったんだ。この車で俺をプロテウスの研究所まで運ぶつもりらしい。
 車の窓はカーテンで遮られて外は見れないようになっていた。
 運転席もカーテンがかかっていて見れないが、さっきの声から察するに社長が運転しているのだろう。
「助けてくれ!!」
 俺は車のカーテンを開けて、助けを求めようとした。
 その時、後ろから腕をつかまれたと思うと、激痛が走った。隣にいた女が、俺の腕をひねり上げたのだ。
「困った子ね。もうしばらく大人しくしていてくれる?」
 女は俺の袖をまくった。腕に鋭い痛みが走る。注射だと思った時には、俺の意識は遠のいていった。

               §

 俺が憶えているのはこれですべてだ。
「氷村に仲間がいたとはな……。
 しかし、その女も余計なことをしてくれた物だ。せっかくの研究所の場所のヒントを――、ん? 鈴香、どうした?」
 鈴香がコンピューターに向かって、引き付けられる様に歩き出した。コンピューターの前で立ち止まると、黙ってモニターを見ている
「鈴香はどうしたんだ?」
 マコトが言う。
「さっきプロテウスに侵入しようとして、逆にハッキングされたんだ。それが気になるのだろう」
「それって大変じゃないのか? 俺はコンピューターの事ってよくわからないが」
「このコンピューターはプロテウスに侵入し情報を入手するための物だった。マコトのプロテクトが外し方も探していた。
 だが、今となってはどうでも良い事だ。
 プロテウスには侵入できなかったし、マコトのプロテクトは外れたんだからな」
 その時、鈴香が叫んだ。
「これは! やっぱり! マスター、来てください!! 早く!!」
「どうした?
 ――これは……!!」
 久保田も鈴香も、コンピューターのモニターを見つめて黙っている。
「なんだなんだ?」
 マコトもモニターを見た。でたらめなアルファベットが並んでいるだけだった。
「マスター……」
「ああ。文字数は合っているな……」
「なんだよ、俺達にも説明してくれよ」
「おそらく、プロテウスのサーバーのパスワードだ」
「プロテウスのコンピューターに侵入できる暗号です」
「前から久保田がコンピューターの前に座って捜していた奴だな。でもどうしてそれが、ここに書かれているんだ?」
「わからん。
 プロテウスから俺のワークステーションに逆ハッキングをして来た奴が書き残していったんだが……」
「向こうからわざわざパスワードを教えてきたのか? どうして?」
「……。
 とにかく、試してみよう」
 久保田は表示されたパスワードを使って、プロテウスにアクセスを試みた。

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