REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-013 ”解除(V)”

 命令がなかったため、マコトは自分の部屋で待機しているはずだと鈴香は言った。
 鈴香の案内で、茜はマコトの部屋に向かった。
「こちらです」
 鈴香がマコトの部屋のドアを開ける。
 茜が中をのぞくと、部屋は真っ暗だった。
「寝ているのかな?」
「いいえ、ドールがマスターに報告をせずに寝る事はありません」
「そうなの?
 マコト〜、いるの?」
 茜は真っ暗な部屋の中に入っていった。
 部屋が急に明るくなる。
 振り向くと、鈴香が壁にある電灯のスイッチを押していた。
 ふたたび前を向くと、マコトが部屋の片隅に座っていた。
「マコト? 明りもつけずに何しているの」
「必要のないエネルギー消費を極力抑えるために、待機をしております」
 茜は窓を捜した。まだ夕方だ。窓を開ければ太陽の光がさしこむはずだ。
 だが窓は、メンテナンス・システムでふさがれていた。
「酷い! 明りもない、窓も開かない部屋に閉じこめるなんて。
 どうしてこんな扱いをするの? いくらドールだからって……」
「それは違う」
 茜が振り向くと、久保田が立っていた。
「ドールにとってマスターの役に立つ事。それが最優先事項だ。
 茜さんには残酷に見えるかもしれないが、ドールにとっては、これが一番自然なんだ」
「マスター?
 マスターも私のやり方を支持してくださっていたのですね?」
「勘違いするな。
 俺は単に、お前達の様子を見に来ただけだ」
 茜はマコトに近づいた。手を差し出す。
「可愛そうなマコト。今あたしが、プロテクトを外してあげるから。
 さ。立って」
「はい」
 立ち上がりかけたマコトを、茜はもどかしそうに引っ張り上げた。
 マコトを抱きしめる。体温が伝わってきた。
「(マコトの体って、こんなに暖かかったんだ。
 ……。
 あたしは誠に抱かれた事も、抱いた事もなかったもんね。
 鈴香さんは、愛している人が抱きしめる事でプロテクトが外れるって言っていたけど、誠はあたしの事どう思っているんだろう。
 抱き合った事もない二人が、恋人といえるんだろうか?
 もしも誠が、あたしの事をただの幼馴染で、なんとも思っていなかったら、どうしよう……。)」
 茜が戸惑っていると、鈴香が声をかけた。
「さあ、キスをしてください! プロテクトを外すのです」
「う、うん……。わかった」
 それを聞いた鈴香は、嬉しそうにうなづいた。
 久保田はそっぽを向いていたが、横目で茜達を見ていた。
「(キスをする所を見られるなんて、恥ずかしい……。
 でも、こうしないと、プロテクトははずれないんだ)」
 茜は自分に言い聞かせると頷いた。
 マコトに口に、自分の唇を近づける。
 そして、キスをした。

    *

 突然、私に与えられた部屋の戸が開いた。
 侵入者の確認。
 二人。
 鈴香と、それにもう一人。
 記憶をさぐる、
 もう一人の人物は川本茜様と判明。誠の幼馴染。
 突然部屋が明るくなる。照明が点灯していた。
 壁際の鈴香がスイッチを入力した事を確認。
 マスターが部屋に入って来る。
 マスターからの命令はない。待機状態を継続。
 川本様が私に接近。
 腕を伸ばして私を起こすと、私の体を抱きしめた。
 川本様は腕に力を入れており、私の胸部および腕部に圧迫感を感じる。
 胸部および腕部より、圧迫の痛みによる不快信号を受信。
 川本様は、私のマスターではない。
 私はマスターを見た。
 マスターは小さく頷いた。
 この状況に対し、マスターは承諾をしている事が判明。
 よって、不快信号は無視。このまま、抱かれる事とする。
 しばらくすると、川本様は私から離れた。
「戻った?」
 質問の意味が不明瞭。
 その事を川本様に伝達する事にする。
「何の事でしょう?」
 川本様の表情が曇る。
 先ほどの質問から、川本様が欲する行動ができなかったのは、私の能力不足のためだ。
 だが、私の行動に手違いはなかったはずだ。
 それとも、先ほどの回答になにか不備があったのだろうか?
 マスター達は、疲れた顔をして、私の部屋から出ていってしまった。
 私は再度、待機状態に入る事にする。

    *

 茜達は久保田の部屋に帰って来た。
「そんな……ぜったい外れるはずなのに……どうして……」
「鈴香。これで気が済んだか?
 お前の浅知恵なんて、この程度なんだ。これでやっと、わかっただろう?」
「久保田さん!
 そんないい方ないんじゃない?
 鈴香さんだって、久保田さんの為に一生懸命考えたんだから!」
「ふん。鈴香も鈴香なりに俺の役に立とうとした事は、俺だってわかっている」
「信じてください。私の時は確かにこれで外れたんです」
「ああ。信じてやるよ。お前はよくやったよ」
「そうではなく、この方法でプロテクトが……」
「いい加減にしろ!
 ここまでお前の言う通りにしてきた。
 それで結果がでなかった。
 もういいだろう!」
「でも……。
 ――はい」
 うなだれる鈴香に、茜が言った。
「きっと別の外す方法があるのよ」
「……」

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