REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-010 ”黙れ!”

「鈴香……。お前、命令を破ったのか?」
 久保田は鈴香を見た。
 強い意思のこもった、鈴香の瞳が返って来る。久保田は思わず、鈴香から目をそらした。
「いや、まさか……。ドールがマスターに逆らう事などが、あるわけがない……」
 さまよう久保田の視界に、茜の姿が入る。
 久保田は思い出した様に茜に言った。
「とにかく上原なんて奴は知らん。もう帰ってくれ!」
「じゃあ、この箱は何?」
 茜は部屋の隅に置かれたダンボールに駆け寄った。ダンボールには「上原」と書かれていた。
「そ、それはだな……」
 久保田の返事を待たずに、茜は箱を開けた。
 箱の中には、誠が持っていた物と同じDVDプレイヤーが入っていた。
 DVDのソフトも入っていたので、箱から取り出す。アダルト物ばかりだった。
「『コスプレ・コレクション 牝慰奴(メイド)編』、『もぎたて!巨乳天国』……。
 ふふ……誠ったら、本当にエッチなんだから……。
 でもよかった。大切なDVDがあるって事は、誠はここにいるのね?」
「ごまかしきれなくなりましたね、マスター。
 それともそのDVDは自分のものだと言い張りますか?
 ……もうやめましょう。
 こんな事をしても、鈴香様は喜びません。
 私もこれ以上、マスターの辛そうな姿を見るのは忍びないです」
「鈴香、貴様!!」
 久保田は鈴香に詰め寄った。
 そこに台所で食器洗いが終わったマコトが部屋に入って来た。
「マスター、他にご用はありますか?
 あ。お久しぶりです、川本様」
 マコトは茜に気がつくと、しずかに頭を下げた。
「誠……?」
 マコトの声を聞くと、茜はあわててマコトに背を向けた。ハンカチを取り出し、涙を拭く。
 目は真っ赤だったが、それでも必死に笑顔を作って、マコトの方に振り向いた。
「もー、心配したんだから!
 プッ! 誠ったら、なに女装してんのよ!? 誠ってそんな趣味があったの? あたしの服貸してあげよっか?
 あ、だから、いままで隠れていたのね?
 大丈夫だって! そんな事で、あたしは見捨てたりしないから!
 それにしても大きな胸よねぇ。あたしよりも大きいんじゃない?
 ……え!?」
 茜はマコトの胸を触った。本物の胸の感触に、茜は言葉を失った。
「女装ではありません。この胸は本物です」
 マコトは微笑んだ。
 茜はあらためてマコトを見た。そういえば声も、女の子らしい、かわいい声をしていた。
「誠……だよね?」
「はい」
「誠、女の子になっちゃったの?
 一ヶ月連絡がなかったのも、性転換の手術をうけてたため?」
「いいえ。私は女として造られたのです。
 川本様。お茶をお持ちしますね?」
 マコトは台所に向かった。
「あれは誠なの? いったいどう言う事なの?」
 茜は座り込んでしまった。
「ご覧いただけましたかマスター?
 マスターのなさっている事は、こうして人を傷つけて行く事なのです」
「うるさい! お前に何がわかるというんだ
 ここでやめたら鈴香はどうなる?」
「鈴香様は、こんなことをしてまで生きのびたいとは思っておりません。
 他の人を犠牲にしてまで助かったとしても、鈴香様は悲しむだけです」
「ドールのくせに分かったふうな口を聞くな!」
「私だからこそ、わかるのです」
「黙れ!
 いいか? お前はドールなんだ。
 ドールはマスターの言うことを黙って聞いていればいいんだ」
「いいえ、マスターが納得するまで、決して黙りません!」
「命令だ! 黙れ!!」
「嫌です! 黙りません!!」
「ふ……。黙りません……か……。ふふふ……」
「何がおかしいのです!!」
「本物の鈴香と、よく口げんかしたもんだ。
 その度に、女なんだからつつしみを持てと言った。
 今のお前は、あの頃の鈴香そっくりだな。
 確かに鈴香なら、今の俺を止めたはずだ」
「マスター?」
「鈴香。黙れと命令したのに、なぜ黙らなかった?」
「あっ!」
「そうだ。ドールにとってマスターの命令は絶対だ。
 それなのにお前は、自分の意思でマスターに逆らった。
 おかしいと思っていたんだが、やはりプロテクトが外れていたんだな」
「……、はい。
 勝手なことをして、申し訳ありません。
 ですが、私が生きているうちに、どうしてもしておきたかったのです」
「川本さんとマコトを会わせてどうするつもりだったんだ?
 あんなマコトを見ても、川本さんが悲しむだけだぞ?」
「私の推測なのですが、マコトのプロテクトを解くには、彼女の力が必要なのです」
「!!
 マコトのプロテクトを外す方法がわかったのか!?
 彼女が、その鍵なのか?」
 久保田は茜を見た。
「なに?
 誠はどうなっちゃったの? プロテクトってなに?」
 茜が言った。
「……そうだな、プロテクトも気になるが、巻きこんでしまった以上、まずは川本さんに事情を説明しないとな。
 長い話になる。
 まずはお茶でも飲んで、君が落ち着いてから話そう。
 鈴香、マコトに俺の分のお茶も入れるように言ってくれ」

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