REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-011 ”解除(T)” 「どうして誠は、女の子になっちゃったの?」 茜はたずねた。 「あれは上原じゃない。上原から作ったレプリカだ」 久保田は答えた。 「鈴香さんも自分の事をレプリカだって言っていた。 ねぇ、レプリカって何なの?」 「レプリカ・シリーズは、プロテウス社が開発した次世代のドールの名称だ。 ドールは知っているな? ドールもレプリカも同じクローン人間だ。最大の違いは、脳に書かれる知識にある。 クローン人間は知識を持っていない。だから製造過程で、脳に直接、知識を書きこむんだ。 ドールの場合は、人工的に造った擬似知識が書きこまれる。生命維持や性的行為などの知識だ。 必要最低限な知識しか入れられていない。なぜなら、擬似知識の制作は、あまりにも時間とコストがかかるからだ。 そこでプロテウスは、低コストで大量の知識をドールに書きこむ方法を考えた。 それがレプリカだ。 元の人間の脳から直接クローンの脳に、細胞の配列をコピーする。コピーをするだけなら、ほとんど自動でできるからな。 大量の知識の上、元の人間の記憶まで書きこめるため、レプリカはドールとは比べ物にならない程人間味を帯びた反応をする事が可能になった。 だが、問題も生じた。 脳細胞の配列情報を得るためには、元になる人間に何度も長時間に渡ってスキャニングをしなければならない。これは元となる人間の体と精神に大きな負担がかかる。 脳細胞は他の体の組織と違って再生が出来ない。傷がついても再生しないのだ。 脳細胞が死ねば、その時点でレプリカ制作は失敗する。 スキャニングの負担に耐えられるだけの脳細胞と体力と精神力。これらがレプリカの元になるために絶対条件だ。一つでも欠ければレプリカの元にはなれない。生まれながらの素質といっても良い。 上原はその素質があった。 だから、上原はレプリカを作るための実験材料になった」 「そんな。人間を実験材料に使うなんて……」 「今までレプリカの元になれる人間は女ばっかりだった。 男でレプリカの元になれるのは、上原が初めてだった。 そこでプロテウス社は上原を使って、男のレプリカを作ろうとした。 だが、実験は失敗した。 あれは上原から男のレプリカを作ろうとして、女になってしまった、失敗作だ」 「失敗? じゃ、誠は死んじゃったの?」 「生きている。いや、俺の臆測に過ぎないが……。 レプリカに適した体は、まれにしか見つからない。ましてや、男で適した体を持ったのは上原が始めてだ。 そんな貴重な体を、あの氷村――プロテウス社の社長の名前だ――がたった一度きりの実験で、手放すはずがない。 最初っから致命傷になる様な実験は行わないはずだ」 「それじゃ、本物の誠はどこかに閉じ込められているのね? どこにいるの?」 「レプリカを造るための、プロテウスの研究所がある。 おそらく、上原はそこにいるはずだ。 ――川本さん、俺達の目的は一致している。君も協力して欲しい。 研究所に、鈴香の本体もあるはずだ。 俺は鈴香を助けたい。 もうこれ以上、鈴香をあいつのそばには置きたくない。これ以上鈴香のレプリカなど作らせない。鈴香は俺の物だ マコトから、上原が研究所に連れていかれた時の事を聞き出したいんだ。研究所の場所を特定するためのヒントが知りたい。 だがその為には、マコトのプロテクトをはずさないとならない。 鈴香が言うには、君の力でプロテクトが外れるはずだ」 「それが外れれば、誠を助けられるのね? でも、プロテクトって何?」 「鈴香、お前のプラグを見せてやれ」 「はい」 鈴香は頷くと後ろを向き、黒いワンピースを脱ぎはじめた。 ワンピースを脱ぐと、白いブラウスを肩が見えるくらいまで脱いで、両手で後ろ髪をあげた。 鈴香の背中には、オレンジ色の入れ墨があった。 REPLICA SERIES:RSX-01"鈴香 SUZUKA"と書いてある。 その下には黒い入れ墨で書かれた、バーコードのような模様が続いている。 「これがレプリカの明かしだ」 久保田は鈴香のうなじのちょっと下あたりの皮を引っ張る。 皮が取れたと思うと、鈴香の首には、金色の金属で出来た二つの穴が埋められていた。 茜が皮だと思ったのは、蓋だった。 「鈴香の脳を制御している人工脊髄(せきずい)に続いている」 久保田はさらに背骨のあたりの皮も引っ張る、首と同じ様に、穴が二つ空いていた。 「レプリカには人工脊髄を埋め込まれている。 脊髄の中には小型のコンピュータが入っていて、レプリカをコントロールしている。 脳をあやつる寄生虫だ。 レプリカの脳にコピーされた知識や記憶は、このコンピュータが効率的な処理を行うためのデータ・バンクにすぎない。 鈴香、もういいぞ」 久保田は、鈴香の首を元に戻した。 鈴香は服を着た。 「レプリカは人間の脳をそのままコピーしている。 だが元の人間と同じ記憶や知識を持った脳が自由に活動をすれば、勝手な行動を起こしてレプリカとしては使えない。 そこで、脳に自我が現れてこられない様に、人工脊髄のコンピュータが脳にプロテクトをかけているんだ。 コンピュータの支配を解かない限り、マコトはコンピュータの操り人形だ。 当然プロテウスにとって不利な知識は、コンピュータが発言を禁止するだろう。 つまり、プロテクトを外さない限り、マコトからプロテウスの情報を聞き出す事は出来ない」 「あっ、だったら鈴香さんが研究所がある場所を知っているんじゃない?」 「申し訳ございません」 「知っていればすでに俺達に話しているはずだ。 鈴香をプロテウスに渡した時には、すでに昏睡状態だったしな。 それに、意識があったとしても、記憶が残っている確率は少ない。 さっきレプリカの脳は、元の人間の記憶をそのままコピーしたものだと言った。 だが、脳細胞は小さい上に複雑だ。全てをスキャニングする事は技術的に難しいし、元になる人間の脳細胞が、スキャニングに耐えられない。 そこで、間引きしてスキャニングしているんだ。 鈴香も、本物の鈴香の全ての記憶を持っている訳じゃない」 「1/6です」 鈴香が言った。 「そうだ。鈴香にコピーしてあるのは、元の鈴香の1/6でしかない。 残りは、ドールに使われているプログラムで補完している」 「ああ。だから鈴香さんは、プロテクトが外れても、なんかメイドさんみたいな感じなのね?」 「そうだ、鈴香はしょせんドールだ」 わずかだが鈴香がうつむいた事に、茜が気がついた。 鈴香は自嘲じみた口と、遠くを見るような悲しい目をしていた。 茜は久保田を見た。鈴香の悲しそうな顔に気がつかないのか、話を続けていた。 「だから、マコトも研究所の事を知っている可能性は低い。 だが、俺達にはその位しか手段がないんだ。 ホストもハックして見た。氷村の尾行もしたし、私設探偵に調査を依頼した。すべて無駄足に終わった。 マコトの記憶は、俺達にとって最後の望みなんだ」 「そうだ! その脊髄取っちゃう事は出来ないの?」 「何?」 「脳を支配している脊髄を、壊すか、取っちゃえばプロテクトは外れるわよ」 「君はすごい事を考えるな。 残念ながら答えはノーだ。 コンピュータは、適切な生命活動をするように脳に指令を出すプログラムも入っている。 つまり脳波や心拍の管理したり、ホルモンの制御などだな。 こいつを取ってしまったら、即死だ。 プロテクトを外すと言うのは、コンピュータを停止させることじゃないんだ。脳の活動を解放してやるだけだ」 「そうなの? とにかく、プロテクトをはずせばいいのね? あたしは何をすればいいの?」 「鈴香、お前がプロテクトをはずした方法を教えてくれ。 パスワードか? それとも、プラグからアクセスするのか?」 「プロテクトは、マスターが外されたんです」 「俺が?」 つづきを読む |