REPLICA(レプリカ)改 作・JuJu chapter-007 "失踪(しっそう)” 茜が誠とドールのエッチな行為を目撃してから、一ヶ月が過ぎていた。 茜はあの時から、誠と連絡を取っていなかった。 誠と過ごすつもりだったクリスマスも正月も過ぎ、年が明けて大学の講義も始まっていた。 茜は大学で講義を聞いていたが、内容は上の空だった。 (誠。どうして何も言ってこないの? ドールに夢中で、あたしの事は忘れちゃったの?) 自分から誠に会いに行けばそれですむ事だ。 だけど、そう思う度に「悪いのは誠なのに、なんであたしの方から謝んなきゃならないのよ」と思ってしまう。 「茜! 茜ったら! 講義終わったよ」 友達の葉子が声を掛けてきたため、茜は我に返った。 茜は教室を見渡した。学生は半分しか残っていなかった。残った学生も、昼食を食べるために急いで教室を出ていく。 「たまにはここで食べよっか? 茜、授業中ずっとボーっとしてたでしょ?」 葉子は弁当箱を机の上に置いた。茜もつられて弁当箱を出した。 教室に残っているのは茜と葉子だけになった。 「やっぱり彼氏のこと?」 どうして女は恋愛関係になると鋭いんだろう? 同性ながら不思議だ。 まあ、あたし達が悩むことって言えば、たいてい恋愛関係なんだけど。 「うん。誠と一ヶ月くらい、話していないんだ」 葉子が相手でも、おさななじみをドールに寝取られたなんて言えるわけがない。 「一ヶ月!? ケータイもメールもなし? あんたケンカにしたって、それって、長すぎない? わかった! 茜の事だから、意地になって自分から話しかけられないんでしょ?」 「だってあたしは悪くないもの!」 「そこが茜らしいって言うの! 一ヶ月よ? どっちが悪いかなんて、良いじゃない。時効よ時効。 ……会いたいんでしょ?」 「それは……」 「意固地になっていると、本当に会えなくなっちゃうよ。 ちょっとした事でケンカして、お互いの顔を合わせるのもなんか気まずくなって、そのまま時間だけがたって、気がついたら離れ離れになっていた。 そう言う例だってあるのよ」 葉子は立ち上がる。窓から外を見た。 風はなく、窓からは暖かい日差しが射している。授業が終わったために暖房は止まっていたが、日溜りの室内は暖かい。 外の冷たい空気も、ガラスにさえぎられてここには入って来ない。 葉子は茜の方に振り向いた。 「今日、謝りに行きなさい。 なんだったら、あたしが仲裁に入ってあげようか?」 「い、いいわよ! 仲直りくらい自分でできるから」 茜は午後の講義もぼんやりと聞いていた。 講義が終わってから、誠のアパートに向かった。 (メールでも出しておくか。この前みたいになのは嫌だしね。たしか、アパートの隣の人のパソコンに届くとか言ってたし) だが、メールはあて先不明で戻って来た。 (あれ? じゃあケータイで……って、誠は携帯電話持ってないんだっけ? どうしてアイツはあんなに貧乏なの? ……ご飯食べるお金あるのかな? まさか、あたしの差し入れがなくなって餓死してたりしないでしょうね。 とにかく、誠のアパートに行って見ますか。 誠はああいう性格だから、あたしの方から行動しないと。 まったく、世話のかかる男よね) * 茜は誠のアパートに来た。 ドアのノブを回す手が止まる。 誠がドールとエッチな事をしていた記憶が頭を横切る。 茜はノブから手を離すと、ドアをノックした。 「誠〜。いるんでしょ?」 もう一度ドアをノックした。 返事はない。 (留守かな?) 茜はノブを回した。軽く回った。 「またカギをかけてない。無用心なんだから」 茜はドアを開けて中をのぞいた。 部屋の中は、何もなくなっていた。 「そんな!」 茜は部屋の中に入った。 誠が無理して買った、テレビとDVDデッキもなかった。 流しを見る。歯ブラシも、ヤカンもなくなっている。 ちゃぶ台もない。 何もなくなっていた。 「引越しちゃったの?」 (あたしに何も言わずに? あたし達って、それだけの関係だったの? あたしはドールに負けたの?) 「そうだ! あの人なら何か知っているかも!!」 茜は久保田の部屋に向かった。そこも空き部屋になっていた。 茜はアパートのすべての部屋を見た。 すべて空部屋だった。 (そんな! 誠はどこにいっちゃったの?) 「そうだ! バイトは続けているかもしれない」 茜は大熊猫に行った。 * 茜は誠がバイトしているギョーザ屋大熊猫に入った。 「おお、君は上原の! どうして上原はバイトに来ないんだ?」 店長は言った。 「え? ここにもいないんですか? どこにいったんだろう?」 茜は言った。 「ここにも? なんだお嬢ちゃんも知らないのか? 上原の奴、ここ一ヶ月バイトを休んでいるんだ。連絡も来ないし。 同じ予備校に行っているバイトの奴も、予備校に来なくなったって言ってるし、奴ぁいったいどうしちまったんだ?」 「店長! 夜の分の仕込みおわりました」 厨房からバイトが言う。 「おう! 今行く。 バイトに不満があったのかも知れないって心配していたんだ。 謝るから来るように言ってくれないかな? またバイトしてほしいんだ。あいつがいないと、はかどらなくてな」 「わかりました」 茜は大熊猫を後にした。 歩きながら考える。 誠が大熊猫をやめるなんて! まかない付きで食事にありつけるって喜んでいたのに。 いつもおなかを空かしていたのに、なぜ突然止めたの? それに、予備校に行ってないって、あたしと同じ大学に入りたいってウソだったの? 茜は誠のアパートに帰ってきた。 何もない部屋。 唯一、この部屋には誠のにおいが残っていた。 『ちょっとした事でケンカして、お互いの顔を合わせるのもなんか気まずくなって、そのまま時間だけがたって、気がついたら離れ離れになっていた。そう言う例だってあるのよ』 葉子の言葉を思い出していた。 もう誠とは会えないの? 背後からドアが開く音がした。 「誠!?」 もしかしたら、誠が帰ってきたのかもしれない。 茜は振り返った。 玄関に立っていたのは、あの時誠といたドールだった。 つづきを読む |