REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-003 "鈴香(U)

 茜は、誠のアパートの近くにある児童公園にいた。
 日の暮れた公園は薄暗く、茜以外に人はいない。公園の中にある小さな街灯が、かすかに茜を照らしている。
 冬独特の乾いた風が、茜の髪を揺らした。
 茜はブランコに乗って、月を見ていた。
「誠のバカ。なんで追いかけて来ないのよ」

    *

 携帯電話が鳴った。
 誠からだ。
 通話のボタンを押す。
『茜か?』
 誠の声がした。
「……。
 どうして追いかけて来てくれなかったのよ?」
『それは……。鈴香が離れなかったから……』
「さっきの女性……」
『ああ。
 でも鈴香はドールだから、人間じゃないから……。
 ほら、アパートにオタクな奴が住んでいるだろう? 久保田って言うんだけど、あいつがドールを貸してくれたんだ。ドールってどんな感じなのか試して見たくてさ』
「誠、ドールとエッチしたいって言ってたものね。
 それで、あたしの事なんかより、ドールのエッチを大切にしたわけ?」
『だって鈴香は特別なドールなんだぞ!? こんなチャンスは、めったに……』
 あたしは電話を切った。
 あんな男だとは思わなかった。
 あたしは誠に渡すつもりだった大きなお弁当箱を見た。ひざの上に乗ったお弁当箱が、とても重く感じる。
 アパートに行くって言ったのに。おいしそうにお弁当を食べる誠の顔が早く見たくて、誠のアパートまで走ったのに。
 誠はあたしを待つどころか、ドールとエッチしていたなんて。
 あたしを追いかけて来ないで、その間もドールとエッチを楽しんでいたなんて。
 ――あたしよりも、ドールを選ぶなんて。
「誠のバカ……」

    *

 茜のやつ、急に切りやがって。
 俺はアパートの階段にある、硬貨(お金)を入れる式のピンク色の電話の受話器を乱暴に戻した。
 風俗に行こうが、ドールにフェラさせようが、俺の勝手じゃないか。なんでいちいち茜の顔色をうかがわなければならないんだよ?
 そりゃあフェラさせている所を見せたのは悪かったけどさ、でもあれは、茜が勝手にドアを開けたからだろ?
 ああそうだよ。茜の言うとおり、俺はエッチが大好きだよ。それをどうして茜にとがめられなければいけないんだ?
「上原様、ご心配事ですか?」
 振り向くと、鈴香が来ていた。
 そうだ、女は茜だけじゃない。
 ドールの鈴香でさえ、こうして俺の事を心配してくれている。
 いや、茜なんかよりドールの方が断然いい。可愛いし、従順だし、エッチだってやり放題だし。
 もう、茜なんてどうでもいいや!
「誠様、ご奉仕が終わったので、私はマスターの元に戻らないとなりません」
「あ、そうだったな。久保田はフェラチオをしてこいって言ったんだもんな」
 俺は鈴香と一緒に、アパートの廊下を渡った。
 レプリカって、本当に命令どおりに動くんだな。
 もしも俺が鈴香のマスターだったら、やっぱり鈴香は俺の命令通りに動くんだろうか?
 俺の命令に忠実で、いつも俺の事を心配してくれて、もちろんエッチだってしたい時にしたいだけやれるんだろうか。
 こんな美人の女性を、俺の思いのままに動かせるのだろうか。
 久保田の部屋に着いた。
「どうだ? 鈴香の服の乱れを見れば聴くまでもないか」
「いいな!!
 たとえばオナニーって抜いたらおわりじゃないか。でも鈴香のは抜いた後も吸ってくれて気持ちいいし」
「おいおい、レプリカとオナニーを一緒にするなよ。
 とにかく、安物のドールとレプリカの性能が違いが理解できればいいんだ」
 レプリカ、か……。
 人間の女なんかより、よっぽどいい!!
 茜なんか、絶対やらせてくれないし。
「決めた! 俺もドールを買う! 当然、鈴香みたいな高級な奴だ!」
「買うのはいいが、金はあるのか?」
「……ない」
 一気に現実に引き戻された。
「でも、一生かけて稼いで、買ってみせる」
「大した意気込みだな。
 お前もレプリカのすばらしさに目覚めたんだな。
 とりあえず、ドールのウェイブ・サイトでも見ていくか?」
「おう! さっそくインターネットを使わせてもらうぜ!」
 俺が座ったパソコンのモニターに、トミタのホームページが映った。確かドールの販売では一番のシェアをもっている会社だったな。
 適当にページをめくってみる。
 二十歳くらいの女の写真が並んでいた。
 どれも可愛いしスタイルもいい。でも鈴香にはかなわない。
「不満か? でもこれが普通のドールなんだぜ?」
「鈴香を見た後じゃ、こんなのじゃ満足できないな」
「分かってきたな!」
 久保田が立ちあがって、パソコンを空ける。
「上原、このワークステーションを使ってみろ」
「このパソコンでいいよ」
「レプリカ・シリーズはこのワークステーションじゃないと見れないんだ」
「そういうものなのか?」
 俺は高志の使っていたパソコンに座る。
 そこには、十体の女の写真が並んでいた。
 どれもさっきの女とは比べ物にならないほど美人ばかりだ。
 その中には鈴香もいた。
 ページをめくる。
 そこには幼稚園や小学校程度の年齢のドールも載っていた。
「おい。これって」
「そういう趣味の奴も多いからな」
「こんな小さな子のドールなんて聞いた事ないぞ?」
「確かに児童虐待にあたるとして、十八歳以下のドールの製造は許されていない事になっている。法律上ではな」
「法律上?」
 そういえば、レプリカ・シリーズって言うのもさっき初めて聞いた。
 俺は鈴香を見た。
 鈴香は俺の視線に気がついて微笑を返してくれる。
 人間の感情持つドール、レプリカ。
「久保田。レプリカって何なんだ?」

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