REPLICA(レプリカ)改
 作・JuJu


chapter-001 "ドール"

「これって人間と同じだもんなー。すげーよなぁ……。
 やりてェ〜〜〜ッ!!」
「何をやりたいんだ?」
「え? うわっ!」
 ここは俺がアルバイトしている餃子専門店「大熊猫」の、従業員控え室。
 気が付くと、店長が不思議な顔をして俺を見ていた。
「いや、なんでもないっス……」
「?」
 店長はふたたびスポーツ新聞を読み始めた。
 よかった。ばれてはいないようだ。
 店長が入って来た事に気づかない程、雑誌のエッチな記事に夢中になっていたなんて言えないものな。
 俺は改めて雑誌を読んだ。

《クローン技術を応用した、最新の風俗嬢「ドール」を大特集!!
 どの娘も厳選されたカワイイ子ばかり!!
 テクニックもバッチリ!!
 アソコだって、名器ぞろい!!》

 名器ぞろい……、なるほど……。
 ふと視線を感じたので見ると、店長がまた俺を見ていた。
「上原は、そういうのに興味があるのか?」
 やばい! あの顔は、俺の事をそうとうエッチな人間だと思っている顔だ。ごまかさなくては!!
「こっ、この雑誌は俺が買って来たんじゃなくて……、そこに置いてあったから、ちょっと読んで見ただけで……。俺はそんな、店長の思っている様なエッチな人間じゃなくて……!!」
 店長は缶コーヒーをグイッとあおる。
「ドールはいいぞ!」
「え?  ……行かれたんですか?」
「まあな。
 可愛い子が、俺の命令で自由自在に動くんだぜ?
 たとえば、俺のアレをしゃぶれと言えば、『はい』って頷いてしゃぶり出すんだ。
 しかも俺の時は、はじめての客だったんで、処女を頂いた」
「処女……」
「その分、料金も上乗せさせられたがな。
 処女なのに、脳に学習されているんだろうな。あっちの方の技術もすごくうまかった。
 本物の姫だったら、あそこまで覚えるのにガバガバになるけどな。 体は処女で、熟練ののテクニックだろ?
 性病もないから、生だし。
 とにかくいいぞー。
 その雑誌は俺が買って来たんだよ。やるからさ、上原もドールに行って見ろよ。
 ろくな生活してないんだろ? たまには贅沢した方がいいって」
「はあ……。まあ気が向いたら行ってみます……。それじゃ、お疲れさまっス」
「はい、お疲れさん」

    *

 従業員通用口を抜ける。ビルとビルの隙間に挟まれた、狭い路地に出る。車の騒音が耳に入って来た。
 俺の名前は上原誠(うえはら・まこと)。
 浪人生だ。
 浪人生だから、金がない。
「たまには贅沢をしろ……か。
 大きなお世話だ!!
 俺だって、ドールとやりてぇよ!!
 処女のきついアソコで、熟練のテクニックか……。
 いや、処女じゃなくてもいい。店長が言うには、別料金だそうだし。
 とにかく、やりてー!!
 ……。
 ああ、俺にも金があれば……」
 ゴミ袋がちらばるビルの隙間を抜けて、表通りに出た。
「何がやりたいの?」
「ゲッ! 茜(あかね)!! いつからそこにいたんだ?」
「失礼ね。誠のバイトが終わる時間だから、待っててやったのに」
「わざわざ待ってるなよ。それとも俺の事が気になるとか?」
「近くまで来て、ヒマだったから寄ってみただけよ」
「ふーん?」
 俺達は歩き出した。
 繁華街はクリスマスソングが流れていた。
 高いビルの窓が、夕陽に照らされた雲を映している。
 クリスマスかー。
 恋人同士で迎えるクリスマスってどんなんだろうな。
「ま、それもそうだよな。茜は頭もいいから志望校現役合格だし、俺なんかとは釣り合わねぇよな」
「何よ急に?」
「俺なんか仕送りもないから毎日バイトの人生だぜ。そのバイトも、まかないがあるって言うから餃子屋を選んだんだし。
 こうバイト漬けじゃ、受験勉強もできねえよ」
「何が受験勉強よ。
 さっきだって、エッチなお店に行きたいって叫んでいたんでしょ?」
「ゲッ、聞いてたのか?」
「大きな声で言っていればね……」
 茜はため息をついた。
「ま、確かに、クローン人間を使ったエッチなお店が話題になっているから、気持ちはわかるけど」
「安心しろ。金がないから風俗にも行けないし」
「なんであんたの事を心配しなきゃなんないのよ」
「あーあ。お前がやらせてくれれば風俗に行かなくても……イテっ!」
「バカな事言ってるとぶつわよ? まったく男ってエッチなんだから……」
 茜は遠くの夕日を見上げた。
「――ねえ、誠……。
 そんなにドールのお店に行きたいの?
 あれって命令通りに動くとかいうけど、 感情も心もないロボットみたいな物なんでしょ?
 男って、エッチさえ出来ればいいわけ? それだけが女に対しての目的なわけ?
 やだ! あたし何言っているんだろうね?
 じゃ、後でアパート差し入れもって行くから!」
 茜は走り出す。
 急に立ち止まって、振り返って大きく手を振る。
 俺も胸の前で手を振り返した。
 茜は微笑んでから会社帰りのサラリーマン達の中に消えていった。

    *

 アパート緑荘の一〇二号室。
 俺は自分の部屋で、店長にもらった雑誌をめくっていた。
「ふーん? ドールって無表情なのか。茜の言う通りだな」
 俺は茜の顔を思い出した。
 例えば、茜のドールがあったとする。
 俺がチ○ポをしゃぶってくれと言えば、「はい」と頷いてしゃぶってくれるわけだ。
 確かにうれしいけど。でも感情もないし無表情。
 本物の茜は乱暴だけど、笑顔はかわいいんだよな。
 恥じらいながら、俺のチ○ポをしゃぶる茜。
 俺に抱かれて、笑顔で嬉しいと言ってくれる茜を想像して見る。
 俺のチ○ポが茜のアソコを突くごとに、茜は息を荒くして顔を赤らめる。
 俺のチ○ポで、茜が絶頂を迎える。
 それから比べれば、無表情でたんたんと性処理だけをこなすクローンなんてつまらない。
「結局、ダッチワイフが動く様になっただけか。
 ……なんか、茜に言われて冷めちまったな。
 ドールに、本物の人間みたいな感情があれば違うんだろうけどな……」
 そんな事を思っていると、部屋の戸がノックされた。
 茜が来たらしい。
「上原様。いらっしゃいますか?」
 聞いたことのない女性の声だ。
 どうせ茜がイタズラで声色を変えているんだろう。俺の部屋に来る女なんて茜か訪問販売くらいだ。
「そんな事より、飯、めし!」
 俺はエロ雑誌を押入にしまった。
 茜はよく俺に飯を持ってきてくれる。
 さっきも、俺を待ち伏せしていたり、あいつは小学生の頃から、なにかと俺に付きまとうんだよな。
 ま、そのために、今夜も飢えなくて済むんだけどさ。
 俺は戸を開けた。
「おう、イタズラなんてしてないで、さっさと入れよ」
 そこに立っていたのは、メイドだった。

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