リサイクル彼女 ゆな
   作・JuJu


 ◆ 9 ◆

「尊志くん、おまたせ!」
 ビキニに着替えたおれは、プールサイドで待っていた尊志を見つけると手を振って駆け寄った。
「おおっ!?」
 おれの姿を見た尊志が声を上げて驚く。その気持ちよくわかるぞ。こんな美人でスタイルもいい水着姿の女性が、笑顔で駆け寄ってくれば、どんな男だって興奮するだろう。しかもそれが、あこがれの人であればなおさらだ。尊志が喜んでいる姿を目の当たりにして、なんだかおれも嬉しくなってくる。
「さあ、泳ぎましょう!」
 おれは目の前でぼうぜんとしている尊志の腕を取ると、プールに向かって走りだした。

   *

 しばらく泳いだ後、ここちよい軽い疲れを感じたおれは、尊志を連れてプールサイドに上がって休むことにした。よこ一列に並んでいるプラスチックのイスに尊志と並んで座り、プールにいる人たちをぼんやりと眺める。
 ふと、去年尊志とふたりでこのプールに来た時のことを思い出した。
(そういえばあの日も、このイスに並んで座ったんだっけな)
 去年ここに来たときは、泳ぎに来たというよりも水着姿の女性たちを観賞しに来たようなものだった。ろくに泳ぎもせず、尊志とふたりでスタイルのよい女性やきわどい水着を着た女性を見つけだしては胸を高鳴らせたものだった。でも今日は、プールで泳ぐ女性たちに興味が持てなかった。なぜなら、目に入る女たちのなかに、ゆなさんに敵(かな)うほどスタイルのいい美人は見当たらなかったからだ。このプールに来ているすべての女性の中で、飛び抜けてスタイルの良い女がおれ自身なのだ。その体を自在にできるのだから、周囲の女のことなんてどうでもよくなってしまった。

   *

 ふと、熱い視線を感じる。視線の先に目をやると、尊志があわてて顔をそらした。どうやらおれの水着姿に見とれていたらしい。女になって知ったのだが、どうやら女の体というのは男の視線にとても敏感らしい。
(こんなに間近にビキニ姿のゆなさんがいたら、視線が向いてしまうのもむりはないか。
 今日は水着姿を披露するだけのつもりだったんだが……。そうだな、もっとよろこばせてやるか)
 おれは体の力を抜いて、尊志の腕にもたれ掛かるように肩を当てた。太陽に焼かれた尊志の肌が熱い。
 おどろいた尊志の体が、わずかに飛び上がる。
(それにしても、でかい体だな)
 おれはそう思った。
 尊志の裸をこうして間近でじっくりと見たことがなかったので、胸の厚さや肩の広さなど、体格のよさに驚いた。あるいは、おれが女の体になっているから、やつの体が大きく見えるのだろうか。
「男らしい体ですね。胸も厚いし、筋肉もある」
「そ、そうかな。夏休みも、午前中は部活で鍛えているから、そのせいかな」
 尊志は顔を赤らめて、ごまかすように遠くを見ている。でかい図体をして、小さな子供のように照れている姿がおかしかった。
 おれはさりげなく、尊志の腕に胸を押しつけた。すると、ふたたびやつの大きな体が飛び跳ねた。
「たくましくて、すてきだわ……」
「!!」
 尊志の顔が真っ赤になる。ゆでダコのようだという表現があるが、いまの尊志はまさにそのとおりだった。
 さて、尊志をからかうのもそろそろ終わりにしなくては。あまり悪のりをして、尊志の理性の制御が効かなくなったら大変だ。それに友達以上の好意を持たせるわけにはいかない。まちがってもおれは、男とは恋人になる気はないからな。
「ゆ……ゆなさん!! おれ!!」
 まるで押し倒そうとする勢いでおれの方に体を向けた尊志に対し、おれはそっけなく立ち上がると「疲れもとれたし、もう一度泳ごうか」と言った。
「え? あ……はい」
 肩すかしを受けたような顔をしながらも、尊志はおれに続いて立ち上がろうとした。が、すぐにふたたび座り込む。
「あの……。おれ……もうちょっとだけ休んでいきます。すぐに合流するので、ゆなさんはさきに遊んでいて下さい」
 ははーん。胸を押しつけられて、尊志の下半身が膨張してしまったか。気が変わった。もうすこし尊志をからかうことにする。こんな面白いことやめられない。それにしても、あの程度で立ち上がることができない程まであそこを膨らますとは、女に対する免疫がない奴め。それともゆなさんの肉体が魅力的すぎるのかな。
「どうしたの? 体調でも悪いの?」
 おれはわざと、尊志の目の前に立つと前屈みになって顔を近づける。ゆなさんの顔が間近にせまり、しかも胸の谷間もよく見えるはずだ。今ごろやつの下半身は、ますます大変なことになっているだろう。
「もしかしたら、お腹でも痛いの?」
 おれはさらに頭を下げ、顔を尊志の腹に近づけようとした。
 こうやって下半身に顔を近づけられれば、ゆなさんに股間がマックス状態になっていることがばれるかもしれないと考えて気が気でなくなるはずだ。
「え? いや! 本当に平気ですから!! 元気すぎるくらいですから! 少し休んでいれば元に戻りますから、それまでプールで泳いでいてください。お願いします!!」
 尊志があわてふためく。ちょっとからかいすぎたかもしれない。もう許してやるか。
「そう? わかったわ。じゃ、わたしはプールに入っているね」
 おれはプールに向かって歩いた。
 そばにいた尊志がいなくなって、ひとりだけになったためだろうか。周囲の男たちから発せられるいやらしい視線が一気に激しくなるのを感じた。痛いくらいのその視線をどうにか無視する。驚いたのは、男のたぎった視線にまじって、女の視線も感じたことだった。どうやら女の目から見ても、このプロポーションは羨望の的らしい。そんな体が自分の物だと思うと気分が高揚してくる。
 視線を浴びてほてった体を冷やすために、おれはプールに入ると全身を水の中に沈めた。
 そのあとしばらくは、のんびりと泳いだ。
 いくらウブな尊志でも、もう下半身が収まっているだろう。そうおもったおれは、プールの中で立ち上がった。プールの底は胸が出る程度の水かさだった。こんなにいい女を連れて遊びに来ているんだぞと周囲に自慢させてやろうと思い、大きな声でプールサイドの尊志を呼んだ。
「尊志さーん!! そろそろ一緒に泳ぎましょう!!」
 尊志はさっきのイスに座っていた。呼ばれていることに気がついた尊志がこちらを向く。
 呼ばれたのが恥ずかしかったのか、尊志はおれの姿を認めると、とたんに顔を真っ赤にした。
(けっこう可愛いところがあるじゃないか)
「尊志さんも、こっちに来て、一緒に泳ぎましょうよ!!」
 尊志は、真っ赤な顔のままイスから立ち上がると、口をぱくぱくさせながら、ジェスチャーで必死になにかを表現しようとしている。
「ゆなさん! まずい! まずいまずいって!」
 尊志が身振り手振りで伝えた先に視線を送ると、そこには布きれが浮かんでいる。よく見ると、それはビキニのトップスだった。
(? なんでこんなところに、ビキニのブラジャーが浮かんでいるんだ?)
 クラゲのようにプールに浮かんでいるビキニは、おれが身に着けていたビキニとそっくりだった。
(まさか!?)
 うつむいて視線を自分の胸に向かわせる。そこには、果実のような大きな胸がふたつ、あらわになってた。
 おれは男なので、いままで泳ぐときは海パンだった。つまり上半身裸だ。そのため、ゆなさんの姿でトップスがはずれて上半身が裸になっていても、なんの違和感を感じず、気がつかなかったのだ。
 おれはあわてて両腕で自分を抱きしめるように胸を隠した。
 尊志がプールに飛び込み、おれのビキニをつかんで、こちらに向かってくる。
「大丈夫ですか?」
 尊志がビキニを差し出す。
 おれは左腕で胸を覆いながら、右手を伸ばしてをトップスを手に取った。
「あ、ありがとう……」
 そう言って、おれはプールから上がって女子更衣室に逃げ込んだ。
 トップスを着けて更衣室から出たおれは尊志の元に戻ったが、これ以上プールにいるのも気まずく、ふたりで帰路につくことにした。
 帰り道、おれと尊志は肩を並べて歩いた。トップスが外れるようなアクシデントはあったものの、おおむね尊志を楽しませることには成功したようだ。歩きながら尊志を見ると、いまだに顔が真っ赤だった。今日はサービスしすぎてしまったかもしれない。この体はぬいぐるみなのに、この胸だって作り物なのに、それでも尊志に自分の胸を見られた時のことを思い出すと、とても恥ずかしい気持ちになった。

   *

 尊志と別れた後、おれは喫茶店キャンディーブルー・スカイブルーの母屋に向かった。そのままゆなさんの部屋に入る。姿見の前に立つと、ゆなさんに変身している自分をながめた。
「今日は尊志に喜んでもらえたようでよかった。
 それにしても、尊志の喜びようはすごかったな。そんなに、ゆなさんの水着姿がよかったのかな。
 どれ、ゆなさんの水着姿がどれほどのものなのか、確かめてみるか」
 水着はプールの更衣室にあった乾燥機で乾かしてある。さっそく服を脱ぎ裸になる。今日のブラジャーが外れた事件を思い出して恥ずかしくなるので、胸を見ないように水着を着た。
 プールではなにかとあわただしく、また人の目もあったので、じっくりとゆなさんの水着姿を見ることはできなかった。
 こうして改めて鏡に映るゆなさんの水着姿を見ると、尊志が悩殺される理由も分かった。プールに来ていた男たちがいやらしい目で見つめ、女性たちが羨望したのもうなづける。これは、男の性欲を刺激するためにあるような肉体だった。トップスに包まれた、大きいくせにまったく垂れておらずツンと上向きに突き出した大きな胸。作り物だからできるような、おどろくほど細くくびれた腰。そしてボトムスに隠されたきれいな形をしたお尻とそこから伸びる脚線美。そのうえ顔も極上の美人とくれば、男の気を引かないわけがない。
 鏡の前に立っている水着の女性。こんなに美人でスタイルが良い女性の体が自分のものなんだ。その事実を確かめるように、おれは水着の上から胸に手を当てて、すくい上げたり、揉んでみたりした。手に伝わる柔らかい胸の感覚と、胸を触られている快感の、その両方の感覚が脳に伝わってくる。
(この胸を尊志に見られたんだ)
 そう思うと、恥ずかしさがおれを襲った。そしてその羞恥心が、胸を揉む快感をさらに高める。
 おれはたまらず、指をビキニのブラジャーの中に忍び込ませる。

(つづく)






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