GGG―鏡佳代編(前)―

作:村崎色





―鏡佳代編T―


宮村佳代。

 有森一真、浜俊祐の遊びに介入してきた厄介な女性。
 グノー商品『鏡』によって変身能力を得たはずなのに、今では宮村に『鏡』を奪われ、好き放題に変身して楽しんでいた。



 今日は学園No.1美女、ミス陣中こと※山崎知恵の身体になって一真を玩具にしていた。

「ああ!しゅごい!!先輩の身体、私と感じ方が違って新鮮!!一真のおち○ぽ、ぎゅうぎゅうに締めつけるぅ!」

 一真の上で悦ぶ知恵先輩の姿は、たとえ佳代だと分かっていても逸物を敏感に反応させる。しかも、声といい、膣といい、佳代とは全く別の感触は一真にっても新鮮な刺激である。佳代のお零れをもらっているにしても、十分満足するのである。

      

「一真!もっと突いて!わたし、もうすぐイクよ!もっと激しく振るいあげて!!」
「ふ、おおおおおおおお!!!!」
「ああ!そう、イイよカズマ、わたし、イク!イクイク……イクウウウウゥゥゥゥ――――!!!!」

 逝った数秒後に脱力し、一真に身体を預けてくる。もちろん、一真も逝く。二人繋がった場所から愛液と精液が混じり合った汁が流れ、ベッドシーツを濡らしていく。知恵の顔がすぐ近くにある。目の下のホクロがまるで先輩の喜びの涙の様に見えた。

「…………宮村、大丈夫か?」
「うん……。へへ。やっぱり、浜くんより一真の方が気持ち良いね」

 嬉しいこと言ってくれる。それなら俺もと、一真も後を繋ぐ。

「いや、俺も気持ち良かった」
「えへへ……」
「やっぱ、学園No.1美女、山崎知恵。身体の鍛え方が中も外もNo.1だ」
「…………へ?」
「宮村より軽いし、締まりも良いし、気持ち良いし、さすがNo.1びじ―――――」

 次の瞬間、学園No.1美女のビンタが一真の頬に飛んできた。




※山崎知恵はグノー商品『時計』に登場する人物と同じと考えて下さって結構です。嗚呼、服を同じに揃えておけばよかった……





・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「納得できん!!!!」

 屋上で一真が叫んだ。浜俊祐がなだめるが、俊祐も相当参っていた表情を見せている。

「俺じゃ満足できないんだ……一真の方が上手いんだ……」

 そこなんだと思うが、あえて突っ込まず!一真は自分たちに対する佳代の扱いに限界を感じていた。

「俺たちはたった一人の女の玩具じゃねえええ!!『鏡』を取り戻し、自由を手に入れ、再び女性の気持ち良さを味わうのだ!!!!」

 それには俊祐も大賛成する。現在、一真と俊祐が『鏡』を使う際には佳代の許可が降りないと使わせてもらえないのだ。黙って使うと、全校生徒にチクると脅されているので、その脅威を取らない限り自由はない。
 また、その他にも佳代と契約を結んでいる。
 本人には変身してはいけないと言う。もし二人の内どちらかが宮内佳代になった場合、チクるだけじゃなく、一生、佳代の奴隷にならなくてはいけないのだと言う。そんなこと死んでも嫌である。

「じゃあ、どうやって自由を手に入れるのさ?『鏡』もないのに?」
「――――ジャーン!」

 一真が取り出したのは、まぎれもないグノー商品『鏡』だった。

「今朝、宮村が置き忘れたものだ。なんでも、今日はファンの一宮和也になって出掛けているんだよ」

 一宮和也。今やドラマにCMに歌に引っ張り凧の超売れっ子俳優である。

(今朝……)

 俊祐は深く考えないことにした。

「あいつ、こんなド田舎に大物が来たらニュースになってばれるってこと考えねえのかね?」
「まあそのおかげで『鏡』を忘れていったんだ。――やるなら今しかない」
「……どうするんだ?」

 俊祐の喉が鳴る。

「いいか、俺の計画は完璧だ」

 一真が耳打ちで俊祐に話す。

「まず、俺が宮村に変身する」

 一発目から大博打だった。

「おい!大丈夫か?ばれたら一生奴隷だぞ」
「大丈夫だって、まかせておけ」

 自信満々に答える一真なので俊祐は言葉を閉ざし、次に進める。

「佳代と俺(佳代)がばったり鉢合わせする」

 二発目も死亡プラグだった。

「おいおいおいおい!!そんなことしたら、有森の生命は保証できないぞ」
「ここが重要なんだ」

 一真が俊祐の肩をぐっと引き寄せる。

「『鏡』は盗まれたことにするんだ。きっと俺(佳代)の姿を見た宮村は俺か俊祐どちらかに連絡する。そこにウソの情報を流すんだ」

 なるほど。そうすれば俺たちじゃなく、第三者が偶然宮村佳代に変身した可能性が生まれる。

「……大丈夫か?」
「自業自得だろ?それだけ伝えて電源を切ればいい。そこにちょっと俺(一真)は今、犯人を追ってると言っておけば、俺が連絡するまで佳代は待機するだろ?」
「なるほど」
「その間、浜は宮村(一宮)と合流。一夜を過ごしてくれ」
「……そうだな。一宮に変身しているんだから俺の家につれていくのが一番安全だな」

 俊祐もようやく落ち着いてきたように一真の話を聞いていた。

「さて、宮村は『鏡』が戻るまで元の状態に戻れない。帰る場所があるとしたら自宅だが、そんなこと俺はさせない。俺(佳代)はそのまま一夜佳代の自宅で過ごす」
「それじゃあ佳代は家に戻れない。一夜野宿をする羽目になるな!」

 俊祐は感心し、「その通り」と一真はニヤリと笑った。

「しかし、そんなことに耐えられる女性はいない。必ず誰かに連絡するはずだ。そこで、浜は宮村(一宮)の行動を逐一把握して、俺(佳代)に連絡をくれ。もし宮村(一宮)を泊める友達がいたとしても、俺(佳代)がその後から連絡して、片っぱしから潰す」
「鬼畜だなあ」
「さすがにそうなりゃ淋しくなるだろ?一夜野宿、もしくは眠れず一夜を過ごして精神的身体的にも疲れてきたところで、俺(一真)の姿に戻って「『鏡』を取り返してきた」と息を切らせて走ってくれば、お涙必須。宮村(一宮)も宮村(佳代)の姿に戻って感謝の嵐!俺と浜の株が急上昇!!あわやくばウマー(゜Д゜)ーーーな展開も期待できるという寸法よ!!!
 ――名付けて、『星のカズマ―『鏡』の大迷宮―!!ピンチの時はケータイだ!浜―なかま―を呼んで大冒険!』」

 ババン!!!と嬉しそうに話す一真。
 希望小売価格4,800円。ゲーム化の依頼来ませんか!!?(注:パクリなので一生ありません)

「…………上手くいくかね?」
「計画は完璧だろ?明るい未来が見えただろ?」
「まあな」

 二人で笑いあう。

「ようし。早速決行だ!浜、宮村の写真をくれ」

 「おう」と乗船した俊祐。いったいこの計画、上手くいくやら……





―鏡佳代編-U―


『鏡』に映した写真から、有森一真の姿は宮村佳代に変身する。

「これ、作った人は凄いよなあ。感心するよ」
「着ていたズボンや余分な腰回りの肉はどこに行くんだろうな?」
「そりゃあ肉は、足りない部分だろ?……こことか、こことか、」

 胸を強調したり、お尻を突き出してみたりしてポーズをとっている。男性では決して絵にならない仕草を『鏡』は叶えてくれる。男性では得られない快感を、女性になることで得た二人だからこそ魅力を知っている反面、知ってしまったら二度と男性には戻れないんじゃないかと思わせるくらい現実を教える悪魔の道具。
 一真は久しぶりに変身した佳代の姿で感度を楽しんでいる。佳代が見たら怒る程度じゃ済まないだろう。
 奴隷。その響きが恐ろしい。そう、悪魔の道具があるのなら、奴隷だってきっといる。
 一真は俊祐よりも危険な位置に立っているのだから。

「有森。気をつけろよ。絶対ばれるなよ」
「わかってるよ。じゃ、いってくらあ」

 楽しげに鼻歌を歌いながら屋上を去っていく一真(佳代)。次の俊祐が動く時は、宮村から連絡が来た時だ。
 二匹の雀が飛んでいる。俊祐の心配も消してくれそうなくらいの青空。今日は天気が崩れることはなさそうだった。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 雀が飛んでいく。青空の下、一宮和也が田舎道を歩く。そんなことがありえるだろうか?

「ねぇ、あの人、俳優の――」
「別人じゃないの?今は映画の撮影中でしょ?」
「でも、そっくりじゃない?」
「誰か声かけなさいよ」

 ヒソヒソ話が聞こえるが、和也は平然と歩いていく。いや、歩くだけじゃない。身長180cmの目線の高さ、歩幅の大きさ、まわりの取り巻く環境全てが新鮮に感じている。
 一宮和也に変身した宮村佳代が一呼吸した。

(すっごい、これが有名人なんだ。歩いているだけで皆が注目してる。すっごい気持ちがいい)

 男性ほどの背丈や体力もない佳代に、『鏡』は同じ力を見せてくれる。まさにこの道具は夢を叶えてくれる道具だ。

(男性は自由で良いなぁ。女性だと制限されちゃうんだもん)

 佳代はもし次生まれてくるのなら、男性になりたいと思う。すっごい格好良くなって、女性をナンパしたい。それぐらい佳代はアグレッシブだった。

 佳代(一宮)の歩く後ろで列が出来ていた。まわりの反応から察した佳代が振り向くと、ざっと50名が列に連なっていた。
 一人が声をかける。

「あの、一宮和也さんですよね?」
「いえ、俺は――」

 佳代(一宮)は否定しようとしたが発した声を聞いただけで、ファンが歓声をあげた。
 ダムから水が零れ落ちるよう、一斉に50人が佳代(一宮)のまわりを取り囲んだ。

「きゃあああああ!!!イッチィィィ!!!!」
「サイン下さい!!!」
「俺は――」
「バックの中はなにが入ってるんですか?」
「地元のB級グルメ、食べてってよ!!」
「お仕事ですか?」
「他に誰かいないんですか?」
「なにか下さい」
「腕触らせて下さい」
「胸、触らせて下さい」

 佳代の言葉を聞かないファンの大群。流されるように道路に押し出される。その光景は凄い。小さな町の大きな事件である。暴動が起きたかのような騒ぎようだ。ボディーガードが欲しい。ファンはどんどん増えて行くのか、それともこの流れに乗りたいだけなのか、
 50人?いや、既に70人は超えていると思う。

 よくわからないが、佳代が間違いなく思ったことは、

――誰か、このどさくさの中でおちん○触った!!?


 フッーーーー

「―――――!?」

 誰かが佳代(一宮)を嗤っていた。どさくさに紛れて感じ取った視線の相手を探す。
ファンの中から感じた熱視線。その人物は場を離れ、右に曲がろうとしていたところだった。
 その後ろ姿を見て佳代は驚愕した。

 ダッ――――
 佳代(一宮)が駆け出した瞬間、ファンも追ってくる。波は一世に動いて住民を呑みこむ。

「きゃああああああああああああ!!!!!」

 誰が誰だかわからない。佳代(一宮)が道路を渡ればファンは車すら呑みこんでいく。

「うわああああああああああああ!!!!!」

 警察官すら出陣する大騒動。だが、ファンは警察官すら呑みこんでいく。

「のあああああああああああああ!!!!!」

 何が何だかわからない。袋小路に追い込まれた佳代(和宮)。ファンは壁すら呑みこんで、新たな道を作りだした。

「――――――――――――――――――」

 我に帰るファン一同。
 波が静かに止まっていく。だが、もうそこには追っている佳代(和宮)の姿はどこにもなかった。





 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 佳代はようやく追いついた。先程の視線は、彼女からだった。後姿からどうしても震えが来てしまう。金色に近い茶髪、赤いブレザー、結び髪、背丈。――

「すみません……」
「はい?」

 彼女が振り向いた。彼女は佳代が一番よく知る人物だった。

      

 名は宮沢佳代。自分だった。

「わ、わたし!!!?」
「はい?」

 佳代の姿をしている者の肩を掴む。

「ちょっと、どういうこと!?浜くん?一真!?どっち??契約破ってただで済むと思っているの!!?」

 怒鳴り口調で話す佳代(一宮)。だが、佳代はひるまなかった。

「失礼ですが、あなたは誰ですか?」
「あんたね!!?」
「わたしに用があるんですか?」

 おっとりした口調で冷静に視る佳代が、佳代(一宮)を落ち着かせようとしていた。だが、佳代(一宮)が落ちつくわけにはいかなかった。

「いい加減にしなさいよ?口調変えて知らんぷりしても分かるんだから!!」
「なにが分かるんですか?」
「だからあなたは――」
「わたしは宮沢佳代。神大中学校の二年生です」
「それは私!わたしが――」
「先程から何故女口調で話すんですか?」

 熱くなっている佳代(一宮)と冷静に割って話す佳代の差は一目瞭然だった。冷静にさせることで会話をするつもりなんだろうが、
 冷静になってしまったら――

「…………本当に、あなた、だれ?」
「わたしは宮沢佳代」

 佳代の存在を佳代(一宮)が認めたことになってしまうこと。ありえない現象が目の前で起きており、

「いやああああああああああああああああああ!!!!!」

 佳代(一宮)はたまらず叫び声をあげていた。





―鏡佳代編V―


 PPPPPP・・・・・・
 きた!着信は宮村佳代。きっと一真と接触したんだと思い、電話を取る。

「もしもし?」
『もしもし、ハァ…、浜くん?』

 電話の奥でガヤガヤと賑やかな声が聞こえる。様子から佳代(一宮)は走っているようだった。

『今、一真はどこ?』

 怒鳴りながら聞いてくる。俊祐はゴクリと喉が鳴った。

「その前に大事なことがあるんだよ?」
『なに?』
「『鏡』が何者かに奪われたんだ」
『ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!???』

 キーンと鼓膜が麻痺する。それほど佳代(一宮)は動揺していた。

「とにかくそういうことだから、今は有森が探し回っているから。それじゃあ」
『ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ!!!浜くん!!』

 あまりの慌て様に電話を切ろうとした手が止まってしまった。

『一回会って、落ちついて話がしたいの!迎え来て』
「迎え?」
『ファンに追われてるの!!どうしよう』

 そんなこと考えればわかる話ではないだろうか、本当に佳代は手の焼く女性である。 

「わかりました。今どこら辺です?」

 場所を聞きだす。どうやら自然に佳代(一宮)と合流できそうだ。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 無事に合流し、再び屋上に戻ってきた俊祐と佳代(一宮)だったが、息を整える間なく佳代は詰め寄る。

「どうして『鏡』が奪われたの?一真は?」
「さあ?」
「どうしてこういうことになるの!!?」
「それは『鏡』を管理していた人が置き忘れたから」

 言った瞬間、佳代(一宮)が物凄い形相で睨むので俊祐は一瞬強張る。だが、その通りのなのでぐうの音も出ずに、佳代(一宮)は肩を落とした。
 
「どうして……」

 泣きそうにぼやく佳代(一宮)。それはそうだ。『鏡』をなくせば元の姿に戻れない。一生、一宮和也の生活で過ごさなければならないと思えば肩身の狭い生活をしなくてはならない。本人が存在するのだから、もし話題になってしまえば静かな生活は一生なくなるだろう。そういう意味で佳代は一宮和也に変身したことを悔やんだ。先程の件で十分わかった。小さな町に取材が押し寄せるくらい大事件になる。早く『鏡』を取り戻して変身を解かなければ行動することすらできない。
 芸能人の大変さを身に染みた佳代である。

「私、『鏡』を持っている人を知ってる」
「誰?どこにいるの?」

 佳代(一宮)の話を俊祐が聞き返す。

「その人、私(佳代)になってるわ」
「ええええ!!?」
「ねえ、どうしよう。今の内に家族に知らせた方が良いかな?」
「知らせるも何も、芸能人の佳代(一宮)さんが庶民の一家庭の諸事情を知ってたら余計に怪しいだけです。それに、宮村(一宮)さんの行動が一宮さん本人にも影響を与えかねないんですから、少しつつしんでいた方がいいと思いますよ」
「うぅ……」

 珍しく佳代(一宮)が俊祐の言うことを聞いて引き下がる。だが、ふと思い出したかのように再び俊祐にくいついた。

「ねえ、携帯貸して!一真に連絡する!!」
「俺がするから!宮村さんは今まで走ったり混乱してたりで、気が動転してますから、少しゆっくりしていて下さい」

 一つ一つ冷静になる様に俊祐が伝えて、再び佳代(一宮)は俊祐から放れる。屋上の手すりにつかまり、町の景色を傍観する。

「……なんて伝えるの?」
「とりあえず、『鏡』の所在が分かったこと。犯人は宮村さんに変身していること。でも、変身している誰かは分からないから、迂闊に手を出さないことを伝えるつもり」
「……気をつけてって伝えてくれる?」

 携帯を打つ手が止まる。佳代(一宮)の要求に俊祐は驚いた。

「……わかりました」

 携帯をかけに一度屋上を出る。鉄の扉が締まり、屋上には佳代(一宮)一人だけになった。



 PPPPPP・・・・・・
 数コール後に佳代の声が聞こえた。

「もしもし?一真?」
 俊祐の声を聞いた後、「くくく・・・・・・」と電話の奥で笑う佳代。

「いやあ!浜くん!!大成功だよ!!!宮村、自分の姿みて、泣きだしちゃってるんだもん。その声聞いてファンがまた追ってくるし、大打撃を与えたようだね、あれは」

      

 博打は勝って、万馬券を手にした嬉しさを電話からも感じ取れる。楽しそうにいつまでも笑い続ける有森(佳代)。

「なあ、一真――」
「――ようし、俺は次なる第二作戦へ移行する。宮村の私生活を覗いてバッチリ写真に収めてやるぜ。もしもの為の脅し材料になるかもしれないしな。ふふん、ふん」

 再び鼻歌を鳴らしてぶつっと切る。
 これはもう一真が満足するまで引き返せないようだ。俊祐は思った。

「…………要件、言い忘れちまった」

 もう一度電話しようと試みても、有森(佳代)は電話に出なかった。





―鏡佳代編W―


 宮村佳代の家はマンションだった。六階全フロアが宮村家のものだと言うのだから驚きである。

「お・か・え・り」

 リビングから飛び出し、玄関に少女が飛んでくる。

「た・だ・い・ま」

 少女の言葉を真似してあがる。宮村佳奈。佳代の妹だ。

      

「佳奈ね、今日、三ケタの掛け算やったの。あと、円周率をどこまで覚えられるか競った」
「ああ、やったやった!!!3.14159264……」
「お姉ちゃん、間違えるの早い」

 楽しそうに笑う佳奈。佳代と信じて疑わないその笑顔に良心が痛い。佳代が帰ってくるまで、家にいたのもどうやら佳奈一人だけだったみたいだ。

「ねえ、お母さんとお父さんは?」
「パパは出張。ママも帰りは遅くなるって。ご飯は自分たちで作ってだって」

 御両親が不在。本日は一真にとって動きやすい環境が整っていたことにニヤリと笑みを浮かべる。

「じゃあお姉ちゃん着替えるから、先にご飯食べていてね」
「あ……」

 佳奈が何か言おうとしたが、一真(佳代)は気付かずに部屋に入ってしまった。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「ここが宮村の部屋か。佳代って感じの部屋だなあ」

 テレビが床に無造作に置かれていたり、サーフィンがあったり、活動的な部屋である。しかも、ピンクも布団が女の子という印象もあり、どことなく香る甘い匂いは、一真の創作意欲を沸かす。
 クローゼットを開けると、私服のワンピースやツーピースが掛けられている。服の多さに一真(佳代)は目を輝かせた。

「さあさあ、お待ちかねの下着物色ですよ」

 両手を合わせてうずうず動かして見せる。タンスの一番上の引き出しから、多くの下着達が顔を出す。黒からピンクから紐パンやら、その種類は多い。

「すげえ。こんな際どいの穿けるのかよ?」

 もちろんこれから穿かせて頂くが、一真(佳代)はまず全ての引き出しを開けて行く。靴下、スパッツとジャンル分けもされており、思った以上に見やすいタンスである。
 ちょうど真ん中の箪笥はアクセサリーだった。

「眼鏡がある?あいつ、目が悪かったのか?」

 眼鏡を取り出しかけて見る。少しだけど景色が見やすくなったような気がする。それほど度が入っていないので、きっと普段はかけなくても良いのだろう。
佳代は几帳面な性格なのかもしれない。一番下の棚を最後に開けると、夏用なのか、水着が収納されていた。

「……せっかくだし、つけて見るかな」

 水着の一つを取り出すと、鏡の前に移動し、ようやく制服を脱ぎ始めた。下着も脱ぎ、細い身体を鏡に映しながら、横に置いておいた水着を着こむ。ピンク色の水着は上下分かれており、下はすんなり穿くことが出来たが、上はトップに引っ掛かり、押し込むように入れて完成する。

      

 鏡の前で水着を着た佳代が映る。思った以上に可愛く、じっと見られて困るというような表情で立っていた。

「何着ても似合うって、当り前か。そういうのを買ったんだろうな。でも、胸がちょっときついな。古いのかな?」

 それでも指を中に入れ上から覗きこむと、谷間が見えて一真(佳代)を喜ばせる。上から覗く乳房なんてそうそう見られるものではない。感極まって水着が濡れてきちゃいそうだ。
 そうなる前に一真(佳代)は水着を脱いで次の服を着込む。裸になった一真(佳代)は下着を着用せず、タンクトップとセットのスカートを着込む。
肩紐を通して胸を整えて鏡に映す。落ちついた衣装と一転、佳代のへそが丸見えのファッション。
 女子高生で見かけるファッションではあるが、寒くないのだろうか検証したかった。

「寒いけど、間違いなく目を向けるよな。やっぱファッションは見られる為に薄着になるよな」

      

 そのせいか、タンクトップといえど胸を締め付け、風の通りはあまり感じられない。もともと佳代はぴったり着る服が好きなのだろうか、だとしたら今度プラグスーツでも着てほしいくらいだ。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「あっ、またイク!!」

 一通り楽しんだ一真(佳代)は服を脱いでオナニーを始めていた。着替えていたときにも感度を高めていたからか、一度目は少し触っただけで逝ってしまい、拍子抜けした一真(佳代)はもう一度勤しんで逝っていた。二度目の方が絶頂は早く、また、佳代から飛び出した愛液が飛び散り鏡にも付着していた。

「あーあ、下着が汚れちゃう」

 嬉しそうに下着を掴んで、逝った臭いを嗅いでいた。

「お姉ちゃん。まだ?」

 ――ガチャッと勢いよく入ってきた妹、佳奈に一真(佳代)は慌てたが、間に合わずに裸体を見せていた。顔を赤くし、処理すら終わっていない状況に言葉を失っていた。

「あわわ……」

 佳奈が口を開く。

「なにしてるの?」
「へっ?」
「ご飯作って?」

 何をした後かわかっていない様に、佳奈は扉の前で待っていた。

「まさか、千夏ちゃん、オナニーしたことない……」
「おなにー?それって美味しいの?マロニー?」

 佳奈は絶対オナニーを知らないと確信した。リビングに戻っていく佳奈を見送る。ゆっくりと立ち上がった一真(佳代)も同じようにリビングに向かう。

「これは、面白くなりそうだ」

 どうやら一真(佳代)は一つ遊びを見つけた様だった。





―鏡佳代編X―


 一真(佳代)がキッチンに入ると佳奈がすでに料理支度を始めていた。どうやら今晩は二人で料理を作るようで、佳奈は一真(佳代)を見て微笑んだのだが、その表情が一瞬で覚める。

「姉ちゃん?まだ裸なの?」

 不思議と言う表情で一真(佳代)を見る。

「ううん。今日は裸でやろうと思ってね」

      

 嬉しそうな声で佳奈に答えると、エプロンを手に取り裸の上から身につけた。佳代の裸エプロン。エプロンの奥で乳房が見える一真は、鼻の下を伸ばしていた。このままでは再び愛液が垂れてくる気がしたが、そんなことは全く気にせずに佳奈の隣に近づいた。

「エプロンは服の上から着るものだよ?」
「まだ佳奈には大人の魅力は分からないかなぁ?」
「?」
「こんな姿、本人にばれたら殺されるからなあ。……佳奈も今日のお姉ちゃんの格好は誰にも言っちゃ駄目だからね。お姉ちゃんと約束よ」
「??」

 唖然とする佳奈を横目に、一真(佳代)の不器用な包丁さばきが飛んでくる。

「お姉ちゃん、下手になったね」
「うぐぅ」

 その日の夜食は、悲惨なことになったのは言うまでもない。




・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

一方その頃、人を気にしながらようやく浜の自宅に帰った俊祐と佳代(一宮)。

「ただいま」
「おーおかえり」

 居間から母親の声が聞こえる。家計簿をつけていてまったく俊祐のことなど見ていない。好都合。俊祐は冷蔵庫からドリンクとポテトチップスを取ってくる。

「佳代は先に俺の部屋にいってて。ドリンクとつまみ持ってくるから」
「ありがとう」

 とはいったものの、初めて来る自宅に俊祐の部屋が何処かわからない。

「基本は二階よね?」

 二階の上るとさらに三部屋ある。とりあえず佳代(一宮)は手前の部屋を開ける。

「えっ?」

 扉を開けると、女性の部屋。明るいピンクの壁に黄色いカーテンが目に着き、中央には一人の女性が佳代(一宮)を見て固まっていた。

「あっ?お・ね・い・さ・ま……?」

 佳代(一宮)も止まる。先に動きだしたのは、制服を着た女性の方だった。

「きゃああああああ!!!!!」

 家の外まで響く歓喜の声。

「一宮和也!!!どうして私の部屋に来てるの!!!???」

 握手をして佳代(一宮)に近づく女性。その勢いに完全に圧倒されてしまう。階段を駆け上がり、女性、麻希子に俊祐が話す。

「姉ちゃん!!!!落ちついてくれ!!!近所に聞こえるだろ!!!!」
「俊祐!!あんたの知り合いなの!!?……そう、お姉ちゃん今まで俊祐のこと馬鹿でネクラでもやしっ子な草食系だと思っていたけど、見直したわ。私に紹介して!!!?」

 誉めているようで、ぼろ糞の言われよう……

      

「ああ、後でね」

 俊祐の部屋に入り扉を閉める俊祐と佳代(一宮)。

「おかああああさあああああん!!!俊祐が―――――!!!!」

 扉の奥で麻希子が勢いよく階段を下りて行った声が聞こえた。

「ごめん、浜くん」
「俺が部屋を言わなかったせいだよ。気にするな」

 持ってきたドリンクをコップについで佳代(一宮)に渡す。二人は一杯だけ口に付けた。

「……で、これからどうするの?」

 俊祐が佳代(一宮)に聞く。

「友達の家に泊めてもらう。きっと優子なら私のこと分かってくれると思う」

 思った通り、佳代は一宮の姿でまた外を出歩くつもりだ。ここからは一真の言うとおり、佳代が連絡した相手に、『鏡』を使って再度佳代になりすまして連絡をする手はずになっている。
 一晩、外で野宿をして身体的精神的にたたみかける。秋とはいえ冬の到来を感じるこの時期に一晩過ごすのは容易ではない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……やめといた方が良いよ。俺の家みたい仁科さん家にも迷惑がかかると思う」
「あ……」

 俊祐の提案に、「それもそうだね」と小さく呟き、肩を震わせる。佳代(一宮)からすすり泣く声が聞こえてきた。

「じゃあ、私どうしたらいいの?一晩野宿なんて耐えられない」

 俊祐の家は一時的なもの。すぐに外に出なければいけないのに、居場所がなければどうすればいい?身分証もなければ明かすことも出来ない状況では、屋根のある部屋で眠ることなんて容易ではないのだ。

「……俺の家に泊まっていけよ」

 俊祐が提案する。佳奈(一宮)は真っ直ぐに俊祐を見た。

「浜くん……」
「もう俺の家には知れ渡ってるし。ああ見えて、内緒にしてくれと言えば結構口の固い人なんだ」

 「だから一晩くらい泊めてあげる」と言う前に佳代(一宮)は俊祐を抱きしめていた。

「ありがとう!!」
「お、おう。宮村……」

 硬い胸板に押しつぶされそうになるが、流れる涙は何故か佳代の匂いがした。





鏡佳代編(後)へ





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