『正義の謀反―ジャスティスハンター―』(中編)

作:村崎色



 枝に吊るされた私は、メビウス―ジャスティスハンター―の言われるままに黙って見ているしかない。

 何をする気なのかさっぱり分からない。町で気絶していた男性が目を覚ましてメビウスを目に映した瞬間、メビウスが遂に動き出した。

「私は正義の使者、エンジェル・メビウス。正義の名のもとに悪と戦っているけど、本当はとっても淫らな女なの。精液が大好きで、男性を見ると身体が疼いちゃうの。お願い、私を抱いてほしいの」

「なっ!?」

 コスチュームを解き、裸になったメビウスの身体を、男性にマジマジと見せつける。胸を揉んで局部に指を滑らし、腰をくねらして動かして男性を誘惑していた。

「戦いに疲れて、身体が精液を求めて仕方ないの。誰か私を癒してほしいの」

「おい。あれ、エンジェル・メビウスじゃないか?」

「呼んでる。……これは、チャンスじゃないか?」

 正義の使者からの寵愛に男性陣は素直にときめく。ズボンを脱いで下半身を見せびらかすと、メビウスを囲う様に太くて長いおちんぽが並んだ。メビウスは歓喜していた。

「あはっ、きてえ。お兄さん。私の戦いで汚れたおま○こに、おち○ぽグチュグチュって突っ込んでほしいのぉ」

「やめてえ!!私の姿で変なことしないで!!」

 メビウスが壁に手をつきお尻を突き出す。メビウスの手が股間へ動き、割れ目を左右に広げた。サーモンピンクの入口がくぱぁと顔を出す。男性陣が一列に並ぶ。

「正義はそんな姿を見せない!!やっぱりお前は悪だ!!」

(黙りなさい。これから覗くのは人間たちの求める平和よ)

 メビウスの声は私にしか聞こえないテレパシーだ。一人がメビウスにおちん○を宛がう。

「じゃあ、俺が!……うおおお――」

「ああん!いい、いいよぉ。おちんぽ、奥まで挿入ってくる」

「次は俺だ!」

「どけえ!俺が先だ!メビウスたんとセックス出来るなんて、ハァハァ、夢の様だ」

「いいわぁ、おまん○だけじゃなくて、お口にもちょうだい、手にもおちん○握らして。わたしの身体、滅茶苦茶にしてほしいの!」

 メビウスの声で男性は各々好きな個所に移動し、メビウスの身体におち○ぽを擦りつける。なんて卑猥な光景だろう。これが、私の救おうとしていた人間の姿だろうか。

「そんな……」

 人間を救うために正義が必要で、でも、今この光景に正義はない。悪に染まった光景に、人間が歓喜に震えている。

(わかる?人は正義など必要としないのよ)

「ちがう!人々が悪に洗脳されているだけよ!」

(ふぅん、悪に洗脳術なんて無いよ。あれはただの『言葉』だもん)

「じゃあ、あなたが悪に染めたのよ!邪な思いを植え付けたのよ!」

(私はあなたに変身するだけの能力。持っているのは正義と名のつくあなた達じゃない!?)

「――っ!?」

 メビウスの激怒に反論が出来なかった。そう、きっと人間たちがこの光景を生みだしたのも、私の『運命』の能力だ。悪いのは人間でも、怪人でもない。メビウスーわたしーだ。

(強さを求めて能力を得た?誰と比べて強さを求めたの?誰に勝ちたかったの?誰を敵にしたの!?)

「そ、それは――」

(私と相手した正義の使者みんなそうだった。『メルキュリオ』も『マルチ』も『サドゥルノ』も、全部エゴ!あなた達正義の使者の自分勝手の思想が最たる悪よ!!)

 私が悪……正義を信じて闘ってきた私が、最悪……

「ん……ん……ちゅぶ、ちゅば、ゴク、あふん……」

「ああ、メビウスたんの手が俺のを擦ってる……小さい手が一生懸命に動いてるよ、サイコウだ」

「口マン○、トロトロで……熱い口内に、発射しても良いのか」

「おい、お前たちがそう言うこと言うから、膣内が締まってギュウギュウ締めつけてくる。や、ヤバイ、出ちまいそうだ」

「んぶっ……ぷはっ。みんなぁ、だひて。わたしにアツイ精液ぶちまけてえ。外も中も、精液に染まりたいのぉ」

「うおおおおおおおおお!!!!!!」

「ああああああん!!!!いっ、イクウウウウウウウウ!!!!!」





 メビウスに大量にかかる男性の精液。汚されていくワタシの姿。

 それに関して私は何も思わない。

 ただ、その後に放つ男性の各々の言葉――

「気持ちいい」

 ――それは平和。心地の良い風が髪を揺らす時に言う言葉。

「あったけぇ」

――それは平穏。ポカポカと暖かい外の気温に漏らす言葉。

「満足した」

 ――それは、理想が成就した時に放つ言葉。平和になった世界を実感して人々が口を揃えて言う言葉。

ここで、その言葉を使ったら、正義の存在理由がなくなってしまう。

 お願い、みんな。私はもっと生き―たたかい―たいの。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 男性が消え、精液に汚れた身体を拭いたメビウスは、元の姿に戻っていた。

 もともと水の怪人、精液だけを洗い流すなんてお手の物、匂いも全てなくなっていた。

「今の光景みてどうだった?絶望した?」

「…………」

 言葉も出なかった。メビウスは頷く。

「正論ね。世界は絶望に満ち溢れている。偽物で溢れ返っている。悪だ、敵だと言う前に、私はもっと戦うものがあると思うわ。――ねえ、メビウス。私はこんな矛盾だらけの世界は滅んじゃっていいと思うんだよ」

 快楽に満ちた平和な世界こそ理想郷。皆が自由で相手のことなどお構いなしの自分勝手の世界。それが、今の世界を救う新世界……

 私のこころを突き動かす……

「……絶望した。夢は断たれた、苦渋の選択だった、想定外だった……」

「?」

「叶わない夢がある、届かない願いがある、起こらないから奇跡って言う――」

 皆が挫折し、皆が妥協し、皆が怠惰した。その瞬間に吐き捨てる悔し涙。正義は救えない。

「正義は死んだわね」

「全員が選ばれるわけじゃない、誰かが特別な人間になる訳じゃない。みんなが普通を目指した訳じゃないのに、普通の生活に落ち付いてしまう。でも、それが『運命』」

「――っ!」

 正義は皆を救えない。非情で無情な、無作為に選ばれた『運命』。

 選ばれた者には平和を望む『覚悟』を。

 選ばれなかった者には平和を望む『祈願』を。

 正義が与える不条理だけど平等な『運命』――

「私は必要最低限の幸せを守る義務がある。努力をする人には応援を、才能を持つ人には希望を。けっして夢が叶わなかったとしても、私はその時間に費やした正義を誇りに思う!人が頑張った軌跡、世界へ貢献する輝石。捨ててはいけない意志がある」

 偽物だらけの世界でも、本物がわずかでも残っている限り、――世界は守らなくちゃいけない。

 それが正義の使者。人を救う、それがエンジェル・メビウス。

 これから私が倒すのは、正義の名のもとに自信過剰になった末期のワタシ。世界を『運命』だと諦めた悪の私のココロだ。

「メビウス!私はあなたを許さない!!」



(後編へ)


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