土曜日6月13日 お買い物(その2)
 

 お茶の時間の後、笑が凛太郎と別れて別々のバスで家路に着いたのは五時近かった。
「笑、リンタどんな水着買ったんだ? ビキニみたいな奴か?」
 おせんべいをバリバリ食べながら修一が尋ねてくる。予期していた事とは言いながら、玄関を上がるなりだとびっくりを通り越して呆れてしまう。
「あのねぇ、可愛いヤツ選んでたよ。誰かさんの為に。でもどんなのかは内緒って。明日もどっち着るか迷ってるってさ」
 洗面所で手を洗い、制服から着替える為に自室への階段を昇りつつ笑が言う。あまり嘘もつきたくないけれど、凛太郎が言わないでと言うから仕方が無い。後から修一が着いて来た。
「お前ちゃんと選んでやったのか?」
「勿論。でもやっぱり恥ずかしいからって大人し目のヤツになったけどぉ。あんまり水着水着ってうるさいから、凛ちゃんも嫌になっちゃったんじゃないの?」
 心当たりがあり過ぎの修一としては返す言葉もない。が。
「着たとこ見たか?」
「えー? 着替えは見てないけど、着たとこは見たよ。可愛かったよ〜。どうする? ムラムラきちゃったらあ」
 笑が振り向きながら意味深な微笑みを浮かべていた。
「そんなに……いや、ムラムラなんて来るわけねぇだろ」
「そうなかぁ? サポーター二枚重ねにした方がいいと思うけどな。まぁ、いいや。あたしには関係ないもんね。……着替えるから入って来ないでよ?」
 何事かを想像するように、ちょっと視線を宙に漂わせたが、改めて修一と向き合った。言われて修一も笑の上から下まで眺める。
「誰がお前の着替えなんて見たいってんだよ。リンタの、」
「凛ちゃんのならいざ知らず?」
 修一に割り込み、すかさず笑が言う。ちょっと冷ややかな視線を浴びせながら。
「あ、当たり前だろっ」
 自室に入りながら「ふーん」と一言発して笑がその後の言葉を拒絶するようにドアを閉めた。

* * * * * * * * * *

 ベッドの上に腰掛ながら、凛太郎は明日の仕度をしていた。手には今日購入した水着が二着。凛太郎が座っているベッドにはいつものディバッグと大き目のバスタオルが置かれている。
(明日はプール行くだけだし、泳ぐって言ってもな……水着気になって泳げないかも)
 学校の成績は上位の凛太郎だったが、運動系はあまり芳しくは無かった。それはひとえに小さい頃の喘息のせいだったけれど、例外が一つだけあった。水泳だ。小児喘息の治療を兼ねて、小さい頃にはスイミングスクールに通っていた事があった。小学校の六年間だけだったけれど。だから水泳だけは凛太郎が好きな体育だ。それに、塩素の作用なのか、身体を清潔に保てる為かは解らないが、水泳をしていた時期は比較的肌の状態が良かった事も、好きな要因の一つだった。
 しかし、女性化して初めてのプールだ。しかも修一と一緒。いくらジムのプールだと言っても殆ど遊び感覚だし、泳ぐと言っても周りの目が気になって満足に泳げそうもない。大体、見せる為の水着を明日は着るのだから。
(修ちゃん、びっくりするかなぁ。あ、でもそんなに露出してないし、そうでもないかな?)
 今更ながらに、もう少し派手なのでも良かったかなと思ってしまう。でも、不特定多数のいるジムなのだから、凛太郎としてもこれが一杯一杯だ。
 一応替えの下着を入れて、目薬などの医薬品が入ったポーチをディバッグの一番下に入れた。バスタオルに二着の水着を包み、そのままディバッグへ入れ、ビニール袋を数枚バッグのポケットへ突っ込んだ。これで準備が整った。あとは明日のお楽しみだ。
 寝巻きに着替えてベッドに入ると、今日の事が思い起こされる。笑の行動は、女の子同士なら普通なのかも知れないけれど、凛太郎には驚きだ。学校の授業で着替える時、女子が凛太郎のつるつるで真っ白な肌にべたべた触れる事はあった。しかしそこまでで、胸に触れる、ましてや揉むなんて無かった。まだ遠慮しているのか、他のクラスメイトがふざけあっているのは見た事があったけれど。
(お医者と修ちゃん以外に触られたのって初めてだったんだ……。それも女の子……)
 女子と付き合った事もないし、触れたことなんて滅多になかった。それが一気に胸まで触られるなんて。凛太郎自身予想外の出来事だった。尤も、男なら胸を揉まれる事などあり得ない事だけれど。
(やっぱり女の子同士ってするのかな? あんな事されて感じちゃったら……って今日やばかったもんね)
 揉まれて乳首を弄られた時、ちょっと感じてしまっていた。それを笑に感づかれたかと少し心配になる。当の笑は、そんな事まで気にしていなかったけれど、凛太郎には解らない。
 両手で胸を包むように、掌で乳房にそっと触れる。修一の手と違い小さく柔らかい手。それは笑が触った時と同じに感じる。ちょっとだけ手に力を入れると、心地よい感触が手に伝わってくる。
(柔らか……。あ! なんで僕こんな事っ? ダメダメ、えっちな事ばっかしてたらバカになっちゃうぞ)
 布団の中で丸くなった。
(明日の事考えよ。…………修ちゃんとプールって中学以来か……。僕は変わっちゃったけど、修ちゃんは……。修ちゃんも変わったかな。逞しくなったよね)
 受験だと言うのに、去年の夏は修一と市民プールへ行ったりしていた。その時の事が蘇る。そして。剣道部室で見た、逞しい修一の身体も。
(すごい筋肉で、逞しくって……あの太い腕が僕の事……抱きしめて)
 自分の身体を抱くように、胸から肩へと手を移動させる。作業棟の裏で初めて抱きしめられた事。修一の部屋で抱きしめられた事。そして、作業棟の一室での出来事。一気にそれを思い出し、凛太郎の身体が次第に熱くなっていった。
(は、ぁ、修ちゃんの、身体……肌、綺麗だったな……プールなら、また見られる……あ水着?)
 自分が水着になるなら、修一も水着。締まった身体と、強調されるように股間にあるアソコも凛太郎は見る事になる。えっちな記憶だけでなく、修一の水着姿を想像すると、カーッと益々身体が熱くなってくる。特に中心の辺りが。
(修ちゃんの水着……はぁ、はぁ、修ちゃんの……ああっ、なんで? おち○ちんの事考えちゃうのっ?)
 考えないようにと思えば思う程、記憶の中の「修一」がはっきりと姿を現してしまう。魔物の股間にぶら下がっていた「修一」とそれに貫かれ、嬌声を上げていた自分。そして自転車に乗っている時見た、勃起した本物の「修一」。凛太郎の頭の中はそれだけになってしまう。
 魔物が来ないとはいいつつも、凛太郎の身体は鮮明に「修一」の味を覚えている。「修一」を膣内に感じている時だけ幸せを感じるという、魔物の鍵は弱くなったといいながらも厳然として凛太郎の意識の中に存在している。修一が作業棟で味わわせた時は、修一の指でイカされたから「欲しい」のも我慢できた。けれど、今の状態では誰も慰めてくれない。自分だけだ。
(あああっ修ちゃんっ、あ、ダメだよ……触ったら、だめ……やっん)
 肩を抱いていた手を胸に再び移すと、そのままゆっくりと揉んでいく。身体を触っていたい欲望が心の奥底から顔を出し始めていた。
 じんとした感覚が身体の奥からじわりと滲み出て来るようだ。凛太郎はそのまま笑に弄られた乳首を軽く指先で弾く。
「はッ、ん」
(声、出ちゃう、止めないと……お母さんにばれちゃう……)
 頭では解っていると言うのに身体が、手が止まらない。一度経験した快楽は容易くは手放せなかった。徐々に白い肌が桜色に染まってくると、興奮もどんどんと高まってくる。
 ぎゅっと瞑った目蓋には、修一の身体がはっきりと映し出され、そしてその逞しい身体に優しく抱かれている自分が見える。修一の手が恐る恐る凛太郎の柔肌を撫で回すと、凛太郎の手もその通りに動く。その手の動きから紡ぎ出された愉悦に、身体が「ひくっ」と軽い痙攣を起こしてしまう。
「ひっ、あ、ぅやぁん」
 じわり、と股間の粘膜から粘液が溢れ出るのが解った。修一の手が、身体が、そして「修一」が、自分を求めている場面が投影され、それが現実のように思えてしまう。
(修ちゃん、手が、気持ちいいよぉ……。おっぱいが、すごくっいい)
 ぐにゅっと両手で形が変わる位の強さで揉む。まだ修一が触れるときには力を抜いてくれているけれど、今凛太郎の目の前にいる修一はそんな事はお構いなしだ。妄想の中の修一はちょっと乱暴に凛太郎を扱っていた。それでも凛太郎の身体は濡れそぼってくる。
 お腹がきゅっと動くような感覚と、それに伴ってぴったりと閉じ合わさっている秘裂からヌルヌルした粘液が湧き出してきた。
(ああ、修ちゃんっ、僕っもっとっ……)
 片方の乳房を荒っぽく掴みつつ、もう一方で寝巻きのボタンを外していく。焦る必要など無いのに、中々ボタンが手につかない。全部外し終えると、指先をペロリと舐めて唾液をつけ、その指で硬くとがり始めている乳首を弄った。
「! はあっやっ!」
 声を出さないように、なんて考えはもうどこかに行ってしまっていた。
(しゅうちゃんがなめてるよお。僕の、おっぱいなめてるぅ。気持ちいいよお……)
 掌で乳房を握りながら、濡れた指先で乳首に触る。指先で摘むようにすると、修一が唇で挟んでいるように感じる。円を描くように指先で乳首と乳輪に触れていくと、まるで舌で舐められているような、そんな感触。
(あ、しゅう、ダメッ。そんなとこ触っちゃ、ダメだよ……)
 イメージの中で修一の腕が胸の谷間を下りて行き、下半身へ移動して行く。むずがるように身体を揺すっても、手の行く手を遮る事は出来ない。そのままショーツの中へ潜り込んでしまった。
 シャリ……と被った布団の中で音がした。
「んふッ」
 ピンと立ち上がった乳首を人差し指と親指で捏ねる。直後に抑えきれない甘く切ない疼きが、胸から下半身を直撃していく。
(いやぁ、こんなの、ダメっ。やだ、修ちゃんっ。修ちゃん! もう、もうっ)
 割れ目に沿って指を下方に動かしていくと、奥にあるピンクの真珠が出迎えてくれる。それを直接触れずに、凛太郎の指はその周辺を愛撫していく。触れているようで触れず、触れていないようで触れる。そんな力加減は、たちまち凛太郎の快楽神経を焦がしていった。
「ふぅん、しゅうちゃん、もっと、きもちよくしてよぉ」
 堪らない快感に思わず言葉が口から迸ってしまう。たとえ小声でも掛け布団の中ではやけに大きな声に聞こえてしまう。自分の発したその言葉に、凛太郎は激しい羞恥を感じながらも、より甘美な快楽の波に乗ってしまっていた。
 しこった丸い肉に、粘液でヌメる指を這わせる。中指でちょんとつつき、その丸さを楽しむように指でさすった。
(あん、そこッ、やん、そこいいっ!あああっんんん〜)
 ビクっん、と大きく腰が動く。動かさないではいられない程の衝撃。いつの間にか呼吸を忘れていたのか、口を半開きにしながら涎が垂れてしまった。「んぐっ」と乾いた喉に唾液を流し込む。
 右手の人差し指と薬指でふっくらとした大陰唇を開きながら、中指で包皮の上からクリトリスを蹂躙していく。ゆっくり引くように、そして軽く押しつぶすように。神経の集中している部分を乱暴に扱うと、痛いような快感で頭が痺れてしまう。凛太郎は快楽だけを抜き取ってそれだけに集中していく。
(や、はげしっ、しゅうちゃん、ダメっぼく、たえらんないよ)
 乳房を握っていた手も股間へと誘って行く。修一の手だと思うだけで、これまでの感覚よりも鋭くなる気がしてしまう。大陰唇を開いていた指を使って、トロトロになっている淫らな口を守っていた小陰唇を開く。
「あん……」
 ぽてっとしたソコを開くと、ふわっと独特な女の子の匂いが充満する。発情したメスの匂い。男なら、修一なら、その匂いを嗅いだだけでもう止まらなくなってしまうだろう。今の凛太郎の痴態を目にせずとも。
 熱く熟したその中に中指で触れた。「ぬちっ」と淫猥な音がこぼれる。まだ処女の膣は、入り口も狭い。十分な潤いを見せていても、折りたたまれた襞肉は容易に指が入っていかない。爪で傷つかないように、指の腹側に力を加えながらゆっくりと、自分の中に侵入していった。
(あああああ、修ちゃんが、修ちゃんがぁ、僕のナカにはいって、きっ)
「ふああっ!」
 自分の胎内に何かが入ってくる感覚。それは男の時にはあり得ない、感じ得ないもの。その圧力を身体に感じながら、凛太郎は妄想の中で修一を迎え入れていた。
――浅黒いけれどすべすべした、逞しい修一に組み臥される自分。大きく足を割り広げられ、その中心には、太くて硬い「修一」が嵌まり込んでいる。凛太郎の愛液でテラテラと濡れ光るソレが、修一が腰を引く度に凛太郎の目に入ってくる。その様子は卑猥の一言に尽きてしまう。ぐっと修一が腰を凛太郎に叩き付ける度、凛太郎は切ない喘ぎ声を上げてしまう。泣きそうな程気持ちよく、壊れそうだけれど止められない。修一が凛太郎の最奥まで突き入れると、みっちりと自分を満たしてしまう。心も身体も修一で一杯になってしまう――。
「修ちゃん、修ちゃん、僕、欲しいっ修ちゃんっが!」
 妄想の中の修一の腰の動きと、自分の中をかき回す凛太郎の指。太さも長さも違うけれど、凛太郎の中でそれが一つになっていた。ぐちゅぐちゅと水っぽい音が室内に響き、ベッドもぎしぎしと音を立ててしまう。しかし凛太郎の耳には入らなかった。
 ねっとりした液体は、凛太郎に快楽をもたらす穴から指によって掻き出され、大きく膨れ広がったラヴィアを伝わり、ショーツとシーツに大きなシミを作っていく。まるでおねしょをしたみたいに。
――リンタ、ナカすごくいいぞっ。俺もうイキソウ――
(ぼくもっ修ちゃんっ、イッちゃいそうっ。もっと激しくしてぇ!)
――ああ、すげぇ締まるっ! 先っぽと根元がぜんぜん違うっ!――
(もっと、僕の事感じてよっ、僕で気持ちよくなってよっ)
――リンタ、リンタ、リンタっイクっイクぞっ!!――
(はああんっ! イッて! ぼくもっ、いっちゃう、修ちゃんっしゅうちゃんっ!)
――リンタっあああっずっとすきだからな!ああ!い、クっ――
(ぼくもお、すきっしゅうちゃんっだいすきっ!)
「あ、あ、や、はああああんっ!!」
「凛ちゃん? どうかしたの?」
「!!!」
 突然のノックと千鶴の呼び声に凛太郎は心臓が飛び出んばかりに驚いてしまう。殆どイキかけていたその瞬間、凛太郎の指が埋まった膣が「ぎゅぅっ」っとこれまでに無い位締まった。
(ん〜、ん、んふっん)
 ぎゅっと口を閉じ、声が出ないように唇を噛み締める。しかしその間も「びくビクッ」と痙攣が治まらない。
「凛ちゃん?! 大丈夫? 嫌な夢見たの?」
 一応、部屋にはまだ入ってこない千鶴。しかし、以前の事もある。魘されているのかもと思えばすぐに入ってくるだろう。
(は、ああああぁぁぁっ……)
 凛太郎は一つ大きく息を吐き出し、息を何とか整えた。
「……あ、だいじょう、ぶ、だから。なんでもないから」
 ベッドからは扉の向こうの千鶴の様子は解らない。もしかしたらバレているのかもと思うと、凛太郎はドアを開けて顔を見せる事も出来なかった。
「…………そう。大丈夫なのね? ならいいけど。……何かあったら遠慮しないで起こしていいからね。じゃおやすみなさい」
「は、い。おやすみなさい……」
 すごく心苦しく思ってしまう。千鶴は本当に心配したのだろう。まさかオナニーしていたなんて思っていないのだろう。ただ、その姿を見られなくて良かったと思うしか、凛太郎には出来なかった。
 膣壁の小さな粒々が長く指を入れていたために真空状態になっているのか、ぴたっと指に吸い付いて離れない。それをゆっくりと無理せずに抜いていく。
「んあっ……はぁ、ぬけた……」
 女性化した時にしたオナニーを思い出していた。その時は単純に女の子の身体への興味でしたようなものだ。修一とのペッティングだって、自分から、などと恥ずかしい事は無かった。作業棟では凛太郎からキスしてしまったけれど、それは快楽に負けてしまった為だ。しかし今日のはどうだろう。対象をはっきりと決めてのオナニー。修一が自分を満たしてくれる妄想でしてしまった。その心理的な変化は、凛太郎に少なからずショックを与えていた。
(……ひとりえっちしちゃった……。しかも修ちゃんで。まだ早いなんて言ってたのに……。僕ってやっぱりお父さんと一緒なんだ……。えっち、我慢できないんだな……。)
 明日どんな顔して修一と会ったらいいのかと思いつつも、オナペットにしてしまった事への罪悪感で、久しぶりに鬱々としてしまう凛太郎だった。


(「日曜日6月14日 プ〜ルにて」へ)


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