月曜日6月1日 魔物の弱点(その2)


「……えっちぃ音……」
 扱く度に湧き出す修一の恥かしい粘液は、そのまま「くちゃくちゃ」と卑猥な音源になっていった。凛太郎は独り言のように声に出していた。その言葉も、自分の粘液の音も修一には燃料となってしまう。
「リンタぁ、あ〜っ、もっとっ速くていいよっ」
 修一の頭の中は、既に肉欲に溺れていた。より感じてイってしまいたい。でもこの気持ち良さももっと続いて欲しい。浅ましい、男の身勝手な思いだけになっていた。
 修一の腰が少し浮きあがりつつ、凛太郎の手の動きに合わせて少し動いている。修一の筋肉という筋肉は次第に強張っていった。
「修ちゃん、イケそう? イキそうになったら言ってね」
 凛太郎は修一のそんな思いを知ってか知らずか、とにかく早く達して欲しかった。イケば落ち着いていつもの修一に戻ってくれるだろう、欲望の対象でなくちゃんと自分自身を見てくれるだろうと。だから懸命に手を動かしていた。
「……う〜、もう、イキそっだっ」
 その切羽詰った声と、ぎゅーっと上がってきた修一の睾丸に、凛太郎は慌てて空いた手でポケットを弄った。
(あっ、やばいっ、ティッシュ、早く出さないと!)
 一枚一枚出すのももどかしく、凛太郎はポケットティッシュを2、3枚重なったまま袋から取り出す。それを扱いているペニスの先端に被せた。
「修ちゃん、たくさん出していいから。思いっきり気持ちよくなって」
 凛太郎がそう修一に語りかけると、それがトリガーとなったのか、小さな白い手で握られた肉欲の権化は一層固く大きくなった。ブリッジするように腰を浮かせる修一。
「リンタっ、イクッ、もうっ、あッあ゛あ゛!」
「きゃっ」
 小さな叫びと共に小さな口から噴出す熱い欲望の塊。びゅるるッと擬音が聞こえてくるようなその勢いに、凛太郎は無意識に女の子の声を上げてしまった。ティッシュを重ねていれば大丈夫だと思ったのは凛太郎の間違いだった。白い生臭さを伴った修一の精液は、簡単にティッシュを通過し凛太郎の掌に直接当たってしまう。ドロッとしたそれは殆どティッシュに吸収されなかった。
(あ、あ、なんで、こんな、すごい……)
 大量の第一弾が放出された後も、修一のペニスはびくびく震えながら精液を吐き出していく。その勢いと量を手に感じていた凛太郎の下腹が熱く反応してしまう。
(やっなんでまた? 修ちゃんの欲しいって思ってないのに……)
 トロリと流れ出る自分の愛液に、凛太郎は腰を少し動かしていた。
 徐々に射精の勢いが収まってくると、それまですばやく動かしていた手の動きを遅くしていった。
「あぁ、はぁああ〜ぁ……」
 それまで呼吸もままならなかった修一が、ゆっくりと溜息のように息を吐き出した。凛太郎はそれを合図のように動きを止め、修一に話し掛けた。
「……気持ち、よかった?」
 まだ全く硬度を失わない修一のペニスから、手筒と亀頭の先端に溜まった精液が流れ落ちないように少しづつ輪を狭め、亀頭をこすり上げるように手を離した。そしてティッシュで手についた修一の精液を拭っていった。
「はぁ〜っ、気持ちよかったあ」
 修一は満足げな声色を使いながら、大の字になっている。凛太郎は自分用に数枚のティッシュをキープした。
「じゃぁ、今日はもう大丈夫だよね?」
「……リンタ、好きなだけイかせてくれるって言ったよな?」
 満足しただろうからもう帰れるな、そう思っていた凛太郎にとって修一の返答は予想外だった。むっくりと上半身を起こした修一がそれまでの切羽詰った声色ではなく落ち着いた調子だった事も、凛太郎を戸惑わせていた。
「へっ? あ、言ったけど……。まだしたいの?」
 凛太郎の経験だと、連続で二回も自分でした事が無かった。それ程性的に成熟していなかったせいもあったかも知れない。大体においてあれだけ放出したのなら、もう十分じゃないのかと思っていた。
「あ、でも、もう僕ティッシュないよ。ね、また今度にしよう? 僕も一回……イっちゃったし、修ちゃんも一回だしさ。もう遅いから帰ろう?」
 随分と遅くまで残っている気がしていた凛太郎は、そのうち見回りの先生が来るんじゃないかと気が気ではなかった。
「ちょっと待って」
 修一は凛太郎の懸念などお構いなしに、足首に纏わりついているズボンのポケットをごそごそと探っている。凛太郎はティッシュを探しているのかと思っていたら、案の定そうだった。
「ほらっ、まだあるって。な? もう一回、な? 全然おさまんねぇんだ。リンタのしてくれてる姿見てたら益々興奮しちまって……。あと一回だけっ。約束するから。たのむぅょお」
 薄明かりに浮かぶ嬉々とした表情の修一が、次の瞬間にはうーうーと動物のように唸りながら凛太郎に迫っていた。その態度に凛太郎はちょっと呆れてしまっていた。
(……手でしてるだけでそんなに興奮するもんなの? なんかヤダなぁ。こんな修ちゃん知りたく無かったな……)
 ふぅ、と一つ溜息を吐いて凛太郎は修一の足の間に座りなおした。
「じゃあ、これで最後にしよ。もう遅いから」
 少し沈んだトーンで修一に語りかける。ほんとはもう一回なんて嫌だった。修一には声が沈んでいる意味を考えて欲しかった。嫌いにはなれないけれど、今の性欲にトチ狂ってる修一では近づきたくなくなりそうだ。
 つと手を修一の股間に持っていく。一度目は少し興奮があったけれど今度は殆ど無かった。かえって早くイカせるように強く扱いてしまえと思っていた。ところが、修一がまた予想外の事を言い出す。
「リンタ、こっちこっち。一緒に寝転んじゃえよ」
 ここにおいでとばかり、右手で修一の身体の左側にあるマットをぽんぽんと叩く。連れ添った夫婦が同衾するかのような態度。しかし下半身丸出しでそうする姿は間が抜けていた。
「……制服汚れちゃうからやだ」
 凛太郎は何となく寝転ぶのは「やばそう」と感じていた。それでも修一が「リンタぁ……」とせがむと仕方無しに傍らに行ってしまう。
 上半身を半身にして起こし、横座りを大分崩した格好になった。修一の左側に座るためにどうしても利き手と反対の左手を使わなくてはいけない。ぎこちない動作で凛太郎は修一の硬さを失わないペニスを握った。
「〜ぅ」
 修一の口から空気が漏れ出す。凛太郎はその顔を斜め上から見ながら、左手を上下に動かし始めた。
(ん〜、なんかやりにくいなぁ)
 小指を下にすると手首が痛くなるし、かといって親指を下にするとちゃんと気持ちよく出来ていない気がしてしまう。ぬるぬるとした先走り汁は出ていたけれど、それが今しているペニスに与えられる刺激によるモノなのか、先程の残りなのか、凛太郎には解らなかった。事実修一は息は荒いが呻き声を出していない。それは一度大量に放出したからかも知れなかったが。
「あの、あんまり良くない、よね?」
 早いところイって欲しいのにこの体勢だと力も入らない。それが解っていたから修一に尋ねてしまった。
「修ちゃん、どうしたら気持ちよくなる? それとももうやめとく?」
 思わず本音が出てしまう凛太郎に、修一は構わず希望を言った。
「え〜っと、胸触らせてくれよ、胸。直に」
 ぴたっと凛太郎の動きが止まる。自分が触られるという選択肢は全く考えていなかった。今、話しの中心は修一に如何にして良くなって貰うかなのに、どうして凛太郎の胸が関係してくるのか。
(お返ししてくれる気なのかな? でも僕もういいし)
 修一が自分に気を使ってるのかと、凛太郎はこの状況では起こり得ない事を考えていた。
「僕、別にいいから。修ちゃん気持ちよくなってくれれば。さっき……良かったから、胸触らなくていいよ」
「じゃ無くって、俺がリンタの胸触ると興奮するんだって事。リンタ、手ぇ動かして」
 そう言われ凛太郎は慌てて上下運動を再開した。と、修一の左手が凛太郎の背中を摩ってくる。ちょっと力強く、自分の方に凛太郎の身体が近づくように。
「ちょっ修ちゃん。直ってブラウスの下?」
「んっ、ブラの下」
 直接胸に触るという想像が修一の劣情を掻き立てたのか、興奮が高まってくるのが解る。
「あっ?!」
 小さな悲鳴を上げる凛太郎。修一は背中側からブラウスの下に手を入れ器用にも片手でホックを外してしまった。不意に胸の拘束が無くなり、凛太郎は何故か不安を感じてしまった。修一の左手が背後から押してきているために、凛太郎の上半身は修一に覆い被さるようになっている。外されたブラジャーはその重さでブラウスにまで垂れ下がっていた。当然凛太郎の形の良い乳房は、紡錘形となって摘み取られるのを待っている。
「なっ? 修ちゃんっ、僕外していいなんて言って……ん、やめ……」
 修一の手がするりとブラウスの裾から侵入していた。さわさわと、下に向かって生えた乳房を直接触ってくる。その触れるか触れないかの感触は、ゾクゾクする程の甘い刺激。修一のペニスを握っていた手の力が抜けてしまいそうだった。
「だめだってば、こっちに集中出来なくなっちゃうょ……」
 身体を起こして修一の腕を振り切ってしまえばいいのだろうけれど、素肌を触れていく修一の手の感触がやはり気持ち良く、凛太郎の中で逃げるという選択肢は生まれてこなかった。
「リンタのおっぱいやあらかいな。触ってると気持ちいいよ。それに……」
 軽く搾るように修一の手が凛太郎の乳房を攻め立てる。凛太郎はその度に切ない吐息を漏らしていた。「気持ちいい」などと評されると恥かしくなってしまう。しかし修一のその言葉は凛太郎の身体を確実に蕩けさせて行った。
「んッ、あ、それにって、なに?」
 修一の固い棒の柔らかな先を刺激しながら、辛うじて問い掛ける。修一も興奮の度合いが上がっているのか、先端から分泌される粘液が増えていた。
「……それに、肌がすげーすべすべしててっん、手に吸い付いて来るみたいっだよ」
 お世辞でも何でもなく、修一は本当にそう感じていた。もっとこの肌の感触を感じていたい。手だけでなく出来たら身体全体で。もしそうしたなら一緒に凛太郎とくっ付いてしまうような、そんな感触。童貞のヤリタイ盛りの高校生には限界ぎりぎりの刺激だった。
(そ、そんなに? 僕の肌って気持ちいい?)
 凛太郎は自分の肌に触った事を思い出していた。確かに触れていると気持ちよかった。肌の事を誉められると自分自身を誉められたような気になってしまう。もしかして素肌同士で触れたらびっくりするぐらい気持ちいいかも、そんな事まで頭を過ぎっていた。
「前、外していいよな」
 不意に修一が囁いてきた。凛太郎は一瞬「前」の意味が解らず蕩けた目で修一の表情を伺う。その間も休みなく左手は「修一」のつるっとした亀頭を刺激していた。
 乳房を弄っていた手がスルッと離れる。するとすぐさま凛太郎と修一の間にやってきた。その大きな温かい手は止まる事無く凛太郎のブラウスのボタンを外していった。
「あ、修ちゃん、ちょっ、ダメっ」
 にゅるにゅるとした粘液が付いた左手で、修一の右手の動きを封じようとしたけれど、その時には殆ど胸が肌蹴てしまっていた。修一からは既に外されたブラジャーとその奥に佇む柔らかな乳房がブラウスの間から伺えた。ぼーっと闇に浮かぶ淫靡な光景に、修一の咽喉が鳴る。
「ぐっ、り、リンタ、すげぇエロい……」
「……ちがっ、僕じゃないよ、修ちゃんが……。あんまり見ないでよ……」
 修一の言葉に凛太郎の白い胸元が真っ赤に染まっていたけれど、暗い部屋の中では識別するまでには至らなかった。凛太郎は恥かしさに修一から顔を背けながらブラウスの前身ごろを閉じようとした。その手を修一がぐっと抑え込む。
「手は、こっち、しててくれよ」
 強くは握られなかったが、凛太郎は修一の手の圧力に圧倒されてしまった。元々男としても非力なタイプだった凛太郎だったが、女の子の身体となった今では男の力の前に全く歯が立たない。これだけ力の差があるのだから、修一が凛太郎を組み敷こうと思えばいつでも出来る筈だった。それをしようとしない修一に、今している事がたとえ半ば自分の意志を無視して強制的なエッチだとしても、やはり好感が持てた。
「……するから、あんまり……」
 見ちゃダメと言っても、暗いから大丈夫などと言われるだろうと思い言葉を飲み込んだ。が、修一は言葉ではなく違う行動を取っていた。今日、この部屋での修一の行動は、全く予測不可能だった。
 修一が少し身体を潜らせたかと思うと、左手で凛太郎の身体を引き寄せた。首をもたげ右手で先程のように乳房に優しく触れる。その感触に凛太郎の下半身は痺れにも似た震えに包まれる。と、修一はいきなり凛太郎のブラウスに顔を突っ込み、張りのある乳房の先の桜色に色づいた乳首をぺろっと舐め上げた。
「! あっああンッ」
 修一が唯一触れて来なかったところ、凛太郎が触って来ないと気にし出していたところ。凛太郎は修一の不意打ちに軽い叫び声で応えてしまった。
(あ、なんて声っ出してっ。ああん、やだっきもちいいぃ……)
 舌先で乳首を転がしたかと思うと、手で揉みながら乳房に軽いキスをしてくる。修一の柔らかい唇が徐々にその頂点に移動すると、凛太郎はひりつく乳首を舐めて欲しい焦燥に駆られてしまった。
「ん〜、修、ちゃぁん、ダメっだよ」
 ダメと言いつつも嫌がる素振りは言葉だけでしかない。その凛太郎の様子に修一の舌は益々淫猥な動きを見せ始めた。
 啄ばむように乳房と乳首を攻め立てていた唇は大きく開かれ、舌を迫り出していた。なるべく舌の奥の方に乳首を乗せると、そのままずる〜りと舌の先までゆっくり舐ってくる。じりじりとした快感は乳房の先から拡散し、凛太郎の身体中を駆け巡り、遂には濡れてしまったショーツに覆われた淫裂に届いていた。
「修ちゃん、ぅんッ、あぅんっ、胸っだめってばあ」
 凛太郎は意識を根こそぎ舐め取られてしまうような、そんな感覚に覆われ始めていた。何とかそれを留めようと、修一のペニスを強めに握り扱く。
「リンタっ、すごっ、いいぞっ。それいいっ」
 小さく囁くように呻く修一。しかしそれも一時だった。直ぐに攻撃に転じ、右手を身体下半身へ動かしていた。その先には当然、胸と乳首からの甘美な刺激で蜜を湛えた凛太郎のワレメ。修一の中指がショーツの上から充血した珠の辺りを強めに摩った。
「あああっ、そこっやぁあッ!」
 胸から広がっていた焦れったいようなものとは違う強烈な愉悦から、凛太郎は身体を捻って逃げようとした。しかし背中に回された修一の腕はそれを許さない。左の胸から右の胸に移った舌先の感触と股間を弄る指先、その別々の動きは凛太郎の中枢神経を焼かんばかりに焦がしていく。
「いぁ〜、そんなのッ、うぅあっ」
 修一も、止まったり動いたりする凛太郎の手の動きに陶然とした表情を見せていた。ぎこちない予期しない動きでクニクニと亀頭を扱かれ、目の前には下を向いているにもかかわらず殆ど型崩れしない乳房。興奮しない訳が無かった。もし修一が顔を上げていたならば、快感に目を瞑り、身もだえしつつも耐えている美少女の姿を見て、直ぐにイってしまっていたかも知れない。
(なんか、リンタに攻められてるって感じが、めちゃくちゃ興奮するっ)
 修一は少し違った方向で感じながら、柔らかで滑らかな乳房を頬張り堪能していた。口いっぱいに頬張った乳房の先端はもう固くなりコリコリとした舌触りを楽しませてくれる。ぺったりと舌を乳首に着けてしまうと、赤く色づいた乳首は乳房の中に潜っていく。そしてそうするとほんの少し開き白い歯を見せる凛太郎の唇から甘い吐息が漏れる。
「はッあ……」
 堪らない快楽の嵐が凛太郎に再度訪れていた。感じないようにと思えば思うほど神経が集中してしまう。修一をイカセてしまえばと思っても、全身が悦楽に犯され始め筋肉が上手く動いてくれない。どんどん高ぶってくる性感は、凛太郎を追い詰めていた。
「っふあン!」
 ショーツ越しに肉の宝珠を摩っていた修一の指が、無遠慮にショーツの中に入っていく。
(あぁっまたっ、イカサれちゃうよぉ。感じてるなんて、見られるなんてっヤダあ)
 浅ましい、快楽に耽る姿を修一に見られたくなかった。自分が淫乱だとバレてしまう。既に一度イッている姿を見られていると言うのに、凛太郎はそんな事を心配していた。修一に、女の子としてイかされるのはやはり羞恥心を掻き立てられてしまう。男としてイかされるのは問題があったが。
「すげっ、さっきよりぬるぬるだ」
 とろとろに溶けた秘裂に押し入った指を、修一はクリトリスから膣口へ移動させた。凛太郎の乳首をちゅっと吸い上げつつ、胸元から囁いてくる。その声と二箇所の濡れた愉悦に凛太郎は「ンう」とくぐもった声を出していた。
 ヌルっと修一の指先が凛太郎の中に侵入すると、腰がぶるっと震えてしまう。凛太郎は唇を強く結び声を上げないようにしていた。
「リンタ、ここ、気持ちいいか?」
 修一は胸元から顔を上げ、凛太郎の正面に向いて聞いて来る。その、あからさまな問い掛けに凛太郎はぷいっと横を向いてしまう。とてもじゃないけれど、正面から修一の顔を見られなかった。
「…………よくないのか? じゃ、これは?」
 膣に食い込んだ指が、お腹側の壁を擦っていく。刹那、凛太郎の膣は修一の指を喰い締めるように収縮し、その刺激がまた凛太郎を支配していった。
「いっ? やあっ、だめッて、そこ、弱っあぁんン!」
 下半身はぬるぬるした液体の中の嵌ってしまったような感覚。凛太郎の快楽の肉穴から湧き出た愛液は、腿と修一の手を伝わり作業棟の埃っぽい床に泉を作っていた。辛うじてスカートに付かなかったのは幸いだったけれど、もう秘裂もその奥もぐちゃぐちゃになっていた。
 攻め立てる修一に、凛太郎の手は既に疎かになって動きを止めている。修一は自分の刺激を求めて、凛太郎の手が作った丸い穴を凛太郎の膣に擬えて腰を振り始めた。ついでに指の動きも腰に連動させて。
「はっ、あっ、リンタっに、挿れてるっみたいっん、だなっ」
 自分を攻め立てている指は、修一のペニス。そんなイメージが凛太郎の脳裏で大きく膨らんでいく。ぐちゅぐちゅと、凛太郎の秘裂から流れ出る愛液と、修一の鈴口から滲み出す粘液の音。それも興奮を増していく二人にとって、絶妙なスパイスとなっていた。
(あっあっ、修ちゃんっがぁ、僕の中でっ暴れてっ、うんんっもう、ダメっ!)
「しゅっ修ちゃんっもっやっあっあっあっ!」
 感極まった凛太郎は自分から修一の唇を求めてしまった。凛太郎が修一の舌を求めれば、修一も負けじと凛太郎の口内を犯していく。大量の唾液が嚥下されずに二人の口元から流れ出る。
(もうっイクっ、ダメッ、アっあッ、またっ、きちゃうぅ!)
 激しく凛太郎の肉穴を出入りしている修一の指をぎゅーッと締め上げる。あと一歩で達してしまう、というところで修一の指が快楽を貪っていた穴からスルリと抜け出て行ってしまった。
(え? あ、あ、やだっ、なんで? 僕もうちょっとで……)
 イキかけていたところでオアズケを喰ってしまった凛太郎は、戸惑いを隠せなかった。修一の唇から少しだけ離れ、目を大きく見開きながら修一の目の表情を追ってしまう。
「……修ちゃん………………あっ?!」
 修一の左腕が背中を移動し、凛太郎の後頭部を掌で軽く押さえたかと思うと、くるっと修一が態を入れ替えてしまった。ぴったりと足を閉じた凛太郎に、修一が跨る格好。凛太郎はぶら下がる修一の肉銃を握ったまま下に組み伏されていた。突然の事にドキっとしてしながらも、どこかで何かを期待する心理が働いていた。
「……リンタが掴んでるコレ、欲しくないか?」
 小さく「あっ」と叫んで凛太郎が手を離す。じっと見つめてくる修一の目に吸い込まれそうになってしまう。思わず「うん」と言いそうになったけれど、首をぶんぶんと振った。
「べ、別に、欲しくないし……」
「ここにだぞ?」
 また修一の手が股間に入ってくる。足を閉じていたのに力が入らないのを見越していたのか、ちょっと強引に肉芽をこすりながら指を差し入れて来た。
「ふあっん、やっ、しゅう、卑怯っ」
 腰を跳ね上げてしまいつつも、必死に耐えようとする凛太郎。そこにまた修一が追い討ちを掛けた。
「お前さっきイキそうだったろ。もう、堪らなくなってないか? 俺はもう堪らん。リンタが欲しいよ」
 卑怯で強引で姑息で身勝手で。それでも凛太郎の一言が無い限り最後の行動に移さない修一。大好きだけれど、どうしてもその一言は言えなかった。最後までしたら、自分の中で何かが確実に変わってしまうと凛太郎は本能的に思っていた。
 身体の疼きを我慢しながら、凛太郎は言葉を慎重に選び口を開く。
「修ちゃん、大好きだからさせてあげたいけど、してもいいかもって思うけど、心の中に男の僕がまだいるんだよ。だから……」
「それでもいい。男でも女でもリンタがいい。リンタとしたい」
 その一言は凛太郎にとっては衝撃だった。たとえそれがヤリタイ一心で出た言葉だったとしても、「凛太郎」自身を見ているという言葉だったのだから。
「や、えぇっ? でもっ……」
 修一の気迫に押され、「いいよ」と言ってしまいそうになったその時、渡り廊下近くの作業棟の扉を開く音、そしてサンダルの音が聞こえてきた。
「「!」」
 心臓が凍りつくような一瞬。凛太郎も修一もその場で動けなくなってしまう。サンダルの音が近づくにつれ心が動き始めた。
「み、見回り?」
「しっ。あっちの陰、音立てるなよ」
 震える小声で凛太郎が聞くと、修一が直ぐに行動を促した。しかしこの場合どう考えても移動に時間が掛かるのは修一だった。何しろパンツもズボンも脱いでいるのだから。
 部屋の奥には防具入れを山積みにした箇所があった。その奥は丁度人が隠れるに適したスペースがある。凛太郎はショーツを引き上げながら、隣の部屋に入っていった人物の足音に注意しつつ隠れた。修一が下半身丸出しで周囲に散らばった服をかき集めている。
「………………かっこ悪い……」
 冷静な判断でその姿を見るとなんだかさっきまで盛り上がっていた気持ちが急に冷めてしまった。忍び足で修一がやって来ると、その姿を横目でちらっと窺う。修一は凛太郎の視線に気づかず手早くパンツを穿きズボンに足を通した。
「……なんだよ?」
 ふっと修一が凛太郎を見る。少しばつの悪そうな表情に、凛太郎は顔色を変えずに言った。
「何でもない。……こんな時間に誰だろう?」
 我ながらおばかな質問だと思ってしまう。こんな時間に校内をうろうろしてるのは見回りの教師に決まっている。しかし修一はその問いにも真面目に答えていた。
「ん、見回りだと思うけど、誰かはわかんねぇな。鬼じゃない事だけ祈ろうぜ」
 ひそひそ話をしていると、サンダルの音が近づいてくる。手にフラッシュライトを持っているのだろう、扉の隙間から光がのぞいた。
「! 頭さげろ」
「!」
 ガラっと大きな音がして強烈な光が室内を照らし出した。若い男女の性の匂い。扉を開けた瞬間にムワッとしたそれが見回りをしていた人物の鼻腔を撫でていく。久しぶりに嗅いだその匂いに少し顔を顰めた。そして。
「誰かそこにいるでしょ? 隠れてないで出てらっしゃい」
 凛太郎は良く知った声に、心臓がドクンと大きく鳴った気がした。今日の見回りは谷山だ。既に誰かいると解っていたのか、自身満々の声だった。その声に吊られ凛太郎は立ち上がり掛けていたが、横を見ると口元に人差し指を立てにあて、修一が首を振っている。凛太郎はそのまま足の力を抜いた。
 緊張感漂う室内の時間は、外とは違った時の流れ方をしているようだった。一秒が一分にも感じる。不意に辺りが暗くなった。谷山がフラッシュライトを消したのだ。
「……なーんて、誰もいないか。ったく今の高校生ってのは。学内でヤルか普通……」
 そのまま「あたしもご無沙汰なのに」とぶつぶつ言いながら扉を閉めて行ってしまった。ペタペタとサンダルの音が遠のき、やがてまた静かな空間が戻ってきた。
「ふうーっ。焦ったなぁ」
 修一がにやつきながら凛太郎を見る。凛太郎は大きく息を吐きながら身体の緊張を解いていた。
「……はぁ、これで見つかってたら、絶っっっ対修ちゃんのせいだよ。もう、こんなとこ早く出よう」
 ぷくっと頬を膨らませながら勢い良く立ち上がる凛太郎に、修一がその袖を掴んでちょっとだけ留めようとした。
「なに? 早く帰ろうってば。パンツも気持ち悪いから早く着替えたいし」
 修一は、なんだか凛太郎の色気の無い言い方に苦笑しながら、少し切なそうな顔をした。
「あー、続きしない?」
 探るような、媚びるような目で凛太郎を見つめて言う。しかし凛太郎は間髪入れなかった。
「やだ。もう覚めちゃったし。ほらっ早く立って。帰るよ」
 実際にはまだ身体の火照りは冷めていなかったけれど、ぐずぐずしてるとまたなし崩し的になってしまう。タイミングよくか悪くかは解らないが、谷山の登場で凛太郎は流されずに済んだだけだ。
「ぅ〜、まだ一回しかイってねーのに……」
「なんか言った?」
「いいえ、なんでもないですよっ」
 修一も多少悪かったと思っているのか、それ以上は言ってこない。ちょっとだけ可哀想かなと思い凛太郎は、軽く微笑みつつ修一の方に手を差し出した。その表情が修一の目に留まったのかは解らなかったけれど。
「いこ」
 その手を修一がきゅっと握る。
「ああ、ちゃんと送るよ」
 二人で手を繋ぎながら扉を開ける。周囲を注意深く見ながら、大急ぎで自転車置き場まで走っていった。


(その3へ)

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